第一章 ミスカトニック大学からの依頼
①天童信介
信介の興味には決まった登山道を歩くことはない。地図を睨みながら、未踏の地を探す。それが彼の喜びであり、趣味であった。
ミスカトニック大学の調査隊から声がかかったのは、信介のその趣味を有意義なものと捉えられたからだろう。
その知らせを聞いたとき、さすがの信介も
ミスカトニックという大学は知っている。
アメリカでも五本指に入る有名な大学だ。多数の有意義な研究者たちを輩出しているし、卒業生にも実力のある政治家や実業家が多い。だが、同時にその奇妙な噂も知っていた。
なんでも、死者を蘇生するために大量の死体を集めて研究していたとか、邪悪な神々を呼び出すための魔導書を多数有しているとか、アメリカで起きた心霊事件、災害のいくつかに大きくかかわっているとか。
魔術と魔女の儀式がカリキュラムに組み込まれているという噂すら聞いたことがあった。
なんにしても、まともな大学ではない。立派な人物を輩出しているにしても、それは変わらない。それがどんな大物だったとしても、ミスカトニックの関係者だと言われたら遠ざけたいと思うことだろう。
そのミスカトニック大学のレイク教授率いる調査隊が千葉の山域で動植物の生態調査を行いたいというのだ。その範囲は登山道と呼ばれるエリアを逸脱しており、その案内ができる人間は限られていた。
信介を指名した理由もわからなくはない。
だが、今さら千葉を、アメリカの悪名高いミスカトニック大学の研究隊が調査するというのか。
千葉には固有の生物といえるものが少なく、日本固有といわれる生物も地形的な影響から多くはない。ツキノワグマは千葉には存在しないというのが定説だし、イノシシやシカの報告ですら他県と比べれば少ないと言われていた。
これは千葉の地形に由来する。千葉と東京、埼玉の県境に山や森林が少なく、街や河川によって隣接しているためだ。
獣の棲み家が途絶えているため、獣は千葉を股にかける状態になりにくい。そのため、迷って千葉に来ることは稀だし、その上で千葉を棲み家にすることはさらに少ないケースとなる。
千葉セクションを始めとする有名な地層になら研究の余地も大いにあるだろう。天然記念物に指定されたくらいだ。
しかし、千葉といえど山域は広い。その上で調査する価値のある動植物を見つけるなんて、砂地で砂金を探すようなものに思えてならなかった。
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