10.お泊まり
玲依視点
侑が遊んでいたのは家庭環境が影響しているのかな、と思っていたけれど、その通りだった。
うちの両親は仲が良すぎる、ってくらい仲がいいから侑の気持ちは分かってあげられないかもしれないけど、侑の寂しさとか苦しみを私が埋められたらいいな。
自分で過去は変えられない、なんて言ったけど、高校生の頃の侑に会って支えてあげたかった。侑のことは信じているけれど、不安を零してしまったらあっという間に電話番号を変えることを決めて、いつでも見ていいよ、と顔認証まで登録してくれた。
優柔不断なのに、こういう時は即決で驚く。ドキドキしすぎて心臓もたない……
「侑、持ってきた仕事用の服、掛けておく?」
「うん」
「クローゼットこっちね」
寝室に連れていけば、隣の書斎にある本棚を見て目を輝かせている。本、好きなのかな?
「興味あったら好きに読んでいいよ」
「凄い数……なんか難しそうな本がいっぱい……」
「この辺は仕事関係かな。こっちは侑の仕事にも共通するかも」
服を掛けて、早速何冊か手に取っている。私も読んでない本があるし、ゆっくり読書もいいかもしれない。
「ここで読む? リビング行く?」
「リビング行く」
「飲み物持ってくるね。コーヒーか紅茶かココアならどれがいい?」
お互い本を持ってリビングに戻って、私は飲み物の用意をしようとキッチンに移動する。侑はココアかな?
「ココア!」
「ふふ、やっぱり。読んで待ってて」
「うん」
ソファに座って早速本を読み始めた侑を見れば、真剣な表情でドキッとした。
「玲依ちゃん、ありがとう」
邪魔をしないようにテーブルにココアを置けば、読んでいた本を置いて、目を合わせてお礼を言ってくれた。嬉しいけど、キュンとするからやめて……
「熱いから気をつけ「あっつっ!!」って遅かったか」
「れーちゃん、いたぃ……」
「どれ? 見せて? ……っ」
ココアをテーブルに置いて、眉を下げてちょっとだけ舌を出す侑に変な声が出そうになった。平常心、平常心……
「氷持ってくるね」
「ありがと」
氷を口の中に入れてあげれば、今度は冷たいぃー! と騒いでいる。こういうところは歳下だなぁ。かわい……キスしたいけど、まだ痛いかな?
「玲依ちゃん、ちゅーする?」
「……する」
なんで分かったんだろう? 侑の綺麗な顔が近づいてきて、唇が重ねられた。
「んっ……はぁっ……んぅ……」
遠慮がちに舌が入ってきたかと思えば、どんどん深くなるキスについて行くのがやっと。
「玲依ちゃん、可愛い……もっと」
侑の色気にクラクラする。ソファに優しく押し倒されたけど、これは……? 私が受けってことなの……?
「玲依ちゃん、何考えてる?」
キスに集中出来ていないことに気づかれて、私の頬を撫でながら侑が聞いてくる。見つめてくる視線が熱くてドキドキする。
「……んっ、その、私こっち側?」
「うん。そのつもりだったけど……嫌だ?」
「嫌、ではないけど……歳上としてはちょっと」
攻めてって言われたとしても女の子とシたことなんてないしどうしたらいいか分からないけど、歳上として押されっぱなしでいいのかっていう……
「歳なんて関係ない。玲依ちゃんの声も、表情も興奮する……」
「んぅっ、やぁっ」
うっとりと見つめられて、つーっと首筋を撫でられた。侑さん、エロすぎるんですけど……
「かわい……嫌じゃないならもう1回いい?」
聞いてきたのに、私の返事を待たずに唇を塞がれた。強引な侑もいいな、なんて思ってしまった私はMだったのかな……
さすがにここで最後まで、とかはないよね?
何度もキスをして満足したのか、ソファに深く腰かけた侑の足の間に座らされて、後ろから抱きしめられている。
「こうやって触れてると安心する……玲依ちゃん、元彼にこうやって抱きしめられたことある?」
「え? どうだったかなー」
「……あるんだ」
後ろを見ればムスッとした侑の顔。可愛い。さっきまでの顔と全然違う。
「侑だってこうしたことあるでしょ?」
「私は初めてだもん」
「かわっ……!!」
「なんか悔しい」
きっとたくさんの女の子を抱いてきただろうけど、こういう触れ合いの経験は無いのかもしれないな。
座る向きを変えてキスをすれば驚いたように目を見開いたけれど、照れたように笑って抱きしめてくれた。自分からするのはあんなに余裕そうなのに、照れるんだ。
「そろそろ夜ご飯作ろうかな」
「え、玲依ちゃんが作ってくれるの?」
「そのつもりだったけど、食べに行く?」
「ううん、嬉しい……」
見上げた侑がなんだか泣きそうに見えて、思わず頭を撫でてしまえば、くすぐったそうに笑った顔にキュンとした。
「侑、生姜焼きと和風パスタだったらどっちがいい?」
「生姜焼き!」
侑から離れて冷蔵庫を確認していると、追いかけてきた侑が後ろから抱きついてくる。
「侑、離して?」
「玲依ちゃんひどい」
「包丁使うから」
「ヤダ」
甘えてくれるのは可愛いんだけど、離してくれないとご飯作れないって。
「こら。本当に危ないから」
「玲依ちゃんと離れたくないもん」
じーっと見つめてくる侑を無理やり引き剥がすなんて出来るわけがなく……
「一緒に作る?」
「うん!」
可愛い……張り切ってるけど、侑って料理出来るのかな?
