エル2

6-1


 俺は、研究施設にある特別室に監禁されていた。

 目覚めた時に、喚き散らして暴れたのが原因だ。


 つまり、反省中なのである。

 長きにわたる色んな夢物語が本当に夢だったのだと思うと、しっくりくる半面――残念でもあった。

 それにしても、すごいものだ。

 俺は、曲りなりしも理想的な夢物語を体験してきたことになるのだから。

 親友の婆ちゃんにも感謝されたしな。


『本当に、素敵な夢を見れたは、ありがとう矢白ちゃん』


 そう言ってもらえたのが、せめてもの救いと言ったところだろうか。

 俺の親友。三星みほし すばる。その婆ちゃんが藤枝ふじえさん。

 全ては、その婆ちゃんの願いを叶えるための最終実験の産物。

 いちいち調べるのも嫌なのでしてはいないが、登場人物の名前なんかも検索すれば全てヒットすることだろう。


 なにせ、入力したデータの中身なんて、覚えちゃいねぇくらい、すごかったからな。


 忠告されていた通り。

 理想的な夢物語には、ならなかったが――ある意味では、いい夢が見れたのかもしれないと思うようになっていた。


 まぁ、ようするに、それだけの時間。こうして監禁されているって事になるんだが……


 コンコンっとドアをノックする音がして、白衣を着た姉ちゃんが入ってきた。


「どうだ矢白? いい加減。現実世界ってもんを理解できるようになってきたか?」

「あぁ。ゴメン。姉ちゃん」

「ふ~~~。ようやく実験結果のすり合わせが出来そうでなによりだよ」

「なんだ、そりゃ?」

「お前さんの提出したレポートには不可解な点があってな、中でも大国寺三郎として活動していたであろう時間が特におかしいんだ」

「まぁ、確かにエロイ要素全くなかったからな……なんかのバグみてぇなもんじゃねぇのか?」


 なぜか、姉ちゃんは渋い顔をした。


「いや、それがな。単純に時間的な事で整合性がとれていないから困っているんだよ」

「そうなのか?」

「あぁ。お前さん的には、一月以上の時間を過ごしたことになっているが……実際は0.5秒しかない事になっているんだよ」

「んなことねぇだろう?」


 良くも悪くも、あれだけの経験をしたんだ。

 0.5秒とか、ありえないにもほどがある。


「もちろん私達だって、お前の妄言を全て否定しているわけじゃないんだ。だが、相対的に計算すると他の時間との兼ね合いは比較的、整合性がとれているのも事実」

「つまり、俺とエルとの時間は、なかった事にでもした方が納得が行くってことか?」

「あぁ。まったくにもって、その通りなんだよ」

「ふ~~~~。そんなことってあるんか?」

「実際のところ、私達ですら、なぜ上手く起動してくれているのか分からない代物だからな。お前さんの言う通りバグって可能性も否定は、できない」


 実際に、姉ちゃんの言う通りの物なのである。

 三星財閥という莫大な資金源があったからこそ実現できた企画であると同時に――

 その内のいくつかは、作った本人すら良く分からないブラックボックスが存在すると言うのだ。

 姉ちゃんの言うには、なんか、ぱ~っとひらめいたと思ったら出来ちゃってました……てへ。

 と言うのが、本音なのだそうだ。

 そんな怪しい部品が複数あるにも関わらず、それなりに機能してしまうマシン。

 だからこそ、精神的な問題が発生する事も視野に入れて対策がとられていたのである。

 つまり、いまの監禁状態も予定の内なのだ。


「なぁ、それは、それとして。俺っていつになったら、ココから出れるんだ?」

「私の本業は医者じゃないし、そもそも秘密の研究機関だからな。そこらへんはザルだよ。これだけまともに受け答えが出来るようになってきたんなら、いいんじゃないのか?」

「そんなんで出ちまって、姉ちゃんは怒られたりしねぇのか?」

「むしろ私は、その0.5秒に興味があるくらいだからな」

「えっ! それって、もしかして!」

「お前さんの態度次第では、再度アクセスする機会を与えてやらんでもないって事だ」

「マジか!?」

「だが、その前に、いったん現実を直視してからってのが最低条件として出されちまっててな……」

「なんだそりゃ?」

「まぁ、付いて来い。お前さんにとって、なじみ深い所に行くだけさ」

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