誕生日(侑)

 侑が家族に挨拶をしてくれてから2週間が過ぎ、侑の誕生日が近づいてきた。


 誕生日のお祝いと共に、一緒に住んで欲しい、と言う予定でいる。


 大事な一人娘を預けてもらうわけだし、侑のお母さんには事前に同棲の許可を得よう、と休憩中にご都合伺いのメッセージを送れば、ちょうど今なら空いていると返答が来た。

 こういうのは早い方がいいし、と空いている会議室に入って電話をすればすぐに出てくれた。


『こんにちは。玲依です。お忙しいところすみません』

『こんにちは。大丈夫大丈夫。侑が何かした?』

『え? いえ、そうではなく……侑と一緒に住む許可を頂けないかと……』

『はぁぁぁ……良かった。そっちかぁ……ご相談が、なんて言うから別れます、もあるかなぁって』

『いや、さすがにそんなご連絡はしないですよ』

『あの子の様子を見てたら、振られたらどうなることか……フォローをお願いします、とかあるかもしれないじゃない?』


 ご相談が、と伝えていたから、侑が振られるんじゃないか、と思っていたらしい。事前にお伝えしておきますね、って感じ?? もしそうだったとしても、これから娘さんと別れます、なんてそんな連絡出来ないって。


『紛らわしくてすみません』

『いやいや、私が勝手に思っただけだから。一緒に住むのは、もちろんどうぞ。なんなら明日からでも』

『そんな簡単に、いいんですか?』

『侑を見てたら反対する理由なんてないかな。この前一緒に住めば? って言ったらそんなに簡単な問題じゃない、って自分で言って落ち込んでたし。玲依ちゃんから一緒に住もう、なんて言われたらその日から帰ってこないんじゃないかな』


 うわ、可愛い。一緒に住みたい、って言ってくれたらいいのに。


『侑には、誕生日に言おうと思っています』

『もうすぐね。侑の事、よろしくお願いします』

『はい。ありがとうございます』


 無事に許可も頂けたし、当日に侑に伝えるだけ。喜んでくれたらいいけど。

 ペアリングも一緒に見に行こうと思って、既に予約もしてある。


 誕生日を迎えても、侑はまだ23歳。私は誕生日が来れば30歳になる。

 本当はこの先の約束もしてしまいたい。でも、侑はまだ若いから。せめて、指輪を贈らせて欲しい。



「お邪魔しまーす」

「どうぞ」


 忙しい日々を過ごし、あと数時間後には侑の誕生日。会社まで迎えに来てくれて、1度侑の家に車を置いて帰ってきた。駐車場の契約も終えたし、これからはこっちに停めて貰うことも出来る。2人で歩くのも楽しいけど冬は寒かったんだよね……


