33話 この世界を受け入れた朝
直人くんと沙映ちゃんと晴代ちゃんは仲良くなっただけなのです。セリフやモノローグに深い意味はありません。……ですがそれは、直人くんがようやくに。激しい葛藤をずっと繰り返した先にこの世界を受け入れる、心の準備が出来たということです。それもこれも、早咲ちゃんのおかげですね。もうひとりの主人公ですから。
………………………………、ん。
目覚まし時計よりも……ああ、こっちに来てから使ったことないな、そういえば……先に、自然に目が覚める感覚とともに、俺の意識は浮かび上がる。
閉じたままのまぶたには朝日が、窓の外からは鳥の声が。
そして、体は程よく疲れ切り、なんだか……そう、ずっとため込んでいたものをまとめて出したときのようなすがすがしさが。
………………………………。
ん?
体のだるさ?
すっきりしすぎた感覚?
すがすがしさ?
――――――――――両隣からの、温かさと柔らかさといい匂いと吐息?
「………………………………………………………………………………………………」
そっ、と。
俺は、昨日の……昨夜の、早咲とのあの葛藤があったあのことを思い出しながら、そっと横に……視線を感じる方へと顔をやってみる。
「………………………………あら。 もう少し、寝顔を眺めていたかったのですが。 とても可愛らしかったので……くす、残念です」
「…………晴、代」
「はいっ、直人様」
どのくらい前から起きていたんだろうか……両腕をついて起き上がり……昨夜のアレのおかげで当然ながら何も着ていない、つまりは上半身……いや、シーツに隠れている下半身もなんだろうけど……はだかのままで。
昨夜……明るくなってきたころに眠くなってようやくに眠る、なんてことがなければきっと反応してしまっていただろう立派な胸がふたつ、その上と横に流れる晴代の長い髪の毛、そして美しいっていう感じの顔が、瞳が、俺をのぞき込んでいた。
「……うにゅ? なおとぉ?」
と、俺の声で目が覚めたのか反対側でもぞもぞと動く音がしたと思ったら体重を掛けてきて……同じような格好どころか、寝相が悪かったのか脚までシーツが乗っていない、つまりは素っ裸な沙映が、俺にその大きな胸を乗せつつのぞき込んでくる。
「沙映」
「うんっ、おはよっ! 昨日はすごかったねー!」
………………………………。
う、うん。
まあ、こういう自然なところも沙映のいいところだから。
奥ゆかし……過ぎるくらいの晴代と、素直すぎる沙映。
このふたりの組み合わせがちょうどいいんだろう。
身長も高いのと低いのとで……ま、まあ、胸はその、ふたりとも大きかったけど。
「……ええ。 素敵。 ただ、その一言に尽きますわ。 それ以上で表現したなら逆に下手になってしまいます。 殿方と、……私たちふたりは、縁がありませんでした。 そう、末娘として生まれたときから決まっていたのです。 ですので、あのような体験は万が一にもあり得ないものだと思っていました」
「だよねーっ。 男の子と顔……あ、お兄ちゃん以外のと、かな? と、合わせるのもお話しするのも、昨日みたいなことするのも、沙映には関係ないことだって思ってたよ。 もともとキョーミなかったけど」
「………………………………………………………………………………………………」
そう言いつつ、晴代は乱れていた髪の毛を整え始めて……用意して来てくれたんだろうな、軽く濡らしてあるタオルを沙映と俺に手渡してきてくれて、まずは顔を軽く拭う。
それで、さっぱりした。
頭も、ようやくに覚めた。
「ありがとう、晴代。 それで、ふたりとも……ごめん。 早咲が……なんか企んでたみたいだけど、そのせいでいきなり呼びつけたりして。 真夜中だったって言うのに、……それに、俺と、その。 いきなり、………………………………ええと。 して、もらって」
「あ! 直人がそうやって恥ずかしがってるの、いいかも!」
「こら、沙映さん。 今は真面目なおはなしですよ?」
「はーいっ」
「……ええと、ですね? 直人様。 まずは、改めてお伝え致します。 私たち、先生方や早咲様から直人様が特殊な環境での養育をされてきたのだと説明されてきました。 そして、そちらの方針で……ものすごく、ものすごく古い……まるで明治時代のような恋愛の価値観をお持ちであるということも知らされました」
「んー。 あのへんのおはなしとか、授業でやったりするけどイマイチよく分かんないんだよねー。 だって」
「はいはい、あとで聞きますから、ね?」
「ぶー」
「……こほん。 それでですね、直人様。 直球に申しますと、私たち女子にとって、数日……いえ、いきなり登録してあります写真で男性から呼ばれたりしても、ですけれど……実際に顔を合わせ、近くで、それも友人として接していただけた男性である直人様と。 ――たとえ昨夜限り、ひと晩限りだとしても、肌を重ね合わせられ、その上直接に注ぎ込んでいただけるという幸福は、夢物語なのです。 しかも、記念のためのたったの1回などではなく、何回も……ふぅ……」
「……うん。 あれ、うれしかった。 ふつーは男の人となんかできないから、細長いあれ……なんだっけ? ま、いいや、それでちゅーってやってちゅーってされるだけなのに、その何十倍、ううん、ものすごいのを沙映たちのおなかの中に入れてくれて。 沙映、あの思い出だけでこの先の人生、きっと幸せだよ」
