37話 久しぶりのローズ先生と。

榎本直人くん:巻き込まれ主人公。


ローズマリー・ジャーヴィスちゃん:きんぱつでボディラインを隠しきれない、おっとりして明るい先生。


綾小路晴代ちゃん ザ・和服美人(普段は制服ですが)でお淑やか。 髪の毛がものすごく長い子。ひとつひとつの動作がていねい。 早咲ちゃんがおっとり系女子なら晴代ちゃんは清楚系女子。


御園沙映ちゃん 活発……過ぎる女の子。いい子なのですが、仲のいいお兄さんがいることもあって遠慮無くぐいぐい来ます。 ある意味気兼ねなく、前の世界のようにおはなしできる子。肩までのふわふわな髪の毛。



直人くん。いろいろと覚悟が決まったようです。

そしてローズマリー先生の再登場です。時系列的にはたったの数日前ですが、リアルでは結構経っていますね。







「……直人様、沙映様、そろそろ起きられた方がよろしいかと」


「ふぁ?」

「……ん」


………………………………。


俺は……ああ、そうだった。


早咲がひなたに連れて行かれたあとに朝を食べてシャワーですっきりしてもういちど寝る……普通の睡眠の方をだ、したんだった。


時間は……もう昼か。


けど、別に遅いわけじゃない。


……ずいぶん寝た気がするんだけど、案外経っていないんだな。


まぁ、カーテンを閉めているとは言え今日は晴れているし仕方ないのかもしれない。


それに、寝不足分の時間を考えたらむしろちょうどいいくらいだろうしな。


「……あー、眠ーい。 あとおまた痛ーい。 あれ、なんか」

「………………はしたないですよ、沙映様。 あら、それは」


「……………………………………俺、カーテン開けてくるよ」


眠かったのは俺も同じだったんだけど、急に気まずくなって逃げるようにしてベッドから……左右を挟まれているから、足元の方へ滑るようにして降りて絨毯の上を歩く。


無駄に広い寝室の無駄に大きいこのカーテンは重い。


けど、ここからの眺めは……周りにあったはずの家がなく、学校を囲んでいる高いフェンスよりも上だからか遠くまで見通せるものになっている。


ぽつぽつと小さいマンションみたいなものがある以外には、学校の周りの家がほとんど無いっていうので、改めて俺が違う世界にいるんだって……今までのこともあって、ようやくすとんと落ちる感覚があった。


「晴代ー、晴代ちゃーん、ねー、沙映おなか空いたー」

「……そうですね。 先ほど食べたばかりですが時間も時間ですし、いただきましょうか」


振り返ると、朝とは違って目のやりどころに困らない服装、制服の上着を取ってシャツとスカートな格好のふたりがいる。


………………………………。


うん。


時間が経って、ひと眠りして。


俺は、ようやくに馴染んできたんだな。


この、とんでもな世界に。





「……それにしてもさー、早咲ちゃんってほんっとーにダメダメさんなんだねぇ。 沙映、ウワサには聞いてたけどああして見るのは初めてだったかもー」


「……そうだな。 俺も、普段とのギャップに驚いたよ」


お昼。


晴代が頼んでくれた、どこぞのシェフが作った感じのおいしそうな料理を食べているうちに、とうとう早咲の話題になった。


……お昼にフレンチはどうかって思うけど、沙映が同じものが食べたいって言って選んだ「軽めの」コースだからしょうがない。


………………………………これ、外で食べたらいくらなんだろうな。


俺、無一文なんだけど……っていうのはたぶん、男の特権ってやつなんだろう。


なにか言われたらそのときに考えよう。


美奈子さんに泣きつくっていう手段も残されているしな。


「沙映、早咲ちゃん……あーもー、野乃さんって呼んでたときはぜんぜん平気だったけど、やっぱり同じ感じの名前って困るー! ……あ、で、教室でおはなししたときとかとはぜんぜん違ったけど、ひなたちゃんがあそこまで怒ってたんだもんね。 いったい何人の女の子に手、出してるんだろうね――……んむ」


「………………………………少なくとも100人以上、だそうですね。 お友だちの方たちからの噂では、そのようになっていると。 それも、ねんごろ……よく親しくしている方だけで、ですので、実際にはもっとでしょうね。 中学の頃の方や学外の方も含めてしまいますと……」


「………………………………………………………………………………………………」


お上品すぎる味は薄い。


軽く塩を振ってごまかそう。


「そりゃーさー、早咲ちゃんの言ってたことがほんとうなら直人のお嫁さんに沙映たちを選んでくれたのも、こうして同じ部屋で寝て起きて食べるようになれたのも早咲ちゃんのおかげだけどさー。 ………………………………なんかヤダなぁ。 ばっちい感じするー」


