絵の中の窓3 美術室
とても霧が深い日だった。
最近霧が多い。学校の敷地が山あいに面しているせいで夏霧が出やすいのかもしれない。いつもの時間いつもの通り教室を抜け出したわたしは、
中庭の向こう木々の向こうの、木造の旧校舎が霧の中で黒黒とそびえている。いつもより大きい気がする。きっと霧のせいだ。見上げた先で揺らめくぼやけたその姿は、巨大な未知の生き物が深呼吸しながらゆっくりと身じろぎしているように見えた。きっと霧のせいだ。いつも旧校舎内を少し散策してから離れの美術室に行くのに、この日はなんだか旧校舎の中に入るのがためらわれた。怪物の口に自分から飛び込むみたいな気がしたからだ。それでもちょっとした非日常に出会えたわたしはほんの少しわくわくした。きっと霧のせいだ。いつもの美術室に入る。
部屋の真ん中に、スタンドに掛けられた
卒業制作にでも使うような見上げるような大きさで、上に布が掛けられている。記憶が曖昧だ。こんなものあったっけ。よく考えたら当たり前だった。ここは美術室なのだから。わたしがここに来るのは何かを得るためではなくて、何かから逃げるためだ。部屋のレイアウトなどに注意を払ったことなどなかったのだった。
キャンバスは教室の真ん中にしんと鎮座していてあまりに当然のように置いてあるせいで、その教室自体が静物の絵画のように見える。被せられた大きめの布は床すれすれまで垂れていて、ほんの少しの隙間から見える頑強なスタンドの足のせいで、シーツを被った巨大なお化けが目の前に立ちはだかっているようだった。
わたしはなぜかそうすることが当たり前のように、キャンバスからその布を取る。
だれかがわたしを呼んだ気がした。
そんなはずはない。だれもわたしのことなんか知らないのだから。
そしてわたしは、
***
とても霧が深い日だった。
最近霧が多い。学校の敷地が山あいに面しているせいで夏霧が出やすいのかもしれない。いつものいつもの教室を抜け出したわたしは、白く沈んだ旧校舎の中庭をそろそろそろとあるいた眼鏡が落ちそうなくらい背を丸めて。眼鏡が落ちそう。旧校舎の一部はまだ利用されていて、中庭の雑草もわりと払われているので見晴らしは悪くない。それでも今日まるで見覚えのない、初めての土地に足を踏み入れた。地面を押しのけるように塗り固められた中庭はその先を霧の中に隠して、ずっと時間がかかりました。きっと霧のせいだ。
向こうの が霧の中で黒黒とそびえている。きっと霧のせいだ。見上げた先で巨大な生き物が深呼吸しながらゆっくりと身じろぎしている。いつも旧校舎内を少し散策してから離れの美術室に行くのに、この日はなんだか中に入るのがためらわれた。ああああれあれに自分から飛び込むのいやだ。それでもちょっとわたしはわくわくした。きっと霧のせいだ。いつもの美術室に入る。
部屋の真ん中に、スタンドに掛けられた
上に布が掛けられている。こんなものあったっけ。当たり前だ。ここは美術室なのだから。わたしがここに来るのは何かを得るためではなくて、逃げるためだ。みんながわたしをわらっています。
キャンバスは教室の真ん中にしんと鎮座していてあまりに当然のように置いてあるせいで、その教室自体のように見える。被せられた大きめの布が床すれすれまで垂れていて、ほんの少しの隙間から見えるお化けの足のせいで、お化けのようだった。
わたしはそうすることが当たり前のように、キャンバスからその布を取る。
だれかが わたしを呼んだ気がした。
そんなはずはないだろ。だれもおまえのことなんか知らないのだから。
そしてわたしは、
***
霧が だった。
わたしは白い庭を歩く。まるで見覚えのない地に足を踏み入れる。道だ。その先は霧。
巨大な生き物がゆっくりと身じろぎしている。中に入るのがこわい。それでもちょっとわたしはわくわくした。嘘だ。でも行くんだ行かなくては。
当たり前だ。ここはキ/' ,@ッなのだから。わたしがここに来るのは逃げるためだ。だれかがケラケラわらっている。わたしを。
布のかかったキャンバス。ほんの少しの隙間から見えるお化けの足。
わたしはキャンバスの布を取る。
だれかが わたしを呼んだ気がした。
あははあは。だれもおまえのことなんか知らない。そしてわた
―こんにちは
は。
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