③未踏エリア
「草木が多いですから、俺の通った足跡を頼りについてきてください」
信介はそう説明すると、道とも思えないただの茂みを歩き始めた。
茂みを歩くと、道というものが素晴らしい文明の利器だということがよくわかる。草木は歩みを妨げ、露出した肌を傷つける。踏みしめる足も不安定で、バランスを取るのも一苦労だ。どこを歩くのが正しいのかもわからないので、足を踏みしめる場所を探すのも四苦八苦する。
厄介なものに虫もある。蜂や虻に刺されることは厄介だし、気をつけねばなるまい。
だが、進行を妨げるという意味では蜘蛛に気をつけなくてはいけない。油断していると蜘蛛の巣が覆いかぶさり、皮膚に付着する。蜘蛛の巣に触れることがなんだと思うかもしれないが、実際に触れるとそのねっとりとした感触は絶望的に気が滅入る。
昔のRPGの勇者たちは剣を振り回しながら歩いていたが、その気持ちもわかろうというものだ。彼らは蜘蛛の巣を振り払いながら歩いていたのだと理解できるだろう。
信介は経験者でも迷うような道をすいすいと進み、的確に邪魔になる枝や蜘蛛の巣を払っていく。それは事前に読んでおいた山岳地図を頭に叩き込んでいることが大きい。
エラリィ女史もレイク教授も未踏エリアの山行に慣れているため、信介の足跡をたどり的確に道を進んでいった。
草木の多いゾーンを抜けると岩場の多いゾーンに進んだ。
人の手の入った岩場ならば、たいてい正解の道がある。困難な道であれば、ロープや鎖で進むべき道が示され、先へ進むのに必要なのは体力と技術だけとなる。
だが、未踏エリアの岩場には正解はない。岩をどう登ればいいかの正解もなければ、岩を登った先に道があるとも限らない。信介は地図を見て、どの岩場を上るべきか当たりをつける。
「頂上に進むにはこちらですが、頂上でいいんですか?」
尋ねる信介に、レイク