⑤信介は友達
信介は恐ろしかった。
レイク教授の狂った感覚も、彼が従える卵も、その卵から孵る得体のしれない生物も、すべてが恐ろしい。
怖気がする。思わず後ずさる。
しかし、彼の背後には奇妙な感触が走った。箒のような猛々しい筆状のものが背中に触れる。
嫌な予感がする。
後ろを振り返ると、そこにはシィヤピィェンがいた。退路を防がれた形である。
奥に進もうとすると、汚染されたレイク教授。
だが、もはや奥に進むしかない。
信介はエラリィの手を引っ張りながら、レイク教授を撥ね退け、洞穴の奥へと進んでいく。
だが、その穴はやがて行き止まりに到達する。
もはや先はない。
武器になりそうなのは電磁放射システムだが、安全装置が作動しており、使い方はわからない。あとはバーナーで火を起こすか、ストックを棒状の武器とみなすか、食料で釣るか。
どれも勝算の薄いものだった。しかも、洞穴の中とあっては火を使うことは危険だ。
信介は違和感を感じて足元をヘッドランプで照らした。
すると、何度目だろうか、シィヤピィェンの肉塊が信介の足に這い寄ろうとしているのが見えた。
足を蹴って、肉塊を払いのけようとする。
そんな中、信介が握っていたエラリィの手が強く握り返してきた。
信介はエラリィの様子を伺う。彼女は生気を抜かれたような虚ろな表情をしていた。シィヤピィェンのテレパシーを受けていた時と同じ顔だ。
「しんすけ……、しんすけは……ともだち……」
その表情を変えないまま、エラリィは言葉を発した。
その言葉に信介は薄気味の悪いものを感じる。
洞穴の出口から差し込まれる微かな明かりが影で搔き消える。異様な気配に信介はハッとする。
気がつくと、レイク教授とシィヤピィェンもまた近くに来ていた。
レイク教授に産みつけられた卵から孵った巨大な白い芋虫のような生き物が彼の肩や足を這いずり回っている。そんなことには意に介さず、レイク教授は何事かをつぶやいている。
「しんすけはともだち……しんすけはともだち……しんすけはともだち……しんすけはともだち……」
エラリィと同じ言葉を発していたが、より抑揚がなく、感情の伴わないものに感じられた。
いったい、どういう意味なんだ。不気味なものを感じる信介に、やがてシィヤピィェンのテレパシーが飛んでくる。
――しんすけはともだち……仲良く……しよ……う……
信介はその言葉に脳を支配され、何も考えられなくなる。
だが……。
「アオォォォォォォォ!」
信介は雄たけびを上げる。
「俺はお前なんかに脳を明け渡したりしないぞ!」
自らの意思を取り戻し、啖呵を切る。だが、この状況を打開する方法なんて何も思い浮かんではない。
それでも意思を保ち、キっとシィヤピィェンを睨みつける。
――ピー……ガガー……
そんな時、リュックサックに入っているアマチュア無線がひとりでに音を鳴らし始めた。
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