4-3
おそらく、あの部屋もそうとう臭いんだろうが。
この大国寺自身も、かなり臭い!
さらに銭湯の中にあった鏡を見てあまりのひどさに、がくぜんとした。
見た目の年齢は40代くらいで、ぶしょうひげだらけ。
視界が狭いと思ったら右目の辺りが少しかんぼつしてやがったのだ。
まぶたも半分くらいしか開かないようになっている。
殴られたり蹴られたりして文字どおり顔の形がかわっちまってやがるのだ。
口を開けてみると、歯も何本か抜けていて口臭もきつい。
不幸中の幸いってほどじゃないが、頭髪が短めなのだけは、手入れが楽そうで良かった。
何度となく、反省という意味で、丸坊主にされたことがあるからだ。
こんな主人公いったいどこに需要があるってんだよ?
知ってるヤツがいたら教えてくれ!
ってゆーか、罰ゲームレベルだろこれって!
こんなので、どうやったら素敵なハッピーエンドにつながるのか、さっぱりわからん。
まさかとは思うが、あの幼女を攻略ってことはねぇよな?
2次元だったなら、まだ分からなくもないが……
今まで見てきた素敵な夢は、いったいどこにいっちまったんだ。
とほほ……
いくらなげいても始まらない。
とにかく、この身体を綺麗にしようと決め徹底的に洗った。
ひげなんて、そったこともなかったが。お風呂セットの中にカミソリが入っていたので試しに使ってみることにした。
知識としてあるのは、エロサイトで見たアソコの毛をそる手順くらいしかない。
とりあえず石鹸を泡立てて、顔にぬりたくってみた。
思ったように上手くできず――何カ所か切り傷をつくりながらもなんとか、そってみたが……
見た目の悪さは、たいして変わらなかった。
着替えは市川さんの息子さんが使っていたものらしいが、変色して臭うシャツやズボンなんかよりは何倍もましだ。
それにしても、この夢物語の銭湯ってのは思った以上にめんどくさいところだった。
身体洗うのも頭洗うのも持参した石鹸と手ぬぐいしかなく。シャワーもない。
風呂をあがったあとも、バスタオルなんてなくて……
しかたがないから手ぬぐいを、きつくしぼって身体ふいてきたのだ。
なにはともあれ、これで最低条件は整ったのか?
なんか、まだ色々と足りない気もするが……
って! よく考えたら長くても一日もなかったじゃないか!
いったい俺は、なにをあせってたんだ?
どうせそのうち起こされるんだから、それまでの我慢してればいいだけじゃねぇか。
確かに今までは、素晴らしい夢を見させてもらってきたかもしれない。
それが、なんらかの間違いでこんな事になっちまったが、おそらく明日の朝を、この設定でむかえることはないだろう。
そう考えると、あの幼女の存在理由が、ますますわからん。
だが、とるにたらないモノだと思えば気が楽になった。
市川屋に戻ると俺が身に着けていた物は洗濯するから渡してほしいと奥さんに言われた。
正直なところ捨てた方が早いと思っていただけに驚いたが、気にする必要もあるまい。
洗いたいと言うのなら、気持ちよく洗ってもらうことにしよう。
俺が銭湯に行っている間に、幼女は履物をもらったらしく、古びたサンダルみたいなものをはいていて。
藤山さんは帰ってしまったらしく居なかった。
店番をしてくれと言われたので、言われるがまま店番をしていたが……
暇だった。
時間にして20分から30分くらいのの間に一人か二人客が来る程度で、そのたびに驚かれては、市川の爺さんに声をかけるってのが俺の今やってる仕事である。
とても給料が発生するようなものではないだろうが気にする必要もない。
こうして幼女と並んで、店の奥にある腰を下ろせる場所に座っているうちに今日が終わり。
新しい物語が始まるのだろう。
「なぁ。お前、本当に言葉わかんねぇのか?」
「エウ?」
俺以外の誰が話しかけても『エウ』と言って首をかしげるだけ。
おとなしくしてくれてるのが、せめてもの救いだろう。
これで夏美みたいに暴力的だったら、とてもじゃないが面倒なんてみきれん。
仕事らしい仕事もしていないのに、夕食まで食べさせてもらった。
帰りに歯を磨くものが欲しいと言ったら、歯ブラシと缶に入った歯磨き粉を渡された。
あの臭い部屋に帰るのは嫌だが、今夜限りだと思えば我慢できなくもないだろう。
蒸し暑さの残る帰り道。名前も知らなければ言葉も通じない幼女と手をつないで帰路につく。
いまさらだが、俺の住んでいる借家は鍵なんていうものはなかった。
っていうか、そもそも窓も全開である。
防犯意識が低いにもほどがあるってもんだ。
こんなんだから大国寺みたいなバカが空き巣なんてやりたい放題になっちまってるんだよ!
エアコンもなければ扇風機もない部屋は蒸し風呂ってほどじゃないが、かなり熱く……
そして何よりも臭かった。
さらに電灯も点いてくれない。
そういえば、古い時代のヤツってLEDと違って寿命が短いんだっけ。
は~ぁ。
とにかく寝よう。
しきっぱなしの布団もあった気がするが、とてもじゃないが近づきたくない。
月明りを頼りにして寝れそうな場所を確認し、畳の上でそのまま寝る事にした。
「なぁ。こんなんで寝れそうか?」
「エウ?」
俺が横になって見せれば真似してくれると信じて寝る事にした。
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