14. 歳下の恋人

 玲依視点


「玲依ちゃん、こっち向いてー?」

「侑……何枚撮るの??」

「見てー! 画質やばい!! 玲依ちゃん可愛すぎるー!」


 聞いてないし……お昼を食べ終わってから、携帯ショップに出かけて宣言通りにスマホを新しくして、電話番号も変えた。

 家に帰ってきてからも画質の良さに興奮していて、私の写真を撮ってはしゃいでいる。無邪気な侑も可愛いけど、そろそろ写真の自分にすら嫉妬しそう。


「侑、一緒に撮ろうよ」

「うん!」


 嬉しそうに近づいてきて、横に座って肩や腰を抱いてきたり、頬をくっつけてくる。少し前は写真にちょっと抵抗がありそうで、慣れてなかった侑とは思えないくらい積極的になったよね。


「ちょっと、ゆぅ! 今撮った!?」


 侑の唇が頬に触れた瞬間、シャッター音がした。侑を見れば、イタズラが成功した子供みたいな顔で笑っている。


「私絶対間抜けな顔してた……」

「え、可愛いよ! 玲依ちゃんの写真が増えて嬉しいなぁ。ほら、見て? これとか物凄く可愛い」


 写真を見ながらニヤニヤしている侑のスマホを覗き込めば、私の写真ばかりでなんだか恥ずかしい。


「撮りすぎじゃない? 写真撮るの好きなの?」

「うん。人じゃなくて、空とか、風景を撮るのが好き。今は玲依ちゃんを撮るのが好き」

「見ても大丈夫?」

「もちろん」


 沢山ある写真を見せてくれて、一つ一つ場所を説明してくれる。


「色んなところに行ってるんだね」

「うん。夜中に思い立ってドライブしてた時に、せっかくならどっか行こうかなって思ったのが最初。今は車中泊グッズも充実してるよ。今度一緒にどう?」

「車中泊?」

「そう。あ、でも1人分しかないや。玲依ちゃんのも買っておくね……ってまだOK貰ってなかった」


 ちょっと先走っちゃった、って照れくさそうに笑う侑が愛しい。侑とならどこでも楽しめる気がする。


「色んなところ連れてってね?」

「うん。任せて! ぁー、でも、玲依ちゃんと車中泊か……襲っちゃったらごめんね?」

「……やっぱり行くのやめようかな」

「えぇ、そんなぁ! なんで離れるの!? れーちゃん、ごめんってー!!」

「ふふ」


 距離を取れば、情けない顔の侑が可愛くて笑ってしまった。あ、写真撮っておこう。


「れーちゃん、なんで撮るの……」

「ん? 可愛いなぁって。私ばっかり撮られてるし」

「子供扱いしてるでしょ」


 拗ねたような顔をして立ち上がって、キッチンの方に歩き出したから、後ろから抱きつけば足を止めてくれた。


「拗ねたの? ゆーちゃん」

「……だってれーちゃん、行きたくないんでしょ?」


 横から覗き込めば、拗ねてるけど、追いかけてきてくれて嬉しい、みたいな複雑な表情をしている。こういう所は歳下だなぁ。


「侑と一緒に行きたいよ。連れてって?」

「……っ、玲依ちゃん!!」

「んぅ!? ゆぅ……っ」


 身体の向きを変えて、さっきまでしょんぼりしていたのが嘘みたいに熱い視線で見つめられて、唇が重ねられた。歳下で可愛いらしい侑はもう居ないみたい……


「あんまり誘惑しないで……? いつだって玲依ちゃんを抱きたいし、耐えられなくなるから」


 ぎゅっと抱きしめられて、耳元で囁かれる余裕が無さそうな声にドキドキする。

 侑に求められるのは素直に嬉しい。侑がまだ居てくれるなら、これから夜ご飯の支度もしたいし、抱かれる訳にはいかないけれど。


「侑、可愛い。今日も夜ご飯食べてくでしょ?」

「いいの?」

「うん。そのまま泊まってほしいけどさすがに2日連続はダメだよね……」

「玲依ちゃんが嫌じゃなかったら泊まりたい」

「お母さん、待ってるんじゃない?」

「……私が帰ってこないなんて今更だし、もう22だよ? 平気。向こうも夜勤かもだし」


 うーん、お母さんともあんまり上手くいってないのかな……


「そっか」


 私が複雑な表情をしたのに気づいたのか、少し悩む仕草を見せたけれど、真っ直ぐ見つめてくる。


「あのね……楽しい話じゃないんだけど、聞いてくれる?」

「うん」


 侑が話してくれるなら、例え嫌な思いをしたとしても、どんな話だって聞きたい。でも、この体勢のままなのは失敗したなぁ。抱きしめられているから侑の顔が見えない。


「私の顔、父に似てるって言ったの覚えてる?」

「うん」

「父が出ていってから、母とも気まずくなって会う時間は減っていった。私が隠し通せていたら今まで通りだったのかな、って考えたりして。バイトを増やしたり、誘われれば遊んだりであんまり家に居なかったけど、たまに会うと私の顔を見て辛そうな顔をしていて、父を思い出してるんだろうなって複雑で。今思えば、グレた? 娘を心配してのことだったのかな、って思うけど……」


