6-3
例え夢でも幻でもいい。
もう一度、エルに会いたかった。
止めた方が、いいと言う職員もいたが、藤江さんが許可してくれている以上、強くは言えない。
そんな彼らとは対照的に。姉ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔である。
「暴れたりした時は分かってるよな?」
「あぁ」
今回は、責任をとるって意味も含めて、姉ちゃんが俺を鎮静させる係だ。
そして――
俺は、機械の起動音と共にやって来る眠気に全てをゆだねたのだった。
*
そこは、白かった――
奥行きも広さも分からない圧倒的な白い空間。
でも、どこか親近感を覚える白いワンピースを着た女性が俺の前に立っていた。
「なっ! なんだよこれ!?」
「うふふ」
やや青みがかった銀髪の美人は手を口に当てて、笑っている。
「初めまして。そしてようこそゲームの駒さん」
「はぁ、なんだよそりゃ!?」
「私を見ても何も思いませんか?」
「そりゃ、やたらと背が高いとは思うけど……」
「うふふ。それは、私の背が特別高いのではなく貴方が背の低い少女の身体と入れ替わっているからですよ」
「はぁ?」
言われてみれば、普段聞いている自分の声とは違う。
まるで、どこかで聞いたことのある幼女の声みたいだった。
「つまり、今、貴方は――貴方がエルと呼んでいた少女と人格を入れ替えられた状態にあると言う事ですよ」
「へ……、俺が、エル?」
「はい。そうですよ。うふふ」
言われて見れば手は小さいし、肌も白くて綺麗だ。
それに、なんかエルの内心を覗き見てるみたいで、恥ずかしさというか、申し訳なさみたいなものが溢れてくる。
でも、それはそれとして、熱っぽくもないみたいだし……
ふらついたりもしないってことは――
「エルは、無事ってことでいいんだよな!?」
「はい。適切に治療されているので。問題は、ありません」
「良かった~」
最悪のパターンは回避したみたいだ。
「実際の話。表に出ている科学技術と言うのは氷山の一角。文字通り歴史を変えてしまうかもしれない遊びに興じて下さるのは一部の理解者のみ」
まるで歌うように、綺麗な声の女性は訳の分からない言葉を続ける。
「貴方も聞いたことくらいは、あるでしょう? 過ぎたる化学は魔法と同じと言う言葉を――そして、文字通り奇跡に等しい技術を私達の生みの親は実現したのです。時間をさかのぼって人格を入れ替える技術を。そして今の貴方。検体番号113番においては、本体ごと時間をさかのぼり。さらには帰還すると言う偉業を成し遂げました」
白く美しい女性は、含み笑いを浮かべる。
「つまり、端的に言うと。不完全ながらも、タイムマシンに等しい物を私達の製作者は作ったのですよ。うふふ」
俺は、なんとかして言葉をひねり出す。
「タイムマシンって、SFのアレか?」
「えぇ、その通りです」
「えと……マジで言ってるんだよな?」
「はい。おおまじめですよ。うふふ」
「よく分からんが、いったいあんたらは何の目的があって、こんな事をしたんだ?」
「趣味ですよ。ふふふ」
「はぁ?」
「科学を極める事が私達を作った人の趣味です。と、言っているのですよ」
マジか、マジで言っちゃてるのか? このお姉さんは?
状況的に、ただの痛いお姉さんには見えないし、何よりも親近感が強くて嘘を言っていると思いたくない。
「なぁ、あんたはいったい誰なんだ?」
「検体番号79番。貴方がエルと呼んだ少女と同じ遺伝子を持つクローンの一人です」
「つまり、あれか。将来エルは、あんたと同じくらいの美人さんになるってことなのか?」
「はい。ご理解が早くて助かります」
理解するも何も意味が分からなくてもなんでもいい!
「俺は、エルと一緒に居たいんだ!」
「うふふ。それは、これから差し出す素敵な提案を聞いてからにしてくださいませ」
「なんだよ! 提案って!?」
「うふふ。貴方が体験してきた人々の誰でも構いません。人生を交換する権利を差し上げますと言う話なのですよ」
「はぁ?」
「相場勇気さんを選ばれた場合。江藤加那さんと同じ大学に進み学生結婚します。鈴木一樹さんを選ばれた場合。天然記念物レベルの珍しい妹さんとのお楽しみが待っております。水無護さんを選ばれた場合。親子共々愛欲の日々を、お約束いたします。竹下誠さんを選ばれた場合。素敵なお嫁さんとの日常が約束されることでしょう」
「なんで、大国寺はねぇんだよ!?」
「意外ですね。貴方は、いちかわマートの創設者になりたいとおっしゃるのですね」
「はぁ! なんでそうなる! って、ゆーか、なんで大国寺が、あの、いちかわマートの創設者になってるんだよ!」
「それは、貴方の知識が残っていますからね。それを上手く使ったのではないかと推測しております」
信じられねぇ。あの空き巣が、大手のスーパーの創設者になるとかマジで信じられねぇ。
「それでは、改めてお伺いいたします。貴方は誰と人生を交換したいですか?」
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