5-5


 今となっては、無駄に広いだけの道場である。

 掃除すると言っても二人ではかなり時間がかかる。

 それでも感謝の意を込めて掃除から始めるってのが昔からの習わしらしく。

 真弓も、誠もしっかりと掃除をしていた。

 つまり、今の俺も雑巾がけをしている最中だったりする。

 好感度を稼ぐには近くに居るのが手っ取り早い。

 そして、なによりもやった事のない事をやってみたかったというのもあった。

 俺は、柔道も、剣道も、弓道もやった事もないし興味もなかった。

 でも誠としての知識や経験が、うずくのだ。


 真弓と一緒に身体を動かしたいと。


 そこで、付き合い程度だがやらせてもらうことにしたのだ。

 身体は、思った以上に動いてくれるし、それなりに楽しかった。

 中でも弓道が一番きにいった。

 本来ならやらなければいけない工程とかがあるのだが、めんどくさい。

 ただ、弓を引いて的に当てるだけなら、的当てゲームみたいで楽しかったのだ。


「まぁ、色々と言いたいところはあるんだけど……当てるだけなら誠よりも素質あるんじゃない?」

「そりゃそうだろ。惚れた女が近くに居るんだ、いいとこ見せようとして空回りしてただけだからな」

「って! ちょっとまちなさいよ! それって、本当に私のこと女として見てないってこと!?」

「あー、悪気は、なかったんだ。ただ、事実を伝えておいた方が良い気がしたんでな」


 なんかジト目で見られている。

 でも、友達としての好感度は上がっている気がしなくもない。


「まったく。本来は、ただ当たれば良いってもんじゃないんだからね!」

「そこは、あれだ。狐様のわがままってことで遊ばせてもらえるとありがたい」

「ホント、都合がいいのね」

「いいだろ、せっかくの特別扱いなんだ。甘えるところは甘えさせてもらうさ」


 っていうか、一回矢を射るごとに、形を気にしなきゃいけないって決まりじたいがめんどくさい。


「なんか、アナタと話してるとホント、誠と話してるって気がしないわね」

「何度も言うが、中身がちがうんだ、真弓の顔みるたびに心拍数が、はね上がるようなことはないさ」 

「はいはい。魅力に乏しい女性で申し訳ありませんでした」

「そうでもないぞ。俺の好みじゃないが真弓は綺麗だしカッコいいと思おうぞ」

「えっ!」


 実際に真似するのは、めんどくさいのでしたくはないが、真弓の洗練された動きは本当に綺麗だと思った。


「って、なに顔赤くしてんだよ」

「ばか! いきなり綺麗とか言われたら誰だってこうなるわよ!」

「そうか? 真弓だって、それなりに自覚はあるんだろ?」

「そりゃ、ひどくはないと思うわよ。少なくとも修さんには、綺麗だって言われたいとは思ってるわけだし」

「そういや、恋する女性は美しい、なんて言葉もあった気がするな」

「また、そうやってバカにして!」

「あはははは。良いだろ、事実なんだから」

「んも~」


 ふくれっ面も可愛いものだ。

 こんな感じで、ゲームクリアになるのかどうか分からないが続けるしかないだろう。


 ――俺は、毎日道場に通い。


 的当てゲームを楽しんでいた。


 そして予定通りに訪れた収穫の日。

 俺と真弓だけは手伝い免除で遊んでいた。

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