「……同感です……。 いえ、感謝はしてもし切れないのですけれど、その。 せめて、先ほどの騒ぎがなければ、早咲様のセクハラまがい……いえ、セクハラそのものな話し方さえ無ければ。 あ、あの修羅場はとてもいいものでしたわ! あの早咲様とひなた様があのように、普段とは真逆になるだなんて! 特に、愛い見た目な上にあの甘えん坊なのが可愛らしいひなたさんが!」


すっ、と晴代が取り出したスマホをで再生されるのは、正座している早咲とそれを見下すひなたの場面。


ひなたが部屋に入って来て少ししたところから始まり……やがては立ち上がらせられ、足のしびれを我慢しつつ腕を引っ張られながら歩いて行く早咲の姿が……それはもうばっちりと、あのときの声も含めて残されてしまっている。


………………………………こういうのはきっと、女子同士で……というか女子しかいないしなぁ……広まっていくんだろうな。


憐れには思うけど同情は出来ない気がする。


「けれど、あれほどとは。 学園中が大騒ぎになるほどにいろいろな方と……その、恋仲になったりしていたのですねぇ。 しかし、聞けば中学以前からあのようだと言うことですし、1度痛い目を見ないといけなかったのでしょうね。 それで早咲様が更生……出来るのかどうかは分かりませんけれど、せめて落ち着いてくだされば。 ええ、またあのような騒ぎは楽し……心苦しいですし、なによりも学園の主席、来年以降にはきっと生徒会でも活躍されるのでしょうし、そのような方が……あのようでは、他の方たちに示しがつきませんもの」


「生徒会……そうか、主席で入ったんだもんな」


「ええ。 この前の試験も学年1位でしたし、きっと体育祭などでも大活躍なのだと……中学のときの噂から伺っております。 品行方正、という大きな課題さえクリアすればまずまちがいなく選ばれるでしょうね。 ……それにしても、ご自分のせいで大変なことになったらさっさと逃げ出されて他の方が絶対に入って来られないこちらの建物、それも直人様のお部屋に逃げ込んでいらっしゃっただなんて……修羅場もお手の物、なのでしょうか」


「まるで怒られ慣れてるこどもみたいだねぇ」


「………………………………………………」


沙映が言ったそのままなんだろうな。


精神年齢っていうのがどのくらいなのかは知らないけど、女に見境のない、性欲に忠実過ぎる中学生。


アイツにはそう言う表現がしっくり来る。


………………………………。


精神年齢。


単純に加算されて俺たちの歳の倍くらいなのか……肉体的には俺たちと同い年だし、あくまでも前世って言う知識があるだけの高校1年生っていう感じなのか。


それは分からない。


けど。


バカは死ななきゃ治らない……どっかで聞いたセリフだけど、実際には死んでも治らないんだからアイツのアレは本性、いや、本質っていうものなんだろうな。


魂って言うものがあるんだったら、きっと魂からのそういうものなんだろう。


……もはや依存のレベルだし、専門のところでカウンセリング受けた方がいいとは思うけど。


………………………………。


俺の友だちには……なにせ、そういうグループとは縁がなかったからな、いなかったけど……まぁ、悪いやつじゃないよな。


むしろいいヤツでもあるくらいだ。


…………あの女癖さえ、なければ。


「ねー、沙映これ嫌いだから誰か食べてー」

「あの、こちらは滅多にない素材のものなので……」


「家のみんなとよく行くところでこれ出てくるから知ってるー。 でもキライなの」

「……では、代わりにこちらを差し上げますわ」


………………………………。


目の前の、俺とこのふたりとの関係を……ものすごく強引だったけど、作りだしてくれたのは……いや、初めからそうしようとしてくれていたのは確かに早咲だ。


まぁ、昨日のは思い切り騙されたし、感謝半分怒り半分だけど……でも、決心はついた。


俺は、この世界を――――――――――――。





「ゴブサタしてますー直人さんー? やー、よかったですねー、ご無事でー」

「おはようございます……あ、いや、こんにちは、ジャーヴィ、ローズ先生」


「はいー、そっちで呼んでもらえて嬉しいですよー。 直人さんと最近ほとんどおはなしできていませんでしたがお元気そうでとてもグッドですー」


いつもの部屋。


いつもの……校長室みたいな豪華すぎる部屋、だけどようやくに慣れてきた柔らかいソファに座って、たったの数日ぶり、だけど久しぶりに感じるローズ先生から出されたお茶を飲む。


……もっとも、俺にはこれがどんな銘柄かだなんて分からないけど。


コップとお皿……ソーサーっていうんだっけ……で上品に飲むローズ先生は、やっぱり美しいっていう感じの、俺たちが想像する、いわゆる金髪美人。


見た目の雰囲気的には晴代の将来で、話し方的には沙映……や、ひなただな。


いや、ローズ先生にとっては外国語なんだし、それは失礼か?


