4-5


 おおむね、昨日と同じレイアウトで商品を並べ終えた頃――

 店主が博物館にありそうな自転車に乗って帰って来た。

 後ろにはリアカーがくくりつけられている。

 そのリアカーの中には、主に箱に入った野菜が積まれていた。


「おはようございます店長! おつかれさまです!」

「お。おは、ようご、ざます、てんちょ、お、つかれさま、れす」


 俺に続いてエルも店主に頭を下げていた。


「あー、きのうも言ったが、てんちょうは、ようわからんで正夫まさおでいい」


 俺としては店長と呼ばせてもらいたかったが、やはり名前呼びの方がいいらしい。


「わかりました正夫さん! 開店の準備だいたい終わりました」

「それはそうと、なんで朝っぱらから電気つけとるんだ?」

「明るい方が、商品が良く見えるからです!」

「まったく! もったいねぇことせんで、はよぅけし!」


 俺としては、もっと電球を増やし明るくした方が良い気がするのだが。

 どうやら正夫さん的には無駄なことだと判断しちまっているみたいだ。

 せっかく昨日、つけ方を覚えたというのに……

 雇われの身である以上しかたがない。

 素直に消した。


「それはそうと、その子。話せるようになったんか?」

「あ、いえ、今のところ、真似ている程度です。ですが教科書も頂いたので、空いた時間に教えようと思ってます」

「そか。まぁ、気長にやんな」


 と言って、正夫さんは古いものも新しいものも気にしないようで、空いたザルに野菜を並べ始めた。

 俺だったら、古いやつを売り切ってから新しいやつを出すか、値引きしてでも古いやつをさきに売っちまおうと考えるのだが……

 残念なことに、正夫さんには、そういった考えがないみたいである。


 客足は昨日と特に変わらずであり。

 俺は、ひまつぶしがてら。エルに、基本の、あいうえおの発音から教えていた。

 思ったよりもエルの吸収力は高く、これなら数日のうちに日常会話が可能になるかもしれない。



 お昼ご飯の時間になり、出て来たものは――!


 あの、ネズミにかじられたであろう麺だった!


 俺は、死んでもおそらく問題ないだろうが……エルはどうなんだ?

 まぁ、夢の住人なんだから大丈夫か。

 とりあえず汁を、すすってみるとしょう油味っぽいなにかで。

 麺の触感は、ゆで方が悪かったのか、にちゃっとしていた。


 一言でいったら、まずい!


 それ以外のなにものでもない味だった。

 言葉は通じなくとも表情は少なからず読める。

 エルも、『これって本当に食べ物なの?』てな顔して食べてたし。



 夕方になり日が陰ってきた頃――


 エルの勉強は思った以上に順調だったのに対し店の売り上げの方は不調。

 それでも、特に気にしている様子がないところから見ると、ふだんからきっとこんな感じなんだろう。


 いろいろ言っても、どうせ無駄だと思い。

 俺は、店先の掃除と窓ふきをしてから、銭湯に行きたいとお願いしたが、ダメだと言われてしまった。

 どうやら、お風呂は二日に一回らしい。

 それに、エルの着替えが、まだないからだとも言われた。

 いちおう、明日には用意してくれるらしいので……明日は風呂に入れそうだ。


 それなりに汗もかいてるし、風呂くらいは毎日はいりたかったなぁ。


 夕食を食べて店じまいしたら、今日のお勤め終了。


 最後の方は、見よう見まねでエルも手伝ってくれた。

 やはり、かなり賢い子みたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る