4-15


 時間にして1時間ほどだろうか……

 太郎は、まったくできない子でないことが判明していた。


 問題は、教え方の方だろ、これ?


 だってさ、一桁の足し算でつまづいてるならそこから教えるべきだ。

 指折りしながら数えさせて、答え書かせてりゃ、正解にたどりつくんだぜ。

 10問連続で正解できるようになった時点で引き算をやらせてみれば――最初こそミスも目立ったが直ぐに連続で正解できるようになっていた。


「なぁ、太郎。なんでお前の先生は、補習とかしてくれなかったんだ?」

「ほしゅう、って、なんですか、社様?」


 そこからかよ!


「いまの、お前さんみたいに分からないところを教えてくれる……つまり、いま俺がやってる特別授業みたいなもんだな」

「そんなの、ないですよ。もし、あったとしても、にげます」

「なんでだよ!」

「だって、シナイで、たたかれるだけだし」

「はぁ?」


 竹刀って――どうなってんだよ、このドリームワールドは!


「そんなもんで殴られるって知ってたら俺だって逃げ出すわ!」

「パパ。シナイってなんですか?」

「竹で出来た刀みたいなもんで、叩かれるとめちゃくちゃ痛いって覚えておけばいい」

「わかりました……」


 エルの顔が、ひきつっていた。

 そりゃ、そうだよな。

 叩いて出来るようになるなんて話、聞いたこともない。

 っていうか、完全に逆効果だろこれ。


「なぁ、太郎。もしかして、学校サボったりしてるのか?」

「えっ! 社様って、そんなことまでわかるんですか!」

「そりゃ、痛い思いしてまで通う意味が分からんからな」

「あ~あ、社様がせんせいだったら、よかったのになぁ」

「まぁ、そう言うな。出来るようになれば叩かれなくて済むんだし。それに学校サボるくらいならココに来い。俺が分かる範囲なら教えてやる」

「やった! だったら、実と武もよんできます!」

「なんだ、その、実とか武ってのもお前と一緒にサボってるのか?」

「はい、よく三バカっていわれて、おこられてます」


 なんか予想外の展開だが、なんとなく、この流れに乗るのが正解な気がしなくもない。


「分かった、みんなまとめて面倒みてやるから連れてこい」

「すげーや、やっぱり社様って、すごい人なんですね!」

「その言葉は、お前たちが、きちんと出来るようになるまでとっておけ。どう転ぶかは、お前達の頑張りしだいだからな」

「えー」

「もんく言ってないで、今度は二桁の足し算と引き算やってみろ」

「は~い」

「パパ。割り算ってこれで合ってますか?」

「んあ?」


 どうやら俺が、太郎に教えてる間に独学で割り算に挑戦していたみたいだった。

 そして、何事もなかったかのように正解である。


「あぁ、合ってるぞ。その調子で分かるところまでやってみろ」

「わかりました」

「スゲーな、チビすけ! わりざんもできるのかよ!」

「パパの教え方が、上手だからです」


 エルは、得意満面な笑みを浮かべているが、少なくとも俺が教えたのは掛け算までだ。

 正直なところ、ほっといても、つまづくことなくどんどん先に進んで行くだろう。

 太郎は、やっぱり社様はスゲーとか言いながら目をキラキラとさせてるし。

 客を、さばきながらどこまでできるか試されてるって感じだな。

 考えようによっては、ゲームっぽくなってきた。

 しばらくは現状維持で様子をみるか。


 ――って!


 あと二人って、どこに箱、置くんだよ!

 少なからず、不良在庫を処分したとはいえ、そんなに広い店内ではない。

 安請け合いしたは、いいが……やっぱ、できませんじゃしゃれにならん!

 とにかく正夫さんに相談だ!

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