8.嫉妬

 玲依視点


 ゆうちゃんに待ってて、と言われてから約2週間、ほぼ毎日電話をして、色々な話をした。今日は日曜日だけれど休日出勤で、午後からゆうちゃんに会えることになっている。

 ランチに誘ってくれたってことは、全部綺麗になったってことなのかな?



 休日出勤を終えて同じチームの川上さんと会社を出れば、ゆうちゃんが待っていてくれた。私を見つけてぱあっと笑顔になるゆうちゃんが可愛い。


 私とゆうちゃんが知り合いだったことに川上さんが驚いているけれど、私は川上さんがゆうちゃんを知っていることに驚いた。そういえば、ゆうちゃんも有名人って言ってたっけ……


 川上さんと別れて駅に向かおうとすれば反対方向に誘導されて、ゆうちゃんはすぐ近くのコインパーキングに入っていく。近道かな、なんて思っていたら、1台の車の前でゆうちゃんが立ち止まった。車には詳しくないから車種とかは分からないけれど、スタイリッシュでかっこいい。車体の色は黒で、洗車したばかりなのかピカピカだった。


「玲依さん、どうぞ」

「え?? これ、ゆうちゃんの車??」

「はい」


 助手席のドアを開けてくれるとか、ゆうちゃんイケメンすぎない? 慣れてるわー


「ちょっと待っててくださいね」


 助手席に座ると、ふわりとムスク系のいい匂いがした。この匂い好きだなぁ。



「お待たせしました」

「駐車料金、いくらだった?」

「私が迎えに来たかったのでいいんですよ。はい、戻して」


 お財布を取り出そうとすれば、優しく笑うゆうちゃんと目が合って、上からそっと手が添えられた。こういうことサラッとするからモテるんだよ……


「あ、えーっと、出発しますね」


 慣れてる、と思ったばっかりだけど、パッと手を離して髪を触っていて、もしかして照れてるのかな?



「ゆうちゃん、車持ってたんだね」

「はい。車を買ってから、趣味は洗車とドライブです」

「そうなんだ……」


 今日のために洗車をしてくれたんだろうなって嬉しくなったけれど、運転してるゆうちゃんはカッコよすぎて、今までの遊び相手のこともこうして助手席に乗せたのかと思うとなんだかモヤモヤする。過去も含めて受け止める、なんて言っておきながら嫉妬するなんて、と思うけれど嫌だった。


