変節 一色彩花(ひいろさいか)
小さいころの思い出、夏祭りの夜。
親とはぐれて泣いていたわたしの手を、駿はずっと握っていてくれた。泣き疲れて眠ってしまったわたしを背負って、家まで連れて帰ってくれた。
いつだって駿はわたしの味方。
いつだって駿はわたしのそばにいてくれる。
高校に入って、急に背が高くなった駿に、背伸びしてファーストキスをした。
わたしはきっと、この人とずっと一緒に生きていくんだ。
そんな確信があった。
***
最初はお調子者で、きざな奴だと思ってた。
でもいいところもあって、いつもニコニコしてて雰囲気を明るくしてくれるし、友達が多くていろんな情報を持ってて、どんな話題でも盛り上げるのが上手だった。
駿も京介みたいだったらいいのにな。
京介はハンサムでスポーツ万能だから、女子にすごくモテる。ある時、私が京介と話してるのに、別の女子が割り込んできてすごくムカついた。
顔に出ちゃったみたいで、京介は私の頭をなでてごめん、でも怒ってくれてうれしいって言ってくれた。
駿も京介みたいだったらいいのに。
京介のキスは力強くて、刺激的だった。口の中を全部彼の物にされたみたいだった。
***
大失敗した。
今日は駿の誕生日だった。京介とデートの約束をしちゃってた。
私は…ウソをついた。親戚と旅行に行くって。
駿は笑って送り出してくれた。楽しんできなよって。
すごく楽しかった。最高だった。夜も。
***
髪を伸ばすことにした。
京介がその方が好みだっていうから。
***
駿がいない。
あの夏のことは思い出したくない。
もう私には、京介しかいない。
***
駿が帰ってきた。
病院に行ったらもう退院してて、学校に補講に行ってるって聞いた。
駿を見つけた。
怖かった。髪を伸ばしてたし染めてたし、誰か分からないんじゃないかって。
でも駿はすぐ気づいた。
はにかむような、控えめな笑顔。そうだ、こんな笑顔だった。忘れてた。私が求めてた笑顔。
駿は日焼けしてて、少し顔に傷があったけど、かっこよかった。駿は小さいころ、女の子みたいな顔立ちのせいで私と姉妹だと勘違いされたときもあったんだ。思い出した。
もっと最近のことを思い出そうとした。駿がいなくなる前の、楽しい思い出。
思い出せない。
そうだ、あのころはずっと京介と一緒だったんだ。
でも大丈夫。思い出はこれからたくさん作ればいいんだ。
京介はもういい。だってやっぱり駿のほうがかっこいいから。
いつだって駿はわたしの味方。
いつだって駿はわたしのそばにいてくれる。
きっとわたしたちは、大丈夫だ。
きっと。
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