15.誕生日

 明日は玲依ちゃんの誕生日。残念ながら平日だし、玲依ちゃんの仕事が終わるのは遅いからデートは出来ないけれど、彼女になってくれてから初めての誕生日を1番にお祝いしたかった。


 週末は玲依ちゃんのお家にお邪魔して一緒に過ごすことが定番になってきて嬉しい。

 玲依ちゃんが終わるまで時間を潰していようかと思ったけれど、遅くなるから帰ってて、と言われたから1度家に帰った。平日に会社で会うことはないからなんだか緊張する。金曜日も本当は会社まで迎えに行きたいけど最寄り駅までで充分って断られてるし。


 仕事が終わるのを会社の外で待っていると、玲依ちゃんが出てきて、後ろから私と同年代かなって位の男性が駆け寄ってきた。かっこいい、って感じより可愛い系男子。


 玲依ちゃんは紙袋を持っていて、男性がしきりに話しかけている。これはどうするべき……?


 私が迎えに来ることは知っているし、浮気とかそういうことは全く心配していないけれど、同じ会社の人だし、強引に割り込んでいって玲依ちゃんに迷惑をかけるのもな、と悩んでいたら周りを見渡した玲依ちゃんと目が合った。

 あ、手招きしてる。かわい……


「お荷物お持ちします。遅い時間ですし、お送りします!」

「ありがとう。でも、いつもと同じ時間だし大丈夫。それにもう迎えが来ているから」


 近づけば、玲依ちゃんは男性の申し出を断っているようだった。


「お疲れ様。持つよ」

「侑、ありがと」


 玲依ちゃんに声をかけて紙袋を持とうと手を出せば、私の好きな笑みを浮かべてすんなり渡してくれて、なんだか凄く優越感というか、頼られている気がして嬉しい。


「え……? なんで山崎さん?」


 ポカーンとした表情をして見てくる可愛い系男子。向こうは私のことを知っているらしいけど、誰だろ??


「同じ課の佐藤くん」

「こんばんは」


 私の疑問は玲依ちゃんが解決してくれたからとりあえず挨拶をすれば佐藤さんは固まっている。


「侑、わざわざごめんね」

「ううん、車だしすぐだから」

「ありがと」


 私を見上げて、はにかむ玲依ちゃんは本当に可愛い。でもそんな可愛いところを佐藤さんに見られちゃったのは嫌だな……


「じゃあ、また明日。お疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様でした……」


 まだ呆然としている佐藤さんに会釈をして玲依ちゃんと歩き出せば、腕を絡めてきてビクッとしてしまった。まだ見える範囲だけどいいのかな……?


「玲依ちゃん?」

「ん?」

「あの、腕……」

「あ、いや?」

「嫌じゃないっ!!」


 離されそうになって慌てて否定すればくすりと笑われた。仕事終わりの玲依ちゃん、大人のお姉さん感が凄い……!!


「ね、さっきの人って」

「帰るタイミングが一緒で。送ろうとしてくれてたみたい」

「そっか……なんかさ、年下感満載というか、可愛い系男子だったよね。玲依ちゃん、ああいうタイプ好き……?」

「んー、特に歳下が好き、って訳じゃないからな……慕ってくれるのは嬉しいけど、それ以上はないかな」

「そっか」


 良かった。ライバルは増えて欲しくない。自分に自信なんてないし……


「これ、プレゼント?」

「うん。明日有給の子達から貰った」


 紙袋を少し掲げて見せれば頷く玲依ちゃん。やっぱり人気なんだなぁ。明日はどれだけ貰うんだか……



「侑、おかえり」

「……ただいま」


 なんかこのやり取り照れる……

 先に玲依ちゃんを送るつもりだったけれど、玲依ちゃんが一緒に居たいと言ってくれたから家に車を置いて2人で歩いて帰ってきた。


「あー、疲れたぁぁ」

「玲依ちゃん、お風呂はどうする?」

「もうちょっとのんびりしてから入るー」

「勝手に準備しちゃうよ? 着替えは玲依ちゃん用意する?」

「侑に任せるー」


 家に着くなりソファに倒れ込んだ玲依ちゃんはもう動く気がないらしい。お姉さんモードはもう終わりみたい。

 玲依ちゃん以外にこんな反応をされたら面倒だな、って思っちゃうけど、玲依ちゃんからだと気を許してくれてるんだな、って嬉しくなる。好きな人には尽くしたいタイプだって初めて知った。


 衣装ケースから下着を取ろうとしたけれど、どれも魅力的すぎて、身につけた玲依ちゃんを想像しちゃって動悸が……

 明日も仕事だし、今日は見られないだろうけど私が選んだ下着を身につけていると思うとやばい。私ってこんなに変態だったかな……


 準備を終えてリビングに戻ると、玲依ちゃんはソファで丸まってうとうとしていた。何この可愛い人……


「玲依ちゃん、お風呂行ける?」

「ゆーちゃん、だっこぉ……」


 可哀想だけれどここで寝ちゃうと風邪ひいちゃうし、誕生日の瞬間にお祝いもしたいし起きてもらいたい。そう思ってお風呂に促せば両手を広げて甘えてくる。え、私の彼女可愛すぎません?


