3.ランチタイム

 玲依視点 


 休憩時間に食堂に行くと、既に同期2人は揃っていた。


「玲依、おつかれー」

「お疲れ。お、ラーメンもいいね」

「2人ともお疲れ。定食も迷ったんだけどねー」


 食堂はメニューが結構豊富で、値段も安いから利用者は多い。それなりに広いから、大体の場所を決めてある。


「遅かったけど会議とか?」

「ううん、ちょっとね」

「もしかしてお呼び出し?」

「……」

「その様子だとまた断ったんでしょ」

「まあ……」


 さすが同期、察しがいい。仕事の話かな、と思ったら食事でも、ってお誘いを受けた。よく知らないし、お断りしたけど。


「玲依にはさ、歳下が合うんじゃないかって思うんだよね」

「え?」

「弥生もそう思う? 面倒見良いし、玲依さん玲依さん、って子犬みたいにじゃれついてくるような子が合いそう。いい子だね、って甘やかしてそう」


 子犬……私ってどんなイメージ持たれてるのよ……?


「玲依、今まで歳下と付き合ったことってある?」

「ないかな」

「うちの会社の歳下だと、人気なのは総務の山崎さんだよね」

「だね。でも子犬って感じじゃないよね。クールだし」


 総務の山崎さん? なんか昨日聞いた名前だな……


「山崎さんと言えばさ、昨日電話来たよ」

「朱音と何か関わりあったっけ?」

「なんか会議室のトラブルがあったらしくて、場所変更のお願いで電話がかかってきた。担当じゃないのに丁寧に謝ってくれてさ。若いのに本当しっかりしてる。何よりイケメンだし!」

「22くらいだっけ? 本当にイケメンだよねー!」


 昨日対応してくれた子も山崎さんが助けてくれたって言ってたよね。席を外していて会えなかったけど。22歳ってゆうちゃんと同い歳だ。ゆうちゃん、元気かな……ゆうちゃんのことを考えたら急に会いたくなってきた。


「それ多分うちのチームのミスだわ……後から会議室アプリ履歴のキャプチャが送られてきたんだけど、担当の子が日程を勘違いしてキャンセルしちゃってたらしくて。30分前に取れてないって別の子が気づいて、他に空きも無いしもう大騒ぎ」

「うわ……やば」

「会議終わった後に調整してもらったお礼に行ったんだけど、その山崎さん? って男性はいなかったな」

「男性じゃなくて、女の子」


 え、女の子? 話しぶりからして男性だと思ってたけど。


「あ、そうなんだ??」

「玲依、もしかして山崎さんのこと知らない?」

「え? うん」

「入社した次の年の忘年会って玲依居たよね?」

「居たよ。幹事でひたすら忙しかった覚えしかないけど」


 うちの会社は社員の交流イベントに力を入れていて、家族イベントや地域交流イベントがあったり、忘年会は毎年会社全体で行われている。

 強制ではないけれど、なるべく参加するように、と言われているからもう半強制だよね。


「確か写真あったはず。えっと、4年前……? あった」

「え……ゆうちゃん?」

「「ゆうちゃん!?」」


 見せられたのは、酔っ払いから助けてくれた女の子の写真だった。山崎さんってゆうちゃんのこと? え、同じ会社だったの?


「え、何? 玲依知り合い?」

「知り合いというか、先月酔っ払いから助けて貰って、連絡先交換した」

「何それ!? そんなことあったの? 大丈夫だった?」

「うん。腕を掴まれたけど、ゆうちゃんが追い払ってくれたから」

「何も無くて良かった」


 何も無かったし、心配させるかな、と言わないでいたけど、結局話すことになっちゃったな。

 助けてくれた時のゆうちゃん、かっこよかったな……


「山崎さんと連絡取ってるの?」

「ううん。その日にお礼のメッセージ送ったきり」


 ゆうちゃんからの返信は一言だったし、改めて連絡をしようと思っても家に帰るのが遅いし、寝てたら起こしちゃうかな、とか考えていたらすっかり送るタイミングを失ってしまった。間が空くと送りにくくなるよね……


「山崎さんって、プライベートの連絡先は絶対教えないらしいよ」

「え? そうなんだ……」

「社外の女の子と腕を組んでた、とか、抱きつかれてた、とか目撃情報が多くて、可能性があるんじゃないか、って女の子たちが突撃しては撃沈してるらしい」

「その辺の男性陣よりイケメンだしね~! で、どっちから?」


 確かに、慣れてる感じだったもんなぁ。

 どっちから、って連絡先の交換を言い出したのがどっちからかってこと?


