4-11
久しぶりに感じる布団の上での目覚めは、思った以上に嬉しかったが……
隣にエルがいる以上、まだまだ、この夢物語は続くようだ。
やはり、トリガーになる何かが必要な気がしてならない。
本当に、どうなてやがるんだ?
マジで本体が昏睡状態にでもなっちまってるんだろうか?
それとも、夏美に呆れられて放置されちまってるのか?
いずれにしろ現状は変わらない。
「ん~。パパ、おはようございます」
「あぁ、おはようエル」
眠い目を、こすりながらも、きちんと挨拶できたごほうびとばかりに、エルの頭をなでながらも。
今日も、仕事するしかないのかぁ。
なんて思いながら階段を下り、お茶の間に行くと、今日は休みだと言われてしまった。
どうやら、週に一度は、店自体――と言うか商店街が休みらしい。
そんな説明をカレンダー見ながらされた。
ちょとまて! 1952 昭和27年とか書いてあるんですけど!
なんで、こんなにも中途半端な年代なんだ?
「あのぅ。正夫さん。このカレンダーって今年の物なんですよね?」
「そりゃー。とうぜんだろう。古いもんなんぞ、使い物にならんからな」
マジか、マジなのか!
なんか昭和っぽいなぁ、とは思っていたが、27年って、なんか意味があるのか?
俺の中にあるエロゲーの知識では、まったくにもって対応できそうにない。
基本的に現代社会がベースなファンタジー世界だったからな。
こんな時代に生かせる知識とかなんてあったか?
頼むから誰かヒントとかくれよ!
じゃなけりゃ、ホントにただの詰みゲーになっちまうかもしれねぇ。
とりあえず、思いついた、ことといったら状況確認くらいしかなかった。
少し雲ってはいるが、雨が降りそうな感じはしない。
散策には、ちょうどいい。
大国寺の知識も、それなりにはあるが……
基本的に、どの店が簡単に盗むことができるか?
そんな、どうしようもないことが前提条件になっているため、商店街の様子すらいまいち分からなかった。
だから俺は、エルと一緒に散歩がてら商店街を見て回ることにしたのだ。
*
人通りは極端に少なかった。
向かいにある魚屋さんも、右隣にある靴屋さんも、左隣にある文房具屋さんも店を閉めている。
本当に商店街自体が休みらしい。
もののついで、みたいなものだが、なんとなく神社に行ってみたくなって銭湯のある方へ歩き出した。
途中には、酒屋さんとか、衣料品を扱うお店等の商店が立ち並んでいる。
銭湯を過ぎると、家電を扱っていそうなお店もあった。
なぜか市川家には、テレビとかの家電がないが。どんな物が置いてあるのか少なからず興味がわいた。
時間をもらえたら、見てみたいきがする。
どこも店が閉まているため中までは分からないが、生活に必要な物は、商店街だけで全てそろいそうな感じがした。
途中から上り坂になり、商店の類がなくなる頃――神社が見えてきた。
ぱっと見ただけで何段あるか分からないくらいの階段が、ずーっと上の方まで続いている。
「エル大丈夫そうか?」
「はい、だいじょうぶです」
「つらくなったら言うんだぞ」
「はい、わかりました」
なるべくエルの登る速度に合わせたせいか、それなりに時間は、かかったが――
なんとか神社の境内にたどりついた。
だれも居ないせいか思っていたよりも広く感じた。
薄い知識と重ね合わせるように夏祭りの様子が浮かんでくる。
もちろん綺麗な思いでなんかじゃない。
気のゆるんだ人の財布を盗ったり。盗み食いしたり……
あぁ。なんで、こんなにもひどいキャラが主人公なんだろう。
お賽銭もないけど、せめてもの気持ちとして、お参りする場所まで行って――手を合わせ頭を下げた。
いろいろと申し訳ありませんでした!
できることなら、もう許してください!
俺が頭を下げたところで大国寺のやってきた事が許されるなんて思ってない。
ただ、こうすることで、なんらかのフラグが立つ可能性があるからやっているのだ。
隣を見るとエルも俺の真似をしていた。
「パパ、これには、なんの、いみが、あるのですか?」
「あぁ、本当は、お賽銭入れてお願いする場所なんだが……今日は、まぁ、挨拶みたいなものかな」
「おさいせん、ってなんですか?」
「神様にお願いする時に使う、お金かな?」
「おかね、はらうと、かみさまと、いうのは、おねがい、きいて、くれるのですか?」
「実際のところは、分からないけど、まぁ、そんな気分に、なれるってくらいかな」
「では、おかねの、むだ、ということでしょうか?」
何も知らないってのは、おそろしい。
誰も居ないからいいが、神社の関係者が聞いたら、このバチアタリめが! とか言われそうな発言である。
「ん~、気分が楽になるだけで救われる人も居るんだから、全く無駄ってことはないよ」
「では、おかねが、てにはいったら、おかあさんが、あらわれませんように、おねがい、します」
「そんなにも、お母さんに会うのが嫌なのか?」
「はい、もうすてられたくは、ないのです」
「そりゃ、そうか……」
どんな事情が、あったか知らないが、あんな部屋に娘を置き去りにするような母親だもんな……
なにかあったら、あっさりエルのことを捨てそうな気がする。
正直なところ、そんなヤツにエルを任せたところで、この夢物語から抜け出せる気がしないし。
そもそも、俺自身の感情として、なんとなく嫌ってのもあった。
「さてと、階段下りれそうか?」
「はい、ゆっくり、おりれば、だいじょうぶです」
「きつくなったら言うんだぞ?」
「はい」
万が一にでも、転げ落ちたりでもしたらバッドエンドになりかねない。
念のため、手をつないで、ゆっくりと階段を下りたのだった。
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