4-7


 うん、何となくだけどわかってたよ。

 どうせ、こんなことだろうと思ってたよ。

 目覚めたら、またしても畳の上だったよ。


 本当にもう、どうなっちまってんだよ!


 って、はいはい。

 分かってますよ、今日も働けって言うんでしょ。

 なんか大国寺以外の記憶が段々と怪しくなってきて……

 油断してると、本当に俺自身が大国寺なんじゃないかと勘違いしそうになっちまう。

 頭を振って江藤さんに夏美。春子さんの事を強く思い描く。


 よし!


 三人の事は、しっかり思い出せる!

 まだ大丈夫だ!


 しばらくするとエルが目を覚ました。


「あ、おはようございます」

「うん。よくできたな」


 エルの頭をなでながら、俺も「おはよう」と言う。


「じゃぁ、今日も歯を磨いたら行きますか」

「はい」


 本当は、『うん』とか『了解であります!』みたいなノリも欲しいところだが、何事も基本は大事だからな。

 変化球は、そのうち教えていくことにしよう。


 市川屋に着くと今日は市場に行ってないらしく夫婦そろっていた。

 朝食を、ごちそうになると昨日と同じ。

 俺は、掃除から始めた。

 昨日の今日なんだからたいしてホコリもないと思っていたが、それなりに人通りのある道に面しているだけあって少なからず砂ぼこりが商品の上にのっていた。

 それらを、はたきで落としてからホウキでまとめて朝の掃除終了。

 開店準備の開始である。


「ほ~。お前さんずいぶんと、いいてぎわじゃのう」

「いえいえ、俺なんてまだまだっすよ」


 正夫さんに褒められるのは嬉しくもあるが。俺は、本職ではない。

 きっと、その道のプロがみたら鼻で笑う事だろう。

 後は昨日と同じ事をトレースするだけだった。

 予定外だったのは、エルの吸収力が、俺の予想を、はるかに上回っていたことくらいだろう。

 気付いたら日常会話は普通に出来るようになっていたどころか、国語以外の教科書にも手を出していた。

 このペースでいけば、いずれ婿をとって、この市川家を継いで行くってプランも、じゅうぶんに見えてくるだろう。

 後は、あの部屋でまだ過ごすとしたら電球買ってもらわなきゃいけねぇんだよなぁ。

 

 って、ゆーか傘とか懐中電灯とかも必要なんじゃないのか!?


 そこら辺も、含め正夫さんに相談してみたところ……


「なんだい、だったらいっしょに住めば、よかろうに」

「え? いいんですか?」


 予想外の方向で話がまとまってしまった。

 二階が息子さんの使っていた部屋だから、そこを使えばいいと言われ、明るいうちに荷物を取りに行ってくることになった。

 荷物と言っても歯磨きセットくらいなもので……

 それ以外の物は、処分してもらおうと藤山さんに相談したところ。

 使えそうな物は使うからそのままでいいと言われてしまった。

 そして今日までお世話になったことに対し、改めてお礼を言うと、やはり不思議そうな顔で見られたが。 


「社様がついとるんなら、とうぜんか」と言われた。


 市川屋に戻ると二階を案内され。

 二部屋あるうちのどちらでも好きな方を使えと言われたので、なんとなく階段近くの部屋を選んだ。

 4畳半のスペースに、勉強するためと思われる机と引き出し。押し入れが、あるだけのシンプルな部屋だった。

 とりあえず布団をしいて寝る事が出来ればじゅうぶんである。

 それ以上なんて、求めちゃいない。

 どうせ俺が、この物語に付き合うのは一時的なものでしかないのだ。

 こうして、エルと一緒に居候できたってことは――

 明日の朝、目覚めたら違う物語が始まっている可能性は、じゅうぶんあるしな!

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