38話 最後の真実
榎本直人くん:巻き込まれ主人公。
野乃早咲ちゃん:男装している?女?の子。背は男子の平均な直人くんと同じくらい、髪の毛は肩に掛かるくらい。顔つきは中性的で穏やかな子。――または、「野乃早咲」くん。
榎本美奈子ちゃん:直人くんのお母さん……を10歳くらい若くした感じのショートカットで目つきの鋭い先生。
ローズマリー・ジャーヴィスちゃん:きんぱつでボディラインを隠しきれない、おっとりして明るい先生。
須川ひなたちゃん:小……中学生にしか見えないくりくりしたおめめで髪の毛が長い子。
綾小路晴代ちゃん ザ・和服美人(普段は制服ですが)でお淑やか。 髪の毛がものすごく長い子。ひとつひとつの動作がていねい。 早咲ちゃんがおっとり系女子なら晴代ちゃんは清楚系女子。
御園沙映ちゃん 活発……過ぎる女の子。いい子なのですが、仲のいいお兄さんがいることもあって遠慮無くぐいぐい来ます。 ある意味気兼ねなく、前の世界のようにおはなしできる子。肩までのふわふわな髪の毛。
「ま、ダーリンのことは秘密にしておいてって頼まれてましたので、あとちょっとだけ後回しですねー」
と、両手をぽんっと合わせるローズ先生。
「そう言うことですのでおめでとですっ、直人さん。 これであなたはハルヨさんとサエさん、おふたりと正式に結婚した夫婦の夫として登録されましたのでー、今日にも……えーと、あ、これですね、綾小路家と御園家は日本国のビッグなファミリーメンバーでもありますしー、榎本家……美奈子はふつうの人ですけどそれでも家族には変わりはないのでー。 直人さんのこと、ある程度いじくった過去と一緒に世間に公表しまして結婚相手になりたいって人がわんさか来ましても? まずはそちらから許可を得ませんと直人さんと直接に会うこともできませんので――……これからはもう実質自由ですよー」
「あ……そうですよね、ローズ先生がそうやって俺のこと、「この世界に元からいた人間」ってことにしてくれましたから」
「ですー、そして保護者は美奈子とー、私やこの学園だけだったのが日本国の旧いお家ふたつも加わりますからねー。 やー、さっき連絡したときはびっくらこかれてましたけど、ほんとだってハルヨさんたちにも電話してもらったらー、それはとーっても喜んでいましたからねー。 何が何でもがんばるよーって張り切っていましたー」
「……もう、何から何までお世話になりっぱなしですね、ローズ先生には」
「いいんですよー、そもそも私は先生です。 ついでに直人さんのヒミツには最初からご興味ありましたし? それに、こことは違う世界から来たということについても逆に……あ、直人さんを信じていないわけじゃなかったんですけどもね? しっかりと信じられるようになったんですー。 だって日本国のデータシステムのどこにも完璧に存在しない男の子ですからね? ……あ、で、直人さんには今後も護衛はつけますけど基本的には自由の身ですー。 直人さんに自分から接触したい人って、まずは美奈子やお嫁さんたちのお家からオッケーもらわないとですからね? そですねー、サエさんたちや私たちを連れてでも、おひとりでのおでかけもいいですしー、行きたいのなら海外旅行だって行けますよー? まー、警備がものっすごく大変になるので当分は安全な日本国でガマンしてもらいたいとこですけどもー」
「……とりあえず、俺、海外とかは行ったことないですしいいですよ。 あ、でも、この近くの町とかを適当に散歩したりするのも楽しみです。 俺の家の……あっちの世界で住んでいた家の周りやよく行ってた場所が同じなのかも知りたいですし」
「ですかですかー、いいアイデアですねー? いくらこの学園が素晴らしいところでもお遊びに出られないとうつうつしちゃいますからねー。 ……あ、そろそろそわそわしてますのでこのおはなしはおしまいにしましてー、私の自慢いいですー?」
「? ええ、いいですけど」
「やー、突然でごめんなさいねー。 けど、どーしてもダーリンがダメだって言ってましたのでー」
本題は終わったとばかりに真面目な顔を崩し、にへらという感じで本当にそわそわとし出すローズ先生。
……男が多い、あ、いや、男女が同じくらいの俺の世界のローズ先生は、それはもうすっごくモテていたんだろうなって感じだ。
晴代たちのことがなければ、ほんの数日前の……ああ、ここに来たのはたったの数日前なんだよな……どきっとでもさせられただろう表情と仕草だ。
でも、自慢?
