試着(後)

 フォトウエディングの相談で電話をしてみれば、凄く対応が良くて、絶対ここにお願いしたいと思った。その印象の通り、雰囲気がとても良い。


 玲依ちゃんのドレスが無事に決まって、カメラロールはドレス姿の玲依ちゃんでいっぱい。

 ヘアメイクもまだなのにこんなに綺麗でどうするの? 試着室のカーテンが開いて玲依ちゃんを見た時、色々込み上げてきて泣くところだった。気づかれてないと思いたいけど、優しい目で見てきたからきっと気づいてるんだろうな。

 当日の私、大丈夫かな? 



「パンツスタイルって思ったより色々あるんですね」

「そうですね。スカートを組み合わせたりも出来ますし、ベールをかぶればまた印象が変わりますよ」


 玲依ちゃんが私の衣装を選んでくれているけれど、何だか落ち着かないから玲依ちゃんの家族とのグループトークに写真を送ることにした。

 今日試着をすると伝えていて、写真を送ってと言われていたけど、玲依ちゃんのだけでいいよね。


 ”予定通り、試着に来てます。玲依ちゃんが美しすぎて語彙力崩壊しました”と……よし、送信。


 ピロン

 千紗姉【侑ちゃんの写真は?】


 うわ、千紗姉早い。

【玲依ちゃんが選んでくれています】


 ピロン

 お義父さん【よく似合ってる】

 お義母さん【あらー、どれも素敵。侑ちゃんの写真も待ってるわね】

 蓮兄【スタンプ】


「ふふっ、蓮兄……!」


 蓮兄から某キャラクターが号泣しているスタンプが来て笑ってしまった。そんな蓮兄に家族からのツッコミが入ってトークが続いていく。


「侑、楽しそうだけどどうしたの?」

「あ、ごめんね。これ」

「どれ? わぁ……蓮兄スタンプしか送ってきてないじゃん」

「気持ちはめちゃくちゃ分かる」

「ふふ、泣きそうだったもんね?」

「……やっぱり気づいてた?」

「うん」


 だよね。気づかれてると思ってた。慈しむように見つめてくる玲依ちゃんの目を見れなくて逸らせば、そんな私を見て優しく笑ってくれた。



「侑、かっこいい……」

「へへ」


 玲依ちゃんから最初に渡されたのは、ジャケットとパンツのセットアップ。自分でも結構いいんじゃないかな、なんて思ってたら玲依ちゃんがかっこいいって言ってくれたからニヤニヤしてしまった。


「凄く似合う。こっちのワイドパンツの方も着てもらってもいい? あ、写真撮ってからね」

「え、私は写真いいよ」

「だめ」

「あ、はい」


 色々と指示を出されて、その通りに動く。恥ず……


 ワイドパンツの方も好評だったけど、しばらく悩んでいた玲依ちゃんが選んだのはジャケットの方だった。まずは衣装が決まって良かった。

 最高の一日になるように当日までしっかり打ち合わせをしよう。



「ふぅー、玲依ちゃん、今日はお疲れ様」


 家に帰ってきて、ソファに座れば意外と疲れていたのかため息が漏れた。


「侑もお疲れ様。色々と調整してくれてありがとう」

「ううん。当日、楽しみだね」

「本当に。エステ通おうと思うんだけど、一緒に行かない?」

「ええ? 私はいいよ。肌の露出ほとんどないし」

「……侑と一緒に行きたいな」

「っ!? 行きます……」


 上目遣いでお願いされて、断れる人がいるんだろうか? 私には無理だ……あざとい……可愛い……好き……


「やった! 予約しておくね」

「はい……」


 エステに行ったらもっと綺麗になるってことでしょ? 鎖骨とか背中とか、本当に綺麗で、今日まで痕を付けないように自制するのが大変だったのに。

 エステの前は痕をつけたら怒られちゃうだろうしな……まだ予約も入れてないし、今日がチャンスなのでは?


「玲依ちゃん……」

「ん? どうし……っん……」

「ドレス、本当に綺麗だった。ねぇ、付けてもいい?」


 首筋にキスをすれば、ふるり、と震えて声が漏れて煽られる。


「んっ、待って、首はだめ……」

「うん。分かってる」


 シャツをずらして、鎖骨に痕を残す。このままベッドに連れていったら怒るかな……


「玲依ちゃん、いい?」

「これから夜ご飯の準備……っ」

「私が作るから。ドレス姿の玲依ちゃんが綺麗で、ずっと触れたくて。ねぇ、だめ?」

「ここじゃ嫌。ベッドに連れて行って?」

「……っ、うん!」


 仕方ないな、というように笑って首に腕が回された。あー、もう、好きです……



 *****

 玲依視点


 目を開ければ、優しい目で私のことを見ていた侑と目が合った。


「私、寝てた?」

「うん。ちょっとだけね。ご飯作ってくるけど、もう少し寝る?」

「行っちゃうの?」

「……っ、かわっ!! お腹すいたでしょ?」

「なんか頼も? ここにいて?」

「あぁ、かわいい……」


 離れたくなくてそう言えば、顔中に口付けが降ってきた。このままスイッチが入っちゃいそうな目をしてるな……若さって凄い。


「ゆーちゃん、スマホとってー」

「待ってね……はい」

「お寿司食べたいな」

「いいね。あ、ここ美味しそう」

「ここにしてみようか……っ、侑? この手は何かな?」


 スマホを覗き込んで一緒に選んでいたはずなのに、鎖骨に唇が寄せられて、手は胸に触れている。


「もう無理だからね」

「えぇぇぇ、だめ?」

「そんな可愛い顔してもだめ」

「はぁーい。じゃあ、ギューだけ」


 ちょっとしょんぼりしたけど、すぐに復活してギュッと抱きついてきたから頭を撫でれば、目を閉じて気持ちよさそうに目を瞑った。


「あー、ダメだ。玲依ちゃん、服着よ」

「素肌気持ちよかったのに」

「玲依ちゃんがダメって言ったのに、誘ってるの?」

「もう本当に無理だって」

「だよねぇぇ。着替えよ……見てないで玲依ちゃんも早く服着て! 襲われたいの?」


 眉を下げてベッドから出て、着替える侑を見ていたら怒られた。これ以上は本当に無理だから大人しく言うことを聞いておこう。



「玲依ちゃん、待って。食べさせてあげる」

「自分で食べられるよ?」


 お寿司が届いて、早速食べようとすれば止められた。


「疲れたでしょ? はい、あーん」

「ふふ、ありがと」

「……っ、ちょっと玲依ちゃん……!!」


 お寿司が口元に運ばれてきたから、侑の指ごと口に含めば慌てたように引き抜かれた。


「んー、美味しい!」

「うん……それは良かった。やっぱり玲依ちゃんに誘惑されてるよね? ね??」

「侑、食べないの? 美味しいよ?」

「小悪魔? 可愛すぎてつらい……」

「侑ちゃん、あーん」

「えっ……」


 照れつつも口を開けてくれたから食べさせてあげれば、ぱあっと笑顔になった。美味しかったらしい。可愛い。


「美味しいね」

「美味しい。玲依ちゃんと一緒だから余計に美味しい。毎日幸せ。ありがとう」

「こちらこそ」


 侑と一緒なら毎日楽しいし、一緒に食べるご飯は美味しい。これからもずっと、それは変わらない。

 そばに居てくれてありがとう。

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