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だからこそ、ここは勘違いさせないようにしなければならん。
一語一句、極力丁寧にかつ、確かな発音で、しれっと言ってやるべきなのだ。
「や、俺ら苗字が同じ
「は……?」
「親父と恵おばさんは、まだ結婚してねぇ、つってんの」
「ば、バカ言わないでよ! け、結婚式だってしたし! 新婚旅行だって、したじゃない!」
「市役所行って、婚姻届け出してなくてもか?」
会話の流れなんてどうでもいい。
単純明解なクリティカルヒット一つで話しは終わる。
まぁ、いちいち説明するのがめんどくさかっただけなのだが。
「一樹君の言う通り。戸籍上で言ったらお母さん達、夫婦でもなければ家族でもないわよ。それに、そもそも血縁関係がないんだから、どっちしたって、あなた達が結婚するのに問題なんてあるわけないじゃない。まったく、この子は何言ってるんだか」
追い討ちとばかりに発せられた、恵おばさんからの的確な援護射撃により夏実は轟沈。
チラッと顔を見れば、腹を抱えて笑いたくなるくらいまぬけな顔してやがる。
「ってことで、そいつを脱いで見せやがれ!」
「はぁ!? ふざけないでよね! なんで――」
「いい加減にしなさい夏実! あんた何でもするって言ったじゃない!」
ドンっとテーブルを強く叩く音が響いた。
どうやら、やばいスイッチが入っちまったみたいだ。
「あ、ぐぅ……」
つい先ほどまで、ギャーギャー言い合ってたヤツとは思えないくらい、夏実の声には力がない。
こうなった恵おばさんが、めちゃくちゃ厄介なのを知っているからだ。
普段おとなしい人ほどキレると怖いと言うが。恵おばさんは、まさにそれ。
警察ざたになった過去をもっていると言えば多少なりとも想像はつくであろう。
自分自身がとやかく言われることに対しては平然としてるくせに、ひとたび俺達が標的になろうものなら親せき全てを敵に回す。
そのくらい当たり前だとばかりに、やってのけるから恐ろしい。
パンツを見せろだの見せないだのともめた時もかなりすごかった。
最終的にスカート等を履いていない時は家中のカーテンを閉めたまま生活することで合意。っていうか従う以外の選択肢がなかった。
そして、翌日からパンツ丸出しになった夏実の姿を拝み続ける日々が始まったのだ。
今にして思えば、当初は顔を真っ赤にしていたし。
あー、コイツにも可愛いとこあったんだなぁ。
なんて、素直に思ったりもした。
それでも、慣れちまえばそれまでだったらしく。
今となっては恥じらいなど、みじんも見せない。
むしろ率先してパンツ見てろって言ってるくらいだしな。
おそらく、エロイパンツになっても一週間もすれば同じになるんだろうが……
短い間だけでも、可愛いい女の子が見れるなら、罠にはめた価値はあるというものだ。
それにしてもリアルはめんどくさい。
もしも、ちあきだったら――
そっと目を閉じる。
*
傾きはじめた日が差し込むリビングには制服にエプロンという定番の姿があった。
スパイシーな香りに反応した胃袋がグーっと鳴る。
どうやら、今日の夕食はカレーみたいだ。
『あっ!』
振り返った彼女は、少しばかり申し訳なさそうな顔をしている。
『ごめんね、だいちゃん。スイッチ押し忘れちゃってて。もう少しでご飯炊けるから……だ、だからね、それまで私でがまんしてもらっててもいいかな?』
真っ赤な顔でピンク色の下着を下ろすと――
テーブルに背中を預け。エプロンと一緒にスカートをたくし上げていく。
『むしろお前がメインだ!』
*
――ちあきに向かって思いっきりダイブしたはずが!?
「ぐはっ」
思いっきり叩き起こされていた……
「だから、寝るなって言ってるじゃない!」
「返せ!」
「え?」
「『えっ?』じゃねぇよ! 俺の、ちあきを返せ!」
「ほら見なさい! 夏実が可愛いくない下着ばっかり見せてるから夢見ちゃってるのよ!」
「うぐ……げ、現実は、いつだって厳しいものでしょ」
「まったく、あぁ言えばこう言う。どうして、あなたは、いつもいつもそうなの!? 少しくらい素直になる努力をしなさい!」
「あ~~~! もう! わ、わかったわよ! 見せればいいんでしょ! 見せてやるから付いて来て!」
夏実の部屋に入ったのは、久しぶりだった。
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