5-3
俺は、道場に上がらせてもらい。真弓と話をすることにした。
なにせ、好感度稼がなきゃならんからな。
と、言っても、作戦なんてなんにもない。
ただのやぶれかぶれ。負け覚悟の出たとこ勝負だった。
「なぁ、真弓は、家の方針に何がなんでも従うつもりなのか?」
「えっ! そ、そりゃ、お父さんには逆らえないもの……」
「ふ~ん。俺には理解できねぇ」
「な、なによ、その言い方! 一番喜んでたのは誠じゃない!」
「でも、真弓が好きなのは兄貴なんだろ?」
そうなのである、真弓は誠の兄に恋をしていたのだ。
「しょ、しょうがないでしょ!
「世間体なんぞきにせず、告白してりゃ結果は変わったのかもしれねぇ時期だってあったじゃねぇか」
「それは……そうかも、しれなかったけれど……」
「まぁ、婿を取らなきゃいけねぇってのは分かる。でも一回くれぇ思い出つくっておいても良かったと思うぜ」
「は~~~。ホントに、誠じゃないのね」
「そりゃ、中身が違うんだからとうぜんだろう」
「だからって、ここまで言われるとは思ってなかったわよ」
「まぁ、俺からすると、いつまでも兄貴に未練持っててもらっちゃ困るんでな」
「えっ!」
「まぁ、曲りなりしも口説きに来たってことだよ」
真弓の顔が一気に赤くなる。
「えっ! ちょっと! 本気なの!?」
「あぁ、本気さ。なにせお前さんの好感度稼がなきゃ、この夢物語から抜け出せそうにないんでな」
「へ……なにそれ?」
「俺は、前の物語。つまり大国寺としての日常に戻りたいってことさ」
「ゴメン。言ってる意味が全然分からない」
「だろうな」
頭の上に?マークが、いっぱい浮かんでいる真弓に対し、俺は洗いざらいぶちまけていた。
「つまり、誠は、そのエルって娘と、また一緒に暮らしたいってこと?」
「あぁ、その通りだ」
「それで、そのためには、私に好意を持ってもらわなくちゃいけないと?」
「あぁ、物分かりが良くて助かる」
「でもさ、さっきの話だと、またどこの誰とも分からない人の所に行ってとりついちゃう可能性の方が大きいんじゃないの?」
「だが、少なくとも、この世界から逃れないことには、可能性すらないからな」
「ふ~ん。なんか変な感じ」
「そうか?」
「そりゃ、そうでしょう。特に好きでもない女でも見境なく手を出そうとしてた人の考えとは思えないもの」
「あはははは。それな。ホント、俺自身どうかしちまってるんだと思うよ」
「でも、そっか。ちょっと前のアナタだったら私、傷物にされちゃってたんだね」
「そうかもな」
なぜか真弓は少し面白くなさそうな顔をする。
「なんだ? なにか気にさわるような事でも言ったか?」
「いや、さすがにそこまで全く私に興味ありませんって態度見せられると複雑な気分にもなるわよ」
「しょうがねぇだろ。実際に全く興味ねぇんだから」
「は~~~~。それで、どうやって私の好感度とやらを稼ぐつもりなわけ?」
「知らん。むしろ俺が教えて欲しいくらいだ」
「あはははは、変なの」
「まったくだな」
稲の収穫期が近い今日この頃――
まったく実になりそうもない話を俺達は続けていた。
「ねぇ? 試しに私を犯してみたら?」
「やだね、誠のやつに申し訳が立たねぇ」
「ホント、やる気があるんだかないんだか……」
本来なら、真弓の言う通り、手あたり次第なんでも試すってのが正解かもしれない。
でも、おれは別の手を使うことにした。
「って、ことで、とりあえず友達から頼むよ」
差し出した右手は、やんわりと受け入れられていた。
「分かったは。どっちにしろ私に拒否権は、ないからね」
「なんだよそれ、いやいやかよ」
「あはははは、そうでもないわよ。アナタの気持ちは十分わかったつもりだから」
「はぁ、エルのヤツ無事だといいなぁ」
「たぶん、その正夫さんとかセツコさんがなんとかしてくれてるんじゃないの?」
「だったら、いいんだけどな」
なにせ、俺ではなくノーマルの大国寺である。
信用なんてこれっぽっちもできねぇ。
エルのことなんて、ほっぽっといて逃げ出す姿が容易に想像できちまう。
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