絵の中の窓1 相楽鈴音(さがらすずね)
いじめのきっかけは、いつだって些細なものだ。
普通の女の子だった
小学生の頃の無視という悪戯。
仕掛けた側からすれば大したことではない。ちょっとの間からかうだけ。
すべては偶然の重ね合わせだ。誰かがもうやめようと思う。ちょうどそのタイミングで
小さな間違いはいつしか慣習となり、「相楽鈴音は無視する」という暗黙の了解が定着する。こどもたちは間違え続ける。彼らの
鈴音の心はだれにも気付かれないまま、だれからも目を背けられたまま、傷を負い続ける。
***
だれにも話しかけられなくなって、だれもわたしのことを知らなくなって。どれくらい時間が過ぎただろう。
わたしに絵の才能はない。
だからわたしは「窓」を描く。
直線を四回。鉛筆をまっすぐ滑らせるだけだ。簡単だ。その窓の中に、木々や花や、さんさんと輝く太陽を描く。それらが窓の向こうにあると思うと、なぜかそれなりに上手く描ける。窓がないとダメだ。
顔を描く。
花々の中に、木々の幹に、太陽の中に。
そうやって一人ぼっちの自分から目を逸らす。逸らせない。決して開かない窓の、決して届かない向こうのものに焦がれる自分を再確認するだけだ。花の中の顔が、木の幹の顔が、太陽の中の顔が、わたしを見ている。わたしを見ている顔顔顔顔顔顔顔顔顔
わたしは窓を真っ黒に塗りつぶす。
窓を描くようになってから、ずっとそうやって過ごした。
窓を塗りつぶす。
窓を塗りつぶす。
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