②迷い人
町山浩之は思う。
道に迷ったと自覚した時にはすでに遅かった。
町山にも、少し難易度の高い道を選んだ自覚はあった。
不安になっていないわけではなかったが、道はわかっている。現代の登山はGPSを使っているので迷うことはない。
そう過信して、GPSが決して万能でないことなんて思いもしなかった。
林業の業者が仕事をしたであろう、丸太の重なった場所を抜け、獣除けのフェンスを避けて道を進む。気づいたときにはGPSの示していた正規のルートから遠ざかっていた。
町山は焦った。今までにこれほどルートから遠ざかったことはなかった。
GPSと山道の
途方に暮れた町山は迷う。どうにか元来た道を探すか、助けを待つか。それとも、さらに先に進むか。
元来た道を探すのは躊躇した。元来た道はあまりにも険しく、戻ることによって消耗する体力も半端ではない。すでに消耗しきった自分で道を戻ることは考えたくない。
待つのも無理だ。ここではスマホのアンテナも圏外になっており連絡がつかない。家族が異変に気付いて救助を要請するとしても、早くて今日の夜になる。何より、こんな低山で救助を呼んだとなっては登山家としての恥だ。
だが、先に進めば、下山口さえ見つければ、大して時間もかからずに下界に戻れるはずだ。
そんな心理が働き、町山は最悪な選択肢を選んだ。
そして、夜が更けるまで、彼は当てずっぽうで先へ進み、結局道に迷った。
日が暮れて、夜道となると、にっちもさっちいかない状態に陥った。
都会に暮らす人々に夜道といっても通じないだろう。山の夜は本当に闇だ。足元さえ視認することができない。
だが、結果的に彼は幸運だったといえよう。
どこからともなく人工的な明かりが近づいてきていた。それはヘッドランプのライトだった。
それに気づいた町山は自分のヘッドランプの明かりを灯し、大声で助けを呼んだ。
すると、ヘッドランプはさらに近づいてくる。そして、長身痩躯の青年が町山の近くまで来た。
「……ぅす」
かすれるような声で体育会系めいた挨拶をし、そのまま通り過ぎる。
焦った町山は呼び止める。自分を助けるために来てくれたんじゃないのか、と。
「だったら、最初からそう言ってくださいよ」
青年は心底面倒くさそうに声を荒げて、歩みを止める。
だが、町山が出発する準備をする間、紙の地図を広げ、ヘッドランプの明かりを頼りにルートを確認すると、こう言った。
「一番、楽な道で行きますから、ちゃんとついてきてください」
町山はその言葉に光を見た。
やがて、青年の案内するままに進み、無事に下界へと帰り着いた。九死に一生を得たと言っていい。
青年は礼すらろくに聞かずに闇の中に消えていく。
青年の名は
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