SOS房総半島 ―神話生物シィヤピィェン登場―

ニャルさま

序章

①地上に残された秘境 ―千葉―

 現在の地上には秘境と呼ばれるものはもはや存在しない。そう思ってはいないだろうか。

 深海や地中深く、あるいは宇宙にまで足を延ばさなければ未踏の地など存在しない。すべては人間の知性とテクノロジーによって把握されているのだと。


 そんなことはない。

 地上においても、あるいは日本においても。もっといえばこの千葉においても人間が容易に踏み込むことのできない秘境が残されている。そして、その地でどんな生物が蠢いているのか、そんなことすら我々人類には未知のことなのだ。


 千葉は日本においても世界においても特異な地点だ。

 千葉が広大な山脈であるといったら、違和感を抱くだろうか。

 最高峰でもわずかに400メートルを超えているに過ぎないということも事実だ。これは日本の都道府県でも最低の記録である。

 だが、それは海抜からの観測に過ぎない。海底から見れば千葉もまた、遥かなる頂であることに変わりはない。

 そして、海底だろうと地上だろうと構わず生息する、そんな生物もいるのだ。


「山の頂上いただきに立ってるのはさらなる山の深さなり」

 そう語った偉人もいた。(※注)

 山の恐ろしさとは高さではない。深さなのだ。その深さは人類の文明など寄せつけず、人を社会から遠ざけ孤独にする。

 どんな低山でも遭難する人は後を絶たない。これは山の深さに飲み込まれているのだ。

 山の深さ、人の立ち入らない山域の恐ろしさを知らない者は多い。

 ゆえに今回はこの物語を語ろう。


※注:零式防衛術創始者・葉隠はがくれおぼろの言葉。山口やまぐち貴由たかゆき「覚悟のススメ」より引用。

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