5-6
2週間という時間が長かったのか短かったのかは分からない。
それでも、狙ったところに当てるのは少なからず上手くなった気がする。
そこで、的を4つ用意してもらい、俺は今日までの成果を真弓に披露することにした。
真弓とは、何でも話せる友達みたいな感じになれたと思っている。
だからこそ、ちょっと方向性が違ってしまうかもしれないが……
なんとなく、これで終わりにできる予感がしていた。
先ずは一番左の的から。
狙うのは左上。
本来の競技であれば、ど真ん中を狙うべきなのだろう。
だが、それではただ凄いだけで終わってしまう。
だからこその、左上なのだ。
「ちょっと、いきなりギリギリじゃない。本当に凄いもの見せてくれる気あるわけ?」
「まぁ、見てろって!」
次に狙うのは先ほど刺さった矢の下。
その次も、その次も、線を描くように左下ギリギリまでを打ち抜いた。
さすがに、これだけ連続で意図的に狙っているのが見て取れれば、真弓も俺が何をしたいのか察してくれたみたいで、黙って見守ってくれている。
思った以上にいい流れだ!
左下を打ち抜いた次は右に線を描くように打ち抜いていく。
そして出来上がった文字は、L。
次は二番目の的。
真ん中の上ギリギリを打ち抜き。そこから左回りで円を描くように打ち抜いていく。
出来上がった文字は、O。
三番目の的を狙う前に、軽く息を整える。
左上を狙ったつもりが、ギリギリ的から外れてしまった。
やはり先ほどの、Oでかなり神経を削られちまったみたいだ。
それでも気にせず次で左上を射抜き、Vの文字を描く。
ここまでこれば、俺が何をしたいのかバレバレだろうが続けて四番目の的に挑む。
狙うのは左上から――
少なからず緊張しているせいか、まったく的外れのところに突き刺さってしまった。
いったん気持ちを落ち着かせて再チャレンジで上手くいってくれた。
描く文字は、E。
やはり未熟だからなのだろう。
途中で何度となく的を外し――それも、不格好な、形になってしまったが、許してほしい。
左から続けて読むとLOVE。
「なぁ、気持ち伝わったかい?」
「えぇ。アナタって本当にストレートなのね」
「あぁ。真弓には幸せになってほしいからな」
「これで、お別れってこと?」
「俺の勘違いじゃなきゃ今日あたりで時間切れだと思ったんでな」
「ねぇ。もし行かないでっていったら、アナタは残ってくれるのかしら?」
俺は、ゆっくりと首を振る。
男と女の間では友情は得ずらいと言うが、少なくとも俺は、それに近い物を真弓に感じていたし。
こうして、引き留めようとしてくれているところからみると、真弓も似たような感情を持ってくれているのだろう。
「それはないよ……」
後は、時間だけの問題だと思った。
どれだけ、会話する時間が残されているかは知らない。
でも、黒い瞳に涙を浮かべた真弓の顔を見れば、それほど長くないと思えた。
「ねぇ。エルちゃんがさ。無事だって分かったら戻って来るとかできないのかな?」
「さぁな。俺自身の意思で行ったり来たりしてるわけじゃないからな」
「でも、それなりに楽しんでくれたんだよね?」
「あぁ、真弓に会えて良かったよ」
「だったら、もう少しくらい遊んでいけばいいじゃない!」
「ごめん、それと。ありがとう、な……」
本当に予想通り足元から崩れ去る感覚がして――
「おいてかないでー!」
*
俺は、本当の意味で目を覚ました。
どこだか分からない……ん、じゃない!
そうだ、俺は――
「おい! 姉ちゃん! 今すぐエルに会わせろ!」
「
若い男性職員が俺を、たしなめてくる。
しかし、その態度がよけいにムカついた。
「うるせぇ! いいから、エルに会わせやがれ!」
「ゴメン」
暴れたり、妄言と思われる言葉を吐いた時の対処法。
強制的に鎮静される薬を打たれ。
俺は、気を失った。
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