アクセントはともかく、話し方の癖は……外国の人だし、何かのアニメのキャラクターの話し方をそのまま覚えてしまったのかもしれない。


「綾小路さんと御園さん……あー、おふたりは――……ん、ハルヨさんとサエさんでしたねー、あのおふたりからの連絡で大体は聞いてますよー? とっても仲良くしているらしいですねー、羨ましいですねー」


「……連絡、ですか?」


「あ、そですー。 私が直人さんの護衛とカウンセリングをしているのでー。 美奈子が保護者……んー、後見人? ちょっとゴイが出てきませんけど、そういう感じのお仕事とかで忙しいので、私、がんばりましたっ。 がんばって日本国のセントラルにこそこそして、直人さんのいい感じーな経歴、あ、あとコセキですね! 日本国のお役人さんでしたらまず分からないように作り上げてきましたのでもう表に出てもだいじょぶです。 パスポートも用意してますよ?」


「……ありがとうございます」


ローズ先生。


確か、最初の頃にもちらっとそんなことを言っていたけど……まさか経歴とか戸籍まで捏造できるなんて。


あの兵士さんたちの指揮をしているのといい、その情報スキルと言い……この人は一体なんだろうか。


「なのでー、直人さんはめでたく美奈子の弟さん……そこは上手ーく操作しまして、血縁関係を複雑にしましたので義理の弟さんかつ息子さんってなってますよー? 美奈子は息子さんとして扱いたいって言ってましたしー? もちろん、シュッセー……出生記録とかー、男の子が産まれたらまず組まれるでしょー縁談とかもないですしー、学校どころか監視カメラとかにもぜんぜん映っていなかったマボロシの存在ですので、そこはうまーく、悪ーい親戚の方が悪ーいことをして美奈子から直人さんを取り上げて親戚の家に悪ーいことをされながら閉じ込められていたですー、っていうカバーストーリーもばっちりですっ。 ま、その親戚すらいないいないなのでゴーストさんですけどねー? ですがこれで親権は美奈子っ、正真正銘のお母さんと……息子さんでいいですねー、っていうことにしましたしー、あ、美奈子がすっごく喜んでいましたー、直人さんがこれからずっと息子さんなら嬉しいなー、って。 で、架空のチョウショとかにこの歳までひどーいめに遭ってきたっていうのをこれでもかーって書いてきましたのでー、あんまり突っ込んで聞かれなくなったんじゃないかって思いますよー? やー、その手の文書じょーずな部下の子に書いてもらったんですけど私でもドンビキしましたしー? 文才ありますねー。 なのできっと同じはずですよー、それを目にします日本国のお役人さんとかマスコミさんとかー」


「……あの。 俺、口下手なので上手く言えないですけど……ほんとう、ありがとうございます」


「ノープロブレムですっ。 生徒を守るのは先生の責任ですしー、なにより私はこの学園……あ、直人さんには説明しましたけどたぶん忘れてますのでもっかいですねー。 この学園、日本国の中のいい感じの立地を借りていますけどー、紛れもなくひとつの国に近いものですので。 ですのでー、私はこの学園……国家? のdefenceとoffence、あ、えーとですね、つまりは防衛部門でー、あとはサイバーセキュリティーの責任者っていうものなんですー。 直人さんに馴染み深いかもな表現ですとぼーえー大臣みたいなものですかねー? あー、ちょっと違いますかもですね? ……国としての規模はちびっこいものですけど」


「………………………………あの。 ローズ先生って、そこまですごい人……方、だったんですか?」


「ですよー? これでも飛び級の天才としてステイツでいろいろお世話になってきましたしー、今でもあっちこっちから来てちょうだい? って言われてますからねー。 よくお仕事もお願いされてますしー。 ですけど、ふだんはこっちですねー。 ここには美奈子がいますし――……あとは、ここには「ダーリン」がいますから」


そうか、美奈子さんと、………………………………ん?


ダーリン?


………………………………。


………………………………………………………………ああ、そういえばローズ先生って既婚者だったっけ。


そのお相手がいるっていうけど……でも、それなら男のはず。


なら、カウンセリング……主に襲われたときとかの、にはその人の方がよかったはずじゃ?


それに、そんな……男の先生だなんて、まだ見かけたこともない気がするけど。


………………………………。


ああ、外……この学園の外から通ってきてるに決まっているんだから、その旦那さんも外の、ローズ先生の家とかに住んでいるんだろう。


いずれ会ってみたい気がするけど……ローズ先生と同じく外国の人で言葉が通じなかったらどうしよう。

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