6-2


 姉ちゃんの車に乗せられてきた所は、本当になじみ深い所だった。

 あちらこちらに可愛いメイドさんがいるお店が立ち並び。

 エロイゲームなんかを取り扱うお店もいっぱいある。

 まるで俺の理想を絵に描いたような街並みだ。


「どうだ? 少しは目が覚めたか?」

「あぁ。確かに、これを見ちまうと受け入れるしかねぇって感じがしてくるな……」


 胸が痛んだ。

 エルが、本当は居なかったんだと思うしかない現状が苦しかった。

 それでもまだ未練があったのだろう……


 小さなコスプレイベントの会場でやらかしてしてしまったのだ。


 冷静に考えれば、すぐに別物だと分かったはずなのに――


 明らかに母親の趣味で着させられただけの魔法少女の服を着た幼女に向かって、『エル~!』と叫びながら抱き着いてしまったのだ。

 髪の毛の長さだって違うし、色だってきらびやかな空色だった。

 それでも、脳内補正が暴走し、エルと重ねて見てしまったのだ。


 俺は、係員からも、姉ちゃんからもめちゃくちゃ怒られたが……

 幼女とその母親は、泣きじゃくる俺を見て優しかった。


「おにいちゃん、元気だしてね!」


 エルとは似ても似つかない声で、飴を手渡してくれた幼女。


「ありがとう。それと、本当に、ごめんなさい」

「なにがあったか知りませんが、もうこういうことはしないでくださいね」


 娘と同じく魔法少女の格好をした母親からは、強い母性を感じた。

 許されることなら、このまま甘えてしまいたい気分だ。


「本当に、申し訳ありませんでした」


 全力で謝ることで警察沙汰にならずに済んだが、ある意味――本当の意味で夢から覚めた気分になった。



 帰りの車の中で、姉ちゃんが含み笑いしながら言う。


「そういや、お前、小学生の時もめちゃくちゃ泣いてたことあったよな。あれは、なんでだったっけ?」

「エタフレがサービス終了しちまったからだよ」

「あー。そういや、そんなゲームもあったなぁ」

「なに他人事みてぇに言ってんだよ! そもそも姉ちゃんが無理にやらせてたゲームだったじゃねぇか!」

「そうだったっけ?」

「そうだよ……」


 エターナル・フレンズ。通称エタフレ。

 それは、こづかい欲しさに半強制的にレベル上げとかイベント限定アイテムとかを集めさせられていたオンラインゲームである。

 当初は嫌で嫌でしかたがなかったレベル上げも最後のイベントで変わった。

 タイトルに、いつわりはないと運営は豪語し。新たなボスを実装したのだ。

 そして、そのボスが居るダンジョンをクリアしたギルド名を、とある駅の目立つ場所に張り出すという企画をやり遂げたのだ。

 街の中が日々過疎っていく中で出会った戦士に声をかけられたことがきっかけとなり。

 俺は、真剣にゲームに向き合うことになった。


 だって、しかたがないだろ?


 とつじょ別れてしまった親友を探す手伝いをしてほしいなんて頼まれたら。

 話を聞けば聞くほど、むちゃな内容だとも思ったさ。


 でも、万が一にでも新たに作ったギルド名を見れば気付いてくれるかもしれない!


 そんな熱意を受け取って俺達は、ラスボスに挑み続けて勝利を勝ち取ったのだ。

 実際に、彼らが親友に会えたのかどうかは知らない。

 それでも、俺は彼らに対して友人以上の何かを覚えるくらいの濃い時間を過ごした。

 中でも師匠と呼んでいた同じ魔法職の爺ちゃんには、本当に色んな事を教わった。

 クリアできたのは、サービス終了直前。

 それだって、師匠の活躍あってこそだった。

 感動すると同時に、もうこれで終わりなんだと実感して大泣きしたのである。


 俺って、あのころから、そんなに成長してねぇのかもな……


「で、どうよ。非現実の世界に、もう一度ダイブする覚悟は、あるか?」

「あぁ、もちろんあるさ!」

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