「玲依ちゃん、今週もお疲れ様」

「うん。侑もお疲れ様。今日はご飯とお風呂は?」

「どっちも済ませてきたー」

「了解! お風呂の準備してくるから座ってて」

「はーい」


 お風呂の準備を済ませて冷蔵庫を見れば、週末ということもあって充実しているとは言い難いけれど、簡単なものなら作れそうだった。

 侑も食べるかもしれないし、少し多めに作っておこうかな。



「侑、スープ少し飲む?」

「のむー!」


 じっと見てくるから聞いてみれば、ぱあっと笑顔になって口を開けた。


「はい」

「んー、おいしい!」

「かわい」


 侑が受け入れてくれれば平日もこんな風に過ごせるのかな、と思うと早く伝えてしまいたい。侑の誕生日まであと1時間か……


「お風呂入ってくるけど、ゆーちゃんも一緒に入る?」

「入りたいけど……もう入ってきたし待ってる……」

「残念。じゃあ、ゆっくりしてて」

「うん」


 髪を乾かして時計を見れば、侑の誕生日が迫ってきていた。はー、緊張する……


「侑、ごめんね。お待たせ」

「ううん。ゆっくりできた?」

「うん」

「玲依ちゃん、ここ来て」


 リビングに行けば、ソファに座っていた侑が両手を広げてくる。パタパタ揺れるしっぽの幻覚が見えるよ。


「侑」

「えっ、れいちゃ……」


 ソファに膝立ちになって、侑の頬に両手を添えて口付けた。

 よし、プレゼント取ってこよ。


「ちょっと待っててね」

「あ、うん……待ってる」


 予想外だったのか、口を押さえて真っ赤になる侑の頭を撫でてソファから降りた。


 寝室から戻って時計を見れば、ちょうどいい時間。侑はどんな反応をしてくれるだろう。もし断られたとしても、粘り強く交渉するつもりだけれど。


「侑。お誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、出会ってくれてありがとう」

「玲依ちゃん……こちらこそ、ありがとう」


 照れたように笑って、抱きしめてくれた。私が抱きしめたかったのにな。


「これ、プレゼント」

「うわ、ありがとう!」


 ウキウキしながら包装を開けて、ぱあっと笑顔になった。


「これって、玲依ちゃんが使ってる香水だよね? 」

「うん。使ってくれたら嬉しいな」

「使う! あ、でも休みの日だけがいいかな……玲依ちゃんの匂いを纏うとか、仕事に集中出来ないかも……」

「ふふ、かわい。あのね。侑に伝えたいことがあって」

「……伝えたいこと?」

「一緒に暮らそ?」

「……っ」

「土日だけじゃなくて、平日もこんな風に侑と過ごしたい。私は帰りも遅いし、ゆっくり出来るわけじゃないけど、同じ家に帰れたらどれだけ幸せだろうってずっと思ってて。何度も、送ってくれた後帰っていく侑を引き留めたかった。お邪魔します、じゃなくてただいま、って帰ってきて? 前にも言ったけど、侑とずっと一緒に居たい」


 言葉が出ない様子で何度も頷いてくれる侑の頬を包み込めば、涙を隠すように目を伏せた。


「侑、こっち見て?」

「やだ」

「可愛い」

「玲依ちゃんはずるい……なんでそんなにかっこいいの? えっちの時はあんなに可愛いのに……なんか悔しい……」


 恨めしげに見上げてくる侑が可愛くて頭を撫でれば、目を閉じてもたれかかってくる。今日はやけに甘えん坊でキュンキュンする。そんなに甘えてくると襲っちゃうよ?


「侑、ベッド行こ?」

「行く。でも、私がするから」

「え?」


 あれ? さっきまでの甘えん坊な侑は? 



「玲依ちゃん、おはよ」

「おはよ? あれ、朝??」

「……うん。仕事で疲れてたのにごめんね」


 侑に愛されて、目が覚めれば朝だった。しゅん、としてこっちを見てくる侑が昨日とは別人すぎる。


「ううん。ぎゅーして」


 両手を広げれば、安心したように息を吐いて抱きしめてくれた。


「侑、いつから一緒に住める?」

「最低限の荷物はあるから、明日からでも!」


 腕枕をしてもらって問いかければ、考えることも無く答えが返ってきた。


「ふふ」

「え、なんで笑うの?」

「侑のお母さんはよく分かってるなぁ、って」

「なんでお母さん?」

「侑と一緒に住む許可をね、既にいただいてたり」

「え!?」

「明日からでもどうぞ、って」

「余計なこと言ってなかった……?」

「んー? 一緒に住みたいって思っててくれて嬉しかった」

「あー、もう……! 絶対それだけじゃない……かっこわる……」


 私の方が歳上だし、こういう時くらいはリードさせてもらいたい。


「明日なんだけど、行きたいところがあって……付き合ってくれる?」

「もちろん。玲依ちゃんが行きたいところなら何処でも行くよ」


 優しく微笑んでくれた侑は指輪を見に行くだなんて思ってもいないんだろうな。侑はどんな反応をしてくれるだろうか……

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