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 入学式終了後――


 俺達寮生は食堂に集められ、教師や先輩方から分かりきった当たり前の事を注意事項として聞いていた。

 男子の区画と女子の区画は分かれてるから、忍び込んだりしないようにとか言うやつである。

 なんでも、毎年必ず誰かしら問題を起こすそうだ。

 もっとも。逆に言えば、バレなきゃナニやったって構わないって事にもなるんだけどな!

 エロゲーなら、良くある話しだし。

 だから、なのかもしれないが俺を含め真面目に聞いてるヤツラなんてほとんど居なかった。

 その他の注意事項なんて、どーでもいいものすらある。

 まるで時間稼ぎでもしてるかのような雰囲気が一変したのは――

 もの凄い勢いで入ってきた教師が足をもつれさせて転んだところから始まった。


 要約すると、この街がテロリストに占拠され、警察等の公的機関は全て彼らに掌握されたらしい、と言う事になる。


 ものすっごく頑張って演技してるんだなぁ。ってのは伝わってきたし。

 それに少しでも応えようと、俺なりに脳内補正しまくって笑うのもこらえたさ。

 でもさ。いくらなんでも設定が雑すぎるし。

 セリフだって、つっかえつっかえで忘れてるとしか思えない部分も多々あった。

 余興と言うよりも公会処刑みたいな感じなのに……

 一丸となって、新入生を騙そうとする気持ちだけは伝わってくる。

 例えるならあれだ。

 子供の演技を見守る親の気分ってやつ?

 俺は子供とかいねぇから良くは分からんが、たぶんそれに近いはずだ。

 そこで、まぁ、しょうがねぇな。つきあってやるか……ってな、流れになっていた。

 はずなのだが……、


「ね、ねぇ……あいば、くん……。どうしよう……」


 俺の裾を引っ張る女の子が居た。


 はぁ? おいおい、マジですか! 居たよ! 信じちゃってるヤツが一人!


 特に並び順だとか指定されてなかったから、俺達四人は後ろの方で固まって立っていた。

 そのうち一人が、信じられないことに騙されているのだ。

 ちなみに本来なら三人のはずである。

 なぜなら佐藤が寮生ではないからだ。

 それでも、『ど~~~~~~~~しても、余興が見たいから頼むっ!』と拝み倒されてしまい。

 バレた時は、『今後寮に入るかも知れないので見学させてください』ってな感じで取って付けたような嘘でごまかそうと言う段取りになっている。

 今後の事を考えれば恩を売っといて損はない。

 なにせ格闘スキルを持った友人なんて、めったに手に入るもんじゃねぇからな!

 と、まぁ。それはとりあえず置いといて。江藤さんである。


 どーすんだよ、これ!


 目に涙まで浮かべちゃってさ。

 誰だよ! こんな純真無垢な女の子高校に入れたの!?

 今時、あんな演技じゃ小学生だって騙せねぇぞ!

 できる事なら、そっこーでネタバレして安心させてやりてぇーが……

 周りの空気が、それを許してくれそうにない。

 教師や、先輩方が、「各自自分達の部屋で待機するように!」とか言いながら、新入生達を食堂から追い出すようにして送り出しているからだ。

 かと、思えば影の方で……


 おいおいおい。なにやってんだよ!


 どう考えてもフライング。

 先輩方の中に、お菓子やら飲み物を持った者がいた。

 おそらく俺達が、ここに呼び戻された時には普通の歓迎会が始まるのだろう。


「ほらほら! キミ達も早く部屋で待機しなさい! ……ん?」


 マジ泣きしてる江藤さんに気付いたらしく。男性教員の顔は引きつっていた。


 ざけんなっ! テメェらが泣かしたんじゃねぇか! 悪役演じるなら最後まできっちりやりやがれ!


 まだ、他の生徒が残ってる手前……文句言いたくても言えねぇし。

 ここは、くだらねぇ一発ギャグでも見せてバカを演じるしかねぇか?

 なんて思いながら、教師の前に立ちはだかった瞬間だった。


「あの、先生! よろしいでしょうか!?」

「え?」


 振り向くと鋭い眼が教師を睨んでいた。


「なっ、なんだね!?」


 教師は怯んでいる。威厳なんて全く感じられない。

 って、ゆーか。如月さんがマジ怖えぇ……


「万が一の事態を想定した場合。非力な女子だけでなく。屈強な男子と共に居た方が安全なのではないでしょうか!?」

「い。いや、それでは……規則が……」

「つまり、先生方は生徒の命よりも自分達の保身が大事だとおっしゃるのですね!?」

「ぅぐ……」


 あ~、こりゃ勝負あったわ。

 ってゆーか、抵抗するだけ無駄である。

 どう考えても如月劇場の始まりだ。


「ちなみに俺! 柔道と空手やってるから。かなりつえぇぜ!」


 佐藤が自信満々に胸を張って見せれば、体格で劣る教師は何も言い返せなまま後ずさる。

 そこに、とどめとばかりに如月さんの強い言葉が突き刺さった。


「それでは! 私達四人は相場君の部屋で待機したいと思いますが、よろしいですよねっ!?」


 一瞬、『はぁ? なんだよそれ?』とも思ったが、逆らうと怖そうなので言葉は飲み込む。

 教師は何も言ってくれない。

 かわりに、周りをきょろきょろして援軍を求めていた。

 しかし、他の教師も手一杯で、『自分の担当は自分でなんとかしたまへ!』とでも言わんばかりの顔をするだけだった。

 最初から破綻してるくせに無駄な意地を通した結果……逃げ場を失った教師は、おろおろするばかり。

 もう、これ以上はイジメみたいなものだ。

 それは如月さんも分かってるみたいで、「行きましょう!」と言って、江藤さんの手を取れば、わき目も振らず男子寮のある方へ歩き始めた。

 まったくにもってカッコ良い悪役である。


「ま、ま、待ちなさい!」


 これならば教師の静止も聞かずに勝手な事をした生徒という形が見えるし。

 都合の良い言い訳にもなるだろう。

 結局、特例扱いみたいな感じではあるが。

 一時的に、男子寮に女子が入るのは許された。

 正確には、追いかけてきた教師が論破されて引き下がるしかなかったって落ちである。

 彼の泣き顔は当分忘れる事はないだろう。

 かわいそうに……

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