……ああ、ダーリンって言ってるし、旦那さんのことか。
そりゃそうだよな、こんな男が少ない世界なのに旦那さんがすぐそばにいるっていうだけでものすごく幸運なこと、なんだもんな。
テーブルに両手をつきつつ身を乗り出してきて、早く話したいっていう雰囲気しか見せないローズ先生に、どうぞと身振りで知らせる。
…………この世界で、気軽に話せる……年上の男性。
そんな人なら、俺もよく知っておきたいしな。
あ、そうか。
その人を俺に紹介するために、まず先に説明を終えるってことになっていたのか。
なるほどな。
そのダ――……んなさんは、きっととてもいい人なんだろうな。
「いいですかー? いいですかー? ……私の自慢のダーリンを紹介するですよー? ………………………………まずは入って来てくださいなー、みなさんっ」
後ろを振り返って声をかけるローズ先生の顔を追ってこの部屋の奥のドア……あっちは確か俺が検査受けたりしたところに繋がっていたよな……が開いて、そこから出てきた人たち、は、……。
「………………………………え?」
「あー、やーっと解放されましたよ直人――……奴隷なのはひなたちゃんの気分次第ってことなのでどうにかしないとですけど」
さっき引っ張られて行ったままの、あ、いや、相当に叱られたんだろうな、やつれた感じもする早咲と。
「ふんふーん♪ どっれいー、どっれいー♪ 早咲ちゃんにどーんなめーれーしよっかなー? まずは首輪と手錠と猿ぐつわと目隠しとロープとぉ――…………あ、直人くんよかったねー、おめでとー」
その手をまだ握ったまま、ものすごく嬉しそうな顔になっていて、鼻歌が止まらないひなた。
……何だか物騒な言葉は聞かなかったことにしよう。
でも、こうして疲れた感じの笑顔を見せながら手を引っ張られている早咲と、普段以上に嬉しそうにその手を引っ張っているひなたをみるだけで、今のこのふたりの関係がよく分かるな。
……というか、早咲。
ものすごく叱られたはずだろうに、やつれた程度で済んでいる辺り……慣れているんだろうなぁ……。
「………………………………おはよう、直人。 ……ああ、今日からはきちんと「直人」と、息子と呼んでやれるのだな」
「……美奈子さ、……いや、母さん」
確か早咲の件でぜんぜん眠れなかったって聞いていたけど、ローズ先生と同じように平気そうにして、俺に笑顔を……俺にとっては何よりの顔を見せてくれた美奈子さん。
そして……俺のことを引き取ってくれた形になって、こっちの世界での母さんになってくれた、美奈子さんだ。
「……うん。 昨日よりも、ずっといい顔をしているな。 ……よかったな」
「………………………………はい」
俺のすぐそばまで来て……ちょっとためらっていたけど、おそるおそるって感じで俺の頭を撫でてくれる。
――――――――――――ああ。
世界は違うし、年も若いし、俺に対して厳しくはないけど……この人は、母さんと同じだ。
おもわず何かがこみ上げてきそうになったけど、さすがにみんなの前では見せられない。
いずれ……親子ってことになったなら、母さんとふたりきりの時間も取れるだろう。
そのときに、――――――――――――この世界に来てからどれだけ俺が不安だったか、どうしようもない気持ちだったか。
それで、美奈子さんが母さんになってくれたっていう嬉しさを話し切ってしまってもいいかもしれない。
「………………………………隣。 いいか?」
「はい、どうぞ」
ローズ先生に合わせてちょうど真ん中に座っていた俺は、少しだけ横にずれる。
少しだけ。
……察してくれたのか、俺と肩が触れる距離に美奈子さんが腰を下ろしてくれる。
………………………………母さんの、匂い。
家で、さんざんに……当たり前にあると思っていた匂いがふわりと漂ってきた。
「美奈子もよかったですねー、直人さんのことー、ずーっと気にしてましたものー」
「ああ、今回は助かった。 礼を言うよ、ローズ。 ……別の世界では私の息子として生まれ育ったという直人という少年だ。 できればこうして迎えてやって……私に出産と育児の記憶はないから本物の母親にはなれないが、それでも母親らしき者として接してやりたいと思っていたからな」
「………………………………美奈子、さん……」
「母さんでいいよ? ……と、言うかだな、そう呼んでもらう癖をつけておいてもらった方がいいだろうからな。 その方が皆にも納得してもらいやすい。 ……最初はローズとの設定のすりあわせが上手く行かずに弟とも説明したこともあったが……まあすぐに忘れられるだろう。 いや、確かどちらとも取れるように設定してくれたのだったか。 ならどちらでもいい、か」
「……いいですねー、美奈子も直人さんもすごくすごく嬉しそうで私もすごくすだくハッピーですー。 ………………………………それもこれも、サキのおかげですねー?」
「そう、ですね。 早咲にもですけど、なによりもここにいるみなさんのおかげで」
「はいっ! ハジメからぜーんぶ計算ずくで私たちに指示してくれたサキのおかげで……途中は行き当たりばったりだったり刃物で戦う生徒たちがあったりしてけっこうに強引でしたけどー、でも直人さんを安全に暮らせるようにしてくれましたー! ………………………………そうやっていろいろ考えてこそこそ動いたりして目標を華麗に達成するサキ。 気まぐれで好きなことばっかりしてますサキ。 それがso coolなのです――……」
………………………………。
ん?
