⑤古のものの遺物
エラリィ女史が取り出したのは布に覆われた箱のようなものだった。
「信介サン、あなたの心臓が丈夫でしたら見せよう思いマス。
ちょット、ショックの大きいもの……かも」
エラリィは箱の中身を見せるのをためらうように、かつ信介の態度をたしなめるように言った。
「信介君なら問題ないですよ。私は彼を見込んでいるんです」
レイク教授はニコニコ笑っている。
信介はその笑顔に胡散臭いものを感じつつも言った。
「見せられるものなら見せて構いませんよ。
グダグダ話したってしょうがない。単刀直入にやりましょう」
「いいのデスネ……」
エラリィは警告するようにつぶやく。緊張しながらも箱を覆っていた布を取り払った。
その箱はガラス張りのケースだった。
その中には肉塊があった。肉であるというのはわかるのだが、同時に地球上にこんな肉を持つ動物が存在するのか、とも思う。
色は紫にも緑にも見える。反射の問題なのか、目の錯覚なのか、油断しているとその色はゆらめくように変化していた。
形状と質感は何とも言えない。今まで見たことのあるどんな物質とも似ていないのだ。どう表現したらいいのか見当もつかない。
そして、肉塊であるにも関わらず、定期的に脈打っている。まだ生きているというのだろうか。
信介は唖然としながら肉塊を見つめていた。
すると、頭の中に奇妙な映像が浮かんできた。それはどこか外国の風景だった。山の中ではあるが、日本とは地質が全く違う。黄色みがかかっており、日本では見かけない草花が生い茂っている。
その山を這い回りながら、仲間を探していた。仲間は近くにはいないが、遠く離れた場所にいるのがわかる。奇妙な感覚で仲間とはつながっていた。
「ァォォォォォォ!」
信介は言葉にならない雄たけびを上げ、肉塊から目を逸らす。
「もういい。その肉を隠してくれ」
吐き捨てるように口に出し、ぜぇぜぇと息を切らせる。その額には汗がびっしょりと流れていた。
エラリィはその言葉を聞いて箱を布で覆い隠した。
「自力でテレパシーから抜け出たんですねぇ。予想した通りの精神力ですよ」
レイク教授は満面の笑みを浮かべている。
「あれはなんなんだ?」
信介はレイク教授をキッと睨みつけ、疑問を口にする。
そんな信介の様子を見てもレイク教授は笑みを途絶えさせない。
「あれはね、イタリアのモンタルバーノ・イオーニコで手に入れたんですよ。
ちょっと出遅れてしまったもので、あれっぽっちしか手に入らなかったんですけどねぇ。
知ってましたか、千葉と競って最後の地磁気逆転後の時代の由来を争った場所ですよ」
「
なんとか残っていたこの肉塊をオークションで競り落として、ようやっと手に入れたんですよ。
活動を停止して長いようですが、バラバラになっても生きながらえているんですねぇ。
ものすごい生命力ですよ」
ニコニコ顔でまくし立てるレイク教授の言葉をどうにか飲み込んだ信介だが、一番肝心なことは話していないことを見逃さない。
「あの肉塊を見ていたら、奇妙な映像と感覚があったが、あれはなんだ? ……テレパシーだとでも言うのか?」
テレパシーという言葉を出すのには少し躊躇した。あの現象を指すのに適切だと思う反面、そんな現象があるはずはないと信介の理性が語っていた。
「そう、テレパシーです」
レイク教授は笑顔のまましれっと返事する。
だから、そのテレパシーってのは何なんだ。信介はレイク教授の態度にイライラし始めていた。
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