新学期8 風紀委員
「
「しゃべんなよお前」
宇田野の声は、砂拂と呼ばれた男の仲間によって遮られた。横腹を蹴り飛ばされた宇田野は、再び地面に転がった。
「なあおチビ君」
宇田野を無視して、砂拂が伍に話しかける。日に焼けた浅黒い肌に、背高で屈強な骨格。若くて今時で、見た目だけはファッション雑誌にでも載っていそうな好青年風だが、その瞳には狂暴な光があった。名前がばれたことなど歯牙にもかけない様子だ。
「
「ごめん、何言ってんのか分からない」
伍が返事を言い終わらないうちに、砂拂の拳が伍の腹部にめりこんだ。むせる伍の耳元に顔を寄せて、砂拂が囁いた。
「そう云うなよ。そこの宇田野が世話になったみたいだからさ、お礼をしたいだけなんだから。大事だろ、そういうの」
さわやかな笑顔で言う。唇からこぼれる歯は作られたように真っ白で、日に焼けた肌によく映えた。激しい暴力とは裏腹の穏やかな口調のせいで、かえってこの男の不気味さが際立った。砂拂にとっては相手を屈服させるいつもの手段なのかもしれなかった。
「拒否してもいいけど、お前と
伍の頭を壁に押し付けて、男は妙に優しく続けた。宇田野は地面にへたりこんだままだ。自分の引きつった顔をせわしなく動かして、二人に伍と砂拂の顔を交互に眺めている。一方の伍は砂拂に向かって、目を細めて笑顔を返しただけだった。そもそも伍は今砂拂がやっているような、込み入った恐怖演出を解釈する感性を持ち合わせていなかった。にかっと笑った伍の口元から、男とは対照的な血に汚れた前歯が覗いた。圧迫された喉笛から、伍はかすれた声で返事を返す。
「やめときなよ。今どきそんなのすぐ足がつくし」
「おれたちのことより自分の心配したほうがいいな、おい」
砂拂の顔から表情が消えた。態度を急変させて相手を動揺させる手口は、宇田野と同じだ。というより宇田野が砂拂のやり口を真似たのだろう。砂拂の腹は決まったようだった。砂拂が伍の頭髪を鷲掴みにして壁に叩きつけようとしたとき、砂拂の背後で何か騒がしい音とともに、何かが倒れるような重い音がした。砂拂が振り返って目を細める。伍はまた笑った。
「今のセリフそのまま返すよ。やっぱりあんたは自分の心配したほうがいいと思う」
砂拂の視線の先に、伍と同じ制服姿の男子高校生が立っていた。足元には砂拂が見張りに立たせていた仲間が倒れている。夕陽の逆光に顔は陰り、光を反射する眼鏡のレンズが妙に際立っている。
「その二人はわが校の生徒だ。放してもらおう」
ホラゲでよくあるような「怪物が徘徊する廃村」に置き去りにされた少年の話 スエコウ @suekou
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