お体も軽く拭ってくださいね、という晴代の言葉に習って俺も体も拭いて……その様子をまじまじと、同じ動作をする沙映に見つめられながらするという恥ずかしさに耐え、どうにか……いちばん汚くなった場所まで綺麗にする。
そうして……これもまた晴代が手配してくれたんだろう、俺たち全員分の下着から制服を手渡され、今度は3人で下着から身につけていく。
………………………………晴代は見ない振りをしてくれているけど、沙映は俺の股に視線を注ぎっぱなしだ。
……まあ、昨夜はお互いさまだったんだし……いやいやでも、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしい。
「沙映さんがおっしゃるように、これはとても……私たち女子にとって、幸せなことなのですわ、直人様。 直人様がいらっしゃらなければ……そして私たちを選ばれなければ。 学園を卒業しても他の男性からの、先ほど申したようなお相手というものにも選ばれませんでしたら、私たち、もう一生男性とは巡り会えない……はず、だったのです。 ですので、これからは家の手伝いをしつつ、人工授精を選び続け、あるいは家の伝手でご紹介をいただけるでしょう男性を待つしかありませんでした」
「そーなの? 私、どっちもしなくてもいいよーって、お母さんから言われてるけど」
「……それは、沙映様にお兄さまがいらっしゃるからですわ」
「あ、そーなの」
「ええ、お兄さまがたくさんの女性を幸せにするので、沙映様にはそのような義務はないのです」
「へー」
「………………………………………………………………………………………………」
もう制服をぴしっと着こなしている晴代と、晴代に着るのを手伝われている沙映。
こういう会話を聞くたびに、ここが俺のいた世界とは……よく似てはいるけど、全く別の世界だって考えさせられる。
ああ、分かっている。
早咲からもさんざんに……いや、初めのあの夜から、美奈子さんやローズ先生、ひなた、そしてこのふたりからもいろいろと学んだんだから。
だから、ここは――異国。
異世界。
似ているけれども異なる世界。
そういう場所だって、理解している。
だけど、それとは別に思うところがある。
………………………………。
俺は、昨夜。
――早咲との風呂場でのあの後すぐにやってきたこのふたりと……、した。
とりあえず、早咲に煽られる文句がひとつ減ったっていうことだ。
それだけのことを……いや。
初めてにしては余りにも上手く行きすぎるし明け方までっていう始末だった。
これはもしや――――――――――。
「ピンポーン」
と、俺はもちろん沙映も無事に制服を着終え……リビングに出たらひとまず何事もなかったかのように振る舞える状態になった俺たち。
……まあ、寝る前はみんな全身汗まみれだったし、……その、いろいろなもんが体じゅうについているから学校に行く前にちゃんとシャワーを浴びないとまずい状態なのは明らかだし、…………そして、何よりも寝室を見られるのはとても気まずい。
だから、こうして出てきたわけだけど。
「ピンポーンピンポーンピピピピンポーン」
「………………………………………………………………………………………………」
………………………………この感じは………………………………ああ。
この元凶の、あいつしかいないよな。
頭の上にはてなを……本当に浮かべているのが見えるくらいの表情をした沙映と、苦笑している晴代を手で制しつつ玄関へと向かい、鍵を――そういえばこれ、玄関にあるパネルに触るだけで開くものだったらしいな――開ける。
そして、そこには――――――――――やっぱり、思っていたとおり。
「いやぁ、おめでとうございます直人! それに綾小路さんに御園さん! あー、いや、もうこれで仲間、身内みたいなものだから下の名前でいいですか? ということで直人、晴代さんに沙映さん、ほんっとーにおめでとうございますっ! まずはみなさんのアバンチュール……じゃないですね、ランデヴーおめでとうございますっ! これでもうマリアージュはばっちりなので届け出も完了したって先生が言っていましたし、もう大手を振って「夫婦」として出歩けますね!! ………………………………………………………………………………………………あ、で、そんなことはどうでもいいとしましてどうでしたかみなさん!! 特に直人!!! 奥手すぎてもうどーしようかってさんざんに僕、おっと、私を悩ませ続けました直人!!! 最初っから、童貞かける1と処女かける2っていうまさかの3人とかいうかなりレベル高いスタートでしたけど、どうだったんです!? あ、でもなんだかみなさんスッキリされてる様子なので上手く行ったんですね!! 最初から3人で暗がりの中……どうです、興奮しました!? 気持ちよかったですか!? 本能のままに蠢きましたか!?」
……一応、ほんの少し、微量は理性が働いているのか玄関に入りドアが閉まったのを確認してから一気にまくし立て始めた早咲。
――早朝から、セクハラとかそういうものの次元を越えている気がするんだけど。
だけど、いろいろあったけど――それでもこいつは早咲。
元男で、現女――でも、変わらずに女ばかり追いかけている奴で、親友、だからな。
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