「侑は料理するの?」
「家にあんまり居なかったし、全然」
危なっかしい手つきで野菜を切る侑を見るのは心臓に悪かったけれど、当の本人は終始楽しそうだった。
一緒に作ったご飯を美味しそうに食べる侑を眺めながら、明日の朝ごはんは何にしようかな、と気が早いことを考える。侑が食べてる姿が好きだから色々作ってあげたいな。
片付けを終えてリビングに戻ろうとした時に、読もうと思ってそのままにしていた広報誌が目に入った。せっかくだし、今見てみよう。
「侑、これ読んだことある?」
「読もうと思ってはいたけど、持ち帰るの忘れて会社に置きっぱなし」
「見てみる?」
「うん」
目次を見てみれば、社員の家族自慢、恋人募集中の社員のアピールだったりと幅広く載っているみたい。
「この広報誌、うちの同期が担当してて」
「そうなの?? 恋人募集とか、広報誌でやっちゃうんだ」
「そう。飲み会でノリで話した内容を企画会議に出したら通っちゃったらしい」
「えぇ……」
うちの会社は社員同士の交流イベントに力を入れてるし、社長もフットワーク軽いもんな……社長室があるのにふらっと他の部署のフリースペースに座ってたりするし。よく企画課にも来てるしね。
ページをめくっていくと、社員参加型の企画なんかもあったりして、人気があるのがわかる。
「これ、凄いね」
「どこ?」
侑が指さした所を見れば、恋人募集中の社員プロフィールの恋愛対象の部分には異性・同性・両方の項目から選ぶようになっていて、同性、両方を選んでいる人も居た。堂々としててすごいな……
「玲依ちゃんは隠したい?」
「侑と付き合い始めたこと?」
「うん」
「会社では会うこともないし、別に隠さなくていいかなって思ってるかな。幸い、うちの会社はそういうのに偏見がない人が多いし。まぁ、あえて言いふらすつもりは無いけど」
「そっか」
ニヤニヤしてる侑は分かりやすい。可愛いなぁ。
「明日仕事だし、早めにお風呂入っちゃおうか。侑、先に入る?」
「玲依ちゃん先に入って」
「ん、分かった。入ってきちゃうね」
シャワーを浴びて、普段より丁寧に身体を洗っていることに気づいて恥ずかしくなった。
付き合ったばっかりだし、侑がそのつもりかは分からないけど、お互い大人だしな……侑は経験豊富だし。
湯船につかりながら、女同士ってどんな感じなのかなって考えて逆上せそうになってしまった。顔が熱い……
「侑、次どうぞ」
「うん。玲依ちゃん、すっぴん可愛い! パジャマも似合う! 可愛い!!」
「ほんと?」
「うん!」
可愛い可愛いって喜んでくれる侑の方が絶対可愛い。
侑が出るのをソファに座って待っていたら、タオルで髪を拭きながらタンクトップにショートパンツ姿の侑が出てきた。
え、何このイケメン??
「玲依ちゃん、お風呂ありがとう」
「侑、こんな姿みんなに見せてきたの?」
「え? 変? 家ではいつもこんな感じだからつい……」
家では、ってことは他の人には見せてないってこと?
「あ、そっか。遊んでた時はホテルに泊まったことなんてないし、シャワー浴びてもちゃんと服着てたよ。家にももちろん呼んだことない。安心した?」
「受け止めるって言ったのにごめん……」
ダメだなぁ……やっぱり嫉妬しちゃう。
「ううん。溜め込まないでなんでも聞いて? 嫌な思いさせちゃう答えもあるかもしれないけど……ごめんね」
「私こそごめんね」
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。聞けば嫉妬しちゃいそうだし、なるべく聞かないようにしよう。我慢できなくて聞いちゃうかもしれないけど……
「そうだ。侑、ピアス沢山空いてるよね。何個?」
「ん? 7個かな」
気になっていたことを聞けば、私の隣に座って片耳ずつ見せてくれた。
「ここ、痛くないの?」
「ん? トラガス? 全然痛くないよ」
「トラガスって言うんだ。かっこいいよね。侑によく似合ってる」
「うわ、嬉しい」
仕事の時は2つしか付けていないみたいだけれど、休みの日はオシャレなピアスが沢山で気になっていた。特にさっき名称を知ったばかりのトラガスについているピアスが目を引く。
「ここのピアスのデザインが1番好き」
「ほんと? これ、私がデザインしてオーダーメイドで作ってもらったんだ」
「侑、デザインなんて出来るんだ?」
「手直ししてもらってるし、趣味程度だけどね」
また1つ侑の新たな一面を知れて嬉しい。
耳に触れたまま、至近距離で侑の笑顔を見たら愛しさが溢れて、唇を重ねていた。
「ん……玲依ちゃん、えろ……」
「それを言うなら侑の方が色気やばい」
「もう寝よ?」
「うん」
布団、どうしよう。ベッドはセミダブルだから2人で寝れるけど、ちょっと狭いかな……
「侑、お布団敷く? ベッドでもいいけど、ちょっと狭いかも」
「玲依ちゃんが嫌じゃなかったらベッドで一緒に寝たい」
「じゃあ一緒に……きゃっ!?」
言い終わる前に抱き上げられた。
「重くない……?」
「全然。むしろ軽い。首に手回してね」
「うん」
そのまま寝室のベッドにおろされて愛しげに見つめてくる侑から目が離せない。
「玲依ちゃん、その日に、なんて早いんだけど……いい?」
「うん。……ふふっ」
「え、なんで笑うの?」
頷けば、それはもう嬉しそうに笑うから可愛いなぁ、って微笑ましくなってしまった。侑、お手柔らかにお願いね?
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