④千葉紀

「信介君は千葉紀チバニアンという言葉は知っているかい?」

 満面の笑顔のままレイク教授が聞いてきた。

「千葉の大学生で知らない奴はいないですよ」

 不機嫌な表情のまま信介は答える。


 千葉紀とは地質区分の一つで、77万年前から13万年前までの期間である。

 地球史上最後の地磁気逆転が起きたことから発生した時代であった。現在の地球は北極がS極で南極がN極であるが、地球の誕生とともにずっとそうだったわけではない。地磁気はその力(磁力)を常に変化させており、時に逆転する。


 それを観測できる最大の地点が千葉の市原にある千葉セクションなのである。このことが由来となって千葉紀と呼ばれている。

 地磁気が逆転する理由はまったくの不明だし、それが地球上の生物にどのような影響を与えるかもわかっていない。その究明こそが世界中の研究者が千葉に注目している理由だった。


「千葉の地層が人間にとって有意義なのは、つい最近まで海底にあったからなんだよ。

 海底で蓄積されたから地層も厚いし、正確なことがわかるんだ。

 千葉セクションが重要視されているのはそれが理由だね」


 話しながら、にこやかだったレイク教授の目つきが鋭くなる。


「それと同様に我々にとっても最近まで海底だった場所は重要だ。

 ダイアー教授の手記にいにしえのものの拠点だった地点が記されている。

 その中で一番近い時代に海底にあったのはこの千葉なのだ」


 それを聞いた信介は眉をひそめる。


「そのダイアー教授の手記が正しいとして、千葉が地上に出てきて一体何万年経っているというんですかね。

 そんな生物がいたとしてすでに滅んでいるでしょう。滅んでなかったら人間に発見されています」


 その言葉を聞いてレイク教授の顔はさらに笑みで溢れしわくちゃになる。


「そう思うだろう。だが、違うんだな。

 古のものの隷属種族はそう簡単に死に絶えはしない。

 そして、特定の方法を使わなければ見つからないんだ」


 信介にとっては未知の、さらに言えば胡散臭い話ばかり聞かされる。

 少々うんざりとしてきた。


「レイク教授、あなたの言葉を信用する理由がありません。

 悪いですが、俺はこの話からは引かせてもらいます」


 そう告げた信介に対し、レイク教授はエラリィに目配せする。エラリィはカバンから一つのものを取り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る