「玲依さん、車苦手でした??」

「ううん。……色んな人を乗せたのかなぁって」

「え?」

「ごめん、なんでもない」


 心配そうに聞かれたから思わず本音が漏れてしまったけれど、こんなこと言われても困るだけだよね。


「乗せたのは同期くらいですね。遊んでた人達は私が車を持ってることも知らないと思いますよ」

「そうなんだ」


 私の考えなんてお見通しだったのか、遊び相手は乗せたことがない、と教えてくれた。

 嫉妬なんて嫌じゃなかったかな、とゆうちゃんを見れば何となく口元が緩んでいるように見えて、嫌がられていなさそうで安心した。


「ゆうちゃん、車好きなの?」

「はい。免許だけでもすぐに取りたくて、高校の時にバイトして教習代をずっと貯めてて。車はさすがにすぐには買えなかったですけど」

「バイトして貯めたなんて偉いね」

「……母に頼りたくなかっただけなんですけどね。まあ、今実家暮らしの時点で頼ってるんですけど」


 お母さんの話をするゆうちゃんはなんだか辛そうに見えた。ゆうちゃんが遊んでた理由は家族にあるのかな……いつか話してもらえたらいいけど。


「そっか。この車、かっこいいね」

「気に入ってくれました? カタログを色々取り寄せて、乗るならかっこいい車がいいな、って。最終的にはミニバンかSUVで迷って、SUVにしました」


 嬉しそうに車のことを話すゆうちゃんはなんだか可愛い。


「へー、SUVって言うんだ? 詳しくなくて」

「興味無いと知らないですよね。玲依さんは免許持ってるんですか?」

「うん。身分証にしか使ってないけどね」


 もう何年運転してないんだろう? 運転出来る気がしない。


「今度これ運転してみます?」

「え!? 無理無理!! 絶対ヤダ!」

「あはは、そんなに?」


 こんな大きい車なんて絶対無理。ゆうちゃん笑ってるし……


「お店見えましたよ。お、駐車場空いてる」


 お店の駐車場にスムーズに車を停めて、お腹すきましたねって笑うゆうちゃんに見惚れてしまった。


 予約をしてくれていたからすぐに案内されて、メニューを開けばどれも美味しそうだった。


「どれも美味しそうだね」

「このお店2回目なんですけど、ハンバーグが美味しかったです。今日は違うのにしようかな……悩む」

「じゃあ、私はハンバーグにする」

「わ、玲依さん決まるのはや……うーん、オムライスもいいなぁ」


 メニューを見ながら唸っていて、こうやってご飯に来るのは2回目だけれど、意外と優柔不断なんだよね。


「ゆうちゃん、ハンバーグ半分食べる?」

「いいんですか!?」


 笑顔が眩しい……喜んでくれるのは嬉しいけど、隣の席の女の子が釘付けだからちょっと抑えて?


「うん。ゆうちゃんはオムライス?」

「はい。オムライスも半分こしましょ」


 にこにこしながら店員さんを呼んで、私の分も注文してくれた。

 少し待てばハンバーグとオムライスが運ばれてきて、どっちも美味しそう。


「半分に分けちゃっていいですか?」

「あ、写真撮ってもいい?」

「どうぞ」

「ゆうちゃんも写って、って言ったらヤダ?」

「え?? うーん、写真か……玲依さんにならいいかな。写真撮られるのとか久しぶり」


 ちょっと抵抗があるみたいだったけど、照れながらも写ってくれて、何気なく言われた私になら、という言葉に遊び相手には撮らせなかったんだなって思って嬉しくなった。


「私も玲依さんの写真欲しいです。隣行ってもいいですか?」

「うん」

「自撮りなんて久しぶりです。うわ、撮りづら……」


 慣れてない感じが可愛い。一緒に撮りたい、って思ってくれるのが嬉しい。


「ゆうちゃん、ここのボタン押すと撮れるよ」

「あ、ここシャッターなんですね!」


 中腰になって、頬が触れるんじゃないか、ってくらいゆうちゃんが近づいてきて、初めて2人での写真を撮った。

 ゆうちゃんが正面に戻ってからもまだドキドキしてるよ……


「いただきまーす。んー、美味しい! オムライスにして正解でした!」

「いただきます。うん、美味しいね」


 焼肉の時も思ったけど、ご飯を食べている時のゆうちゃんは可愛すぎると思う。かっこいいと可愛いのギャップが凄い。


「玲依さん、デザート頼みますか?」

「私はもうお腹いっぱい。ゆうちゃんは頼んだら?」


 デザートも迷うんだろうな、と思っていたら盛り合わせを見つけて、すぐに注文していた。

 美味しそうに食べるゆうちゃんを眺めていたら、目の前にスプーンが差し出された。あーん??


「1口くらいなら食べられます? バニラアイス美味しいですよ」

「……ん、美味しいね」

「他のも食べてみます?」

「じゃあ、ケーキ貰っていい?」

「もちろん! はい。美味しい??」

「うん」


 ケーキも甘いけど、何よりもゆうちゃんが甘い。こんな事されたらみんな惚れちゃうって。もう隣の席の女の子はゆうちゃんのことしか見てないって言うくらいずっと見てるし、今まで何人の女の子を誑かしてきたんだか……



「ここですか?」

「うん。ここの5階」


 この前ご馳走になったから、ってお会計はゆうちゃんが済ませてくれて、車で家まで送ってもらった。

 今日かな、と思っていたけれど、何もなさそう、かな……


「今日はありがとう。ご馳走様。じゃあまた……」

「玲依さん、待って。もう少しだけ時間貰ってもいいですか?」


 車から降りようとすれば、真剣な表情のゆうちゃんに呼び止められた。


「うん。良ければ家来ない?」

「……いいんですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます。車置いて、すぐに戻って来ますね」


 そっか、車……私は車を持っていないから、駐車場の契約をしていない。


「ごめん、車のこと考えてなかった」

「大丈夫です。先にお家に入っててください」

「うん。待ってる」

「はい」


 私がマンションの入口に入るのを外に出て見送ってくれて、車を置きに帰っていった。

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