 ふぅー、と息を吐いている侑の背中を撫でれば、ふっと笑った気配がした。


「母から嫌われてる、って思ったことは無いけど、遊んでたらいつか大切な人が出来たら後悔する、って言われたり説教されるのが面倒で避けてて……本当にその通りだったんだけど、当時はとても受け入れられなくて、余計反発するように遊ぶ頻度が増えて……長いこと避けてきたから、今更どう接したらいいのか分からない、っていうのが正直なところかな」


 ちら、と私の反応を伺いつつもお母さんへの思いを教えてくれた。当たり前の日々が壊れる辛さは私には分からないけれど、これからの侑を支えたいなって強く思った。


「そっか」

「嫌いになってない?」

「ん? なんで?」

「玲依ちゃんと出会う前の私は相当最低な人間だったから……嫌な思いさせてるよね」


 自分で聞いておきながら私の答えを聞くのは怖いのか、私の方におでこをつけて顔を上げようとしない。可愛いな……

 付き合う時に、受け止めるって言ったのにやっぱり嫌になったんじゃないかって不安になるらしい。


「嫌じゃないって言ったら嘘になるから言わない」

「……うん」


 侑から少し離れればしゅんとした顔で見つめてくる。こんな侑も可愛いけど、不安そうだしあんまり意地悪したら可哀想だよね。


「でも、もう私だけなんだもんね?」

「もちろん!」

「なら良し」


 おいで、と両手を広げればぎゅっとしがみつくように抱きついてきて、私の首筋に顔を埋めてくる。甘えてくる侑が愛しいなって改めて感じた。

 しばらくこの体勢でいたけれど、だんだん侑が落ち着かなくなってきたかと思えば、首筋に唇が触れた。


「……んっ、侑……」

「あー、声やば……玲依ちゃん、ダメ?」

「だめ」

「だよねぇ。ふぅーっ」


 深呼吸している侑が可愛らしい。聞き取れないけど、なんかぶつぶつ言ってるし。


「あ、そうだ。れーちゃん、来月のお誕生日、一緒に過ごしてくれる?」


 え、いきなり? 侑の中でどんな整理がされたんだか。


「いいの? あ、でも平日……」


 一緒に過ごしたい、と言って貰えるのは嬉しいけど、侑の負担にならないかな?


「ちゃんとしたお祝いは休みの日にするけど、1番にお祝いしたい」

「うん。ありがとう。……あれ、侑に教えたっけ?」


 もうその気持ちだけで嬉しい。でも、来月が誕生日だって侑には言ってなかったような……


「連絡先アプリのプロフィールに入ってたよ」

「あぁ。そっか……誕生日、嫌だなぁ……」

「なんで??」


 今は6歳差だけど、7歳差になっちゃうし。来月には29歳かぁ……侑はまだ22歳だもんね。若いなぁ。


「だって29だよ? それじゃなくても歳が離れてるのに……今更だけど、若い子じゃなくていいの?」

「え? むしろ私の方がこんな歳下でいいの? って思ってる。歳上の魅力的な人が出てきたら負けるなぁって、正直不安」

「私は侑がいい」

「私も玲依ちゃんがいいよ」


 お互い顔を見合わせて苦笑した。思っていることは同じだったみたい。


 侑が離れたがらないからご飯の準備は後回しにしてソファに座れば、さっき不安になったからなのか、侑は私の膝に頭を乗せて、腰に手を回してお腹に顔を埋めてくる。


「ゆーちゃん、甘えたなの?」

「玲依ちゃんいい匂いで安心する」

「少し眠る?」

「うん。れーちゃん、ちゅーしたい」


 可愛すぎ……侑って甘え上手だよね。攻めてくる時とのギャップが凄い。


 キスをして満足気な侑の頭を撫でながら、今日の夜ご飯は簡単なメニューにしようかな、と考える。少しでも長く可愛い侑を堪能したいし。



「れーちゃん、すき……」


 気持ちよさそうに眠っている侑の寝言を聞いて幸せな気持ちになる。年の差は埋められないし、不安になることもあるだろうけど、ちゃんと話し合って2人で乗り越えて行けたらいいな。

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