「仕方ないなぁ」


 そういう私の顔はきっとニヤニヤしているに違いない。

 抱きあげようとすれば首に手が回されて、玲依ちゃんの顔がぐっと近づいてドキドキする。このままベッドに連れ込みたいけど我慢我慢。


「じゃ、ごゆっくり」

「待って。侑はもう入っちゃった?」


 玲依ちゃんを脱衣所に降ろしてリビングに戻ろうとすれば呼び止められた。


「うん。家で入ってきたよ」


 ゆっくり過ごせるように入ってきたし、玲依ちゃんがお風呂に入っている間に、ケーキの準備をしちゃいたい。車に隠しておいたケーキとプレゼントを玲依ちゃんから預かった紙袋に紛れ込ませてある。ケーキが倒れてないかちょっと心配。


「ふーん」


 何故かもうすぐ誕生日を迎える玲依ちゃんは膨れっ面。


「もしかして一緒に入りたかった? なーんて……」

「うん」

「えっ」


 えっ? 本当に?? 玲依ちゃんとお風呂……いいの??


「ふふ、冗談。期待した? 出るまで起きててね」

「なんだ、冗談か……ぅわっ!?」


 肯定されて焦っていたら、クスッと笑ってシャツのボタンを外し始めたから慌ててドアを閉めた。勢いで一緒に入っちゃえば良かったのに、チラリと覗いた下着に動揺して閉めてしまった。

 今度一緒に入れるかなぁ……



「お待たせー」

「早かったね、って髪濡れてるじゃん。はい、戻るよ」


 ケーキを見られないように、玲依ちゃんに駆け寄って手を引く。


「えー。こっちで乾かす」

「向こうで私が乾かしてあげるから」

「え、いいの? やった」


 玲依ちゃんの髪を乾かしながら時計を見れば、もうすぐで日付が変わる。本当は電気を消してロウソクに火をつけて……と考えていたけれど間に合わなさそう。

 ここで中断したら怪しいもんね……


「玲依ちゃん」

「ん?」


 ドライヤーを止めて玲依ちゃんを呼べば振り向いてくれて、そっとキスをすればきょとん、としている。


「お誕生日おめでとう」

「あれ、日付変わった?」

「うん。変わった」

「侑、ありがとう」

「……ん。後ちょっと乾かしちゃうね」


 嬉しそうに微笑む玲依ちゃんが可愛すぎて直視出来ない……ドライヤーを再開させれば、鏡越しに視線を感じて、私の動揺なんて気づかれている気がした。


「よし、終わり」

「ありがと。歯磨きしちゃおっか」

「あ、玲依ちゃん待って」


 不思議そうな玲依ちゃんの手を引いてリビングに誘導する。


「え、ケーキ!? 買っておいてくれたの?」

「うん。夜遅いけど、フルーツだけなら食べられるかなって」

「うわ……嬉しい」


 箱からフルーツタルトを取り出す。キャラじゃないけど、せっかくだしロウソクも立てて、バースデーソングも歌っちゃおう。


「はい、玲依ちゃん火消してー?」

「うん」

「玲依ちゃん、大好きだよ。毎年こうやって1番にお祝いして、一緒に過ごせたら幸せだなぁ……」

「うん。ずっとお祝いして? 私も侑が大好き。侑の誕生日もお祝いしようね」


 私が思わず呟いた重い台詞にも引かないでくれて、同じ気持ちを返してもらえて、幸せすぎて怖いくらい。


「玲依ちゃん、ありがとう」

「私こそ」

「うん。あー、えっと、食べよっか?」


 じっと見つめてくる玲依ちゃんに理性を揺さぶられて、かなりわざとらしいけれど視線をフルーツタルトに移した。


 フルーツタルトを食べながら、上に乗っているフルーツを食べている玲依ちゃんを横目で見ていたら目が合った。


「侑、気づいてるよ?」

「え、嘘!?」


 ……気づかれていたらしい。気づかれたなら遠慮なく眺めようと身体の向きを変えた。


「侑……」


 玲依ちゃんの呆れたような視線も気にしない。だって可愛いんだもん。


「はぁ……侑、タルト美味しい? ちょっとちょうだい?」

「うん。ーっ!?」


 タルトを口に入れたところで話しかけられて頷けば、玲依ちゃんの唇が重ねられた。しかもいきなり深いやつ……


「ちょっ……れーちゃん!?」

「ん、甘い。ご馳走様」


 ペロリと唇を舐める仕草がエロいし、もぉ……!! 無理なんですけどっ!? 今日は何もせず寝ようと思ってたのに、そんなことされたら耐えられそうにない。


「玲依ちゃん、誘ってる? 誘ってるよね??」

「ゆぅ!?」


 ラグの上に押し倒せば、慌てたように名前を呼ばれた。ここだと背中痛いかな……でもベッドまでは待てない。


「玲依ちゃん、ちょっとごめん」

「ぇっ!?」


 抱き上げてソファに移動して組み敷いて見つめれば、包み込むような笑顔で頬を撫でてくれる。


「侑、可愛い」

「玲依ちゃんの方が可愛い。余裕?」

「ううん、侑の余裕のない顔、求められてるって感じで好きだなぁ」


 うわ、余裕無いのバレてる。恥ず……ぎゅっと抱きしめて顔を隠せば、ポンポン、と頭を撫でられた。押し倒されてるのは玲依ちゃんなのに、なんか悔しい。


「玲依ちゃん、好き。大好き。自信ないけど、優しくする」

「ふふ、自信ないんだ? 正直でかわい……」


 情けないけれど本心。今度は玲依ちゃんに抱き寄せられて、豊かな胸に包まれて幸せ。……って浸ってる場合じゃなかった。

 お姉さんな玲依ちゃんも大好きだけれど、早くその余裕を崩したい。


「ごめん。やっぱり優しくできないかも」

「え……? んっ……ぁ……」


 あっさり前言撤回した私に戸惑う玲依ちゃんの唇を塞いで身体に触れれば、素直に反応してくれて声に煽られる。


 明日も仕事だし、無理させないようにしなきゃ、って思っているけれど玲依ちゃんが可愛すぎて止まれないかもしれない……誘ってきたのは玲依ちゃんだし、いいよね?

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