あれ、なんだかローズ先生の様子が?
早咲を見上げて……恍惚としたっていう感じの表情をしている。
え、え?
まさか?
いやいや、そんなはずは。
「でしょうー? もっと称えてくれてもいいんですよ? ローズ。 ……さっき美奈子先生とひなたと他何十人からいいところで助けてくれましたし、今日はローズ。 君とだけの夜を過ごそう?」
「R…really? ほんと、ですか? 今日は私ですか? わー、嬉しいですー、今夜は私が早咲を独り占めですよーっ!」
ソファから飛び上がって早咲に駆け寄り抱きつくローズ先生。
そして、さりげなくローズ先生の体じゅうを撫でるようにしている早咲。
で、……ちら、とこっちを見てくるアイツ。
………………………………まあ、コイツならローズ先生みたいな人、逃さないよなぁ……。
「直人の心配はもうなくなりました。 それも、ぼ、私のおかげで! 私のおかげでです!! ……なので、貴重な男子を無事にこの世界で生きることが出来るように策略を駆使して導いた私はMVPですよね? なら、当分は好き勝手してもいいですよね!? ね!?」
「む~~~~~~!! 早咲ちゃんはひなたのどれいになったの! ひなたは早咲ちゃんのせいで、早咲ちゃんのおかげでとっても大変だったの! 特に昨日は!! だから……それに、ひなたはしばらく夜一緒してないの! だから今夜はひなたの番! じゃないの、あしたもあさっても、ひなたのどれいのあいだはずぅっとっ!」
そう言いながら早咲の……腰の辺りにへばりついて怒って……ふつうに怒っているひなた。
………………………………。
うん、なるほど。
そういえば、ひなたもローズ先生も最初っから……母さん、を除いて最初っから早咲と一緒にいたもんな。
ということはひなたもローズ先生も早咲の恋人のひとり……いや、確か。
ひなた、自分のことを正妻だとか何とか言っていなかったか?
………………………………ってことは、まさかこの3人。
「………………………………こほん。 あー、仲がいいことについては……特にお前たち、昔からの仲のローズたちについては今さら何も言わない。 言わない……が、せっかく私たちが親子の契りを交わして浸っていたというのにだなぁ……空気をとは言わないが、せめて余韻くらいはだなぁ……はぁ――……」
「お――う……ごめんなさいです、美奈子。 ついはしゃいでしまいましてー」
「あ、う。 ごめんなさい、美奈子先生。 それに直人くんも」
「いやぁ、いいじゃないですか美奈子せんせー。 ここにいるのはもはや身内だけです、遠慮なんて」
「いくら仲がよくとも節度は大事だぞ? ……はぁ、お前にはもっと落ち着いてもらいこの学校の品格を疑われないようにしてもらわないと……」
………………………………。
最初からの、この人たち。
ひなた、美奈……母さん、ローズ先生、――――――――――そして、早咲。
俺のことを……疑ってもいただろうけど、それでも受け入れてくれて、こうして安心できるところまで面倒を見てくれているこの人たち。
身内。
早咲が言ったように……俺にとっての身内は、晴代に沙映っていうお嫁さんたちと……この人たちだけ、なんだもんな。
なら。
――――――――――ちょっとくらい騒がしくても、それを楽しむくらいはいいだろう。
なんだかいい雰囲気ですね。ということで次回最終話です。ぜひ最後までお付き合いいただけたらと思います。
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