3-3
朝食を食べ終えると、早めに家を出る。
深雪の足が遅いからだ。
護のやってた事を実感すればするほど、介護者みたいに思えてならない。
所々にある、山のように積まれた雪に新鮮さを覚えながらも、友人AとBとの待ち合わせ場所に向かう。
個人でやっている小林薬局の駐車場が俺達の待ち合わせ場所になっていて。
そこにロングコートにマフラーと手袋。防寒対策ばっちりな二人が近づいて来る。
髪を金髪に染めているのが友人Aの隆弘で性別は男。
見た目はイケメンの部類に入るが、ストレート過ぎる物言いが原因でなかなか彼女が出来ないでいる。
藍色の髪をしていて、ストレートのセミロングが友人Bの涼で性別は女。
なかなかの美人であり、どっかの骸骨と違って年齢相応な女らしさを持っている。
よし、護の記憶としての顔は、いっちしてきた。
この二人が友人AとBで間違いないだろう。
そして、追記するならば――
こいつらは、相思相愛でありながらも恋人関係に踏み出せないでいる。
「よっ! おはよう、ご両人。朝から仲がいいな!」
普段とは違う、俺のはっきりとした物言いに涼と隆弘が目を丸くする。
「ちょ! どうしたのよ水無君!?」
「そうだぞ、護! なんか変なもんでも食ったか!?」
「春子さんに告った!」
「ふぇっ!?」
深雪に続いて隆弘と涼の叫び声が上がる。
「「はぁー!?」」
隆弘が俺の首に腕を絡めて顔を近づけてくる。
「マジか! マジで! 春子さんに告ったんか!?」
「あぁ、昨日までの俺と一緒にしないでくれ」
「ってか、なに? 水無君、いきなり、ボクから俺になってるとか。違和感しかないんだけど」
「気にするな、じきになじむ」
「って、なんか、別人みたいに堂々としてるわね?」
涼は目を大きく見開いて心底おどろいているみたいだ。
そりゃそうだろうな。一応。護ってヤツの設定だと基本はボクだし。ものもはっきりと言わないタイプだ。
そういった点では相場勇気に近い存在だろう。
そんなヤツが、こんな態度とってるんだから驚いて当然だ。
「で、どうよ。春子さんとはヤレそうなんか?」
あいかわらず女子が居てもお構いなしのこのセリフ。
だが、俺も負けてはいられない。
「あぁ。もう今夜の約束はしてある」
「かぁー! マジかよ! まさか俺より先にお前が童貞卒業するとは思ってなかったわ!」
「ふっ。少しぐらいなら感想を教えてやろう」
「ちっくしょー。あの春子さんが初めての相手とか最高過ぎるじゃねぇか。いいなぁ涼?」
「あんたらねぇ。少しは女子の前ってこと自覚してもの言いなさいよね!」
「うっく……」
目を吊り上げる涼とは対照的に深雪の目からは涙が出ていた。
よくもまぁ、あんな枯れ木のような身体から涙なんか出るもんだ。
「って、ゆーか、泣くな深雪!」
えんりょのない涼のチョップが深雪の脳天に突き刺さる。
「ひ、ひどいよ、涼ちゃん……」
「だいたい、水無君とられたのだって、あんたがそんな気持ち悪い身体してるからでしょうが!」
「だ、だって!」
「いーい! 深雪! 言い訳が許されるのは相手の好みになる努力をした者だけに許される特権なの!」
「そうだぞ深雪! テメーの体重が倍になろうが三倍になろうが背負ってやるから気にせず食え!」
「ふぇ?」
「なに、ビックリしたような顔してんだよ! だいたいてめぇは俺に頼り過ぎじゃねぇか! だったらもう少しくれぇ負担が増えても気にしねぇって言ってんだよ!」
「まぁ、実際のところは、どうか分かんないけど。本当に水無君が深雪のお母さんと結婚。なんて事になったら娘として背負っていかなきゃいけないわけだしね」
「や、やだよ! そんなの!」
またしても、えんりょのないチョップが深雪の脳天に炸裂!
「全部、あんたの自業自得なんだから! いいかげん現実を見つめなさい!」
「うぅ……。護くん。本当にお母さんと、つきあうつもりなの?」
「言ったろ。もう今夜の予定は決まってるって」
「そんなぁ……」
「ハイハイ。決まった事をどうこう言っても始まらないんだから、いいかげん行くわよ!」
「だな。こんなくだらない話で遅刻なんぞしたらバカみたいだしな」
俺は、深雪の手を引きながら、学校へ向かったのだった。
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