「駅からの帰りが心配だから、何かあれば連絡してってゆうちゃんから」

「山崎さんの同期が後輩なんだけど、その子に聞こうとする人も居るくらいなのに」

「それなのに玲依は知ってる訳だ」

「話聞く限り、同じ会社だって知らなかったからじゃない?」


 まさか同じ会社だなんて思ってなかっただろうし。


「その様子だと知らないと思うけど、山崎さんは男女問わず人気なんだよ? あれ? 玲依と山崎さん、ありなんじゃ……?」

「朱音がさりげなく女の子を薦めてくる……」


 弥生を見れば、ニヤリ、と笑われた。うわ、なんか楽しんでそう。


「山崎さん、さっき見せたバンドで一気に人気になって、愛想がいいわけじゃないんだけど、さり気ない優しさに落ちる女の子続出」

「告白されても、社内の人とは無理なんで、ってスパッと断って絶対付き合わないらしいけど。断る理由が同性だから、じゃないこともあって諦めきれないっぽいけど、玲依が相手ならみんな諦めると思う」


 何から突っ込めばいいのか……うちの会社って同性同士の恋愛に理解がある人が多いよね。私も研修を受けたけれど、多様化の推進が進んでるんだなって感じる。


「ねぇ、2人とも、なんでそんなに詳しいの?」


 部署も違うし、接点ないよね?


「玲依と同じくらい有名人だからね」

「え、こわ……」


 私の情報もこんな風に知られてるってこと? プライバシーどこいった?

 お礼も言いたいし、顔も見たいからこの後総務行ってみようかな。同じ会社なら、会いに行ってもおかしくないよね?



 昼食を終えて、15分だけ被っている休憩時間に総務に行って座席表を見てみれば真ん中辺りに名前があった。本当に同じ会社だったんだ……

 真ん中あたりを見れば、ゆうちゃんはまだ席で仕事をしていた。


「あれ、高野さん!? どうされたんですか??」

「山崎さんに用事があって」


 通路から、真剣な表情のゆうちゃんに声をかけるか迷っていたらゆうちゃんの隣に座っていた男の子が気づいて、驚いた表情をしたかと思えば立ち上がって大きな声で聞いてくる。まだ残っていた人たちから注目を浴びるし、ほんとやめて欲しい……


「高橋くん、煩い。突然なに? ……え、玲依さん??」


 隣でうるさそうに顔をしかめたゆうちゃんがこっちを見て、ぱっちり二重の目を見開いた。


「「玲依さん!?」」

「……あ。高野さん」


 私も同じような反応したな、と思わず笑ってしまった。でもそこまで驚いていないから、もしかして私が同じ会社だって知ってた……?


「突然ごめんね。ちょっとだけいい?」

「はい」


 ゆうちゃんは通路まで出てきてくれて、不思議そうに首を傾げている。


「久しぶり」

「お久しぶりです」

「今日ね、ゆうちゃんが同じ会社だったって知って。ゆうちゃん、知ってた?」

「はい。食堂で見かけて」

「そうだったんだ。連絡くれたらいいのに……って私もゆうちゃんのこと言えないか」

「……や、なんか迷惑かなって」


 へにゃ、と眉が下がっていてなんだか可愛い。もっと早く連絡すれば良かったな。


「今日は昨日のお礼を言いたいなと思って」

「昨日?」

「会議室の手配、ありがとう」

「ああ。玲依さんのところだったんですね。全然、仕事ですから」

「佐々木さんが山崎さんが助けてくれて、って言ってたけど昨日は席にいなかったし、ゆうちゃんだって知らなくて。先月のお礼もまだだし、良かったら今度ご飯でもどう? ご馳走するから」

「え、いいんですか?」


 断られるかな、と思ったけど嬉しそうに笑っているから嫌がられてはいないみたい。


「うん。ゆうちゃんは来週の金曜日忙しい?」

「大丈夫です」

「じゃあ、金曜日ね。食べたいもの考えておいて?」

「私は何でも……」

「もしかして遠慮してる? 今日の夜、メッセージ送るね」

「待ってます」

「またね」


 ゆうちゃんと別れて、企画課に戻る途中で午後のスケジュールを頭の中で確認すれば、休憩でオフモードになっていた気持ちが自然と仕事モードに切り替わる。


 さあ、午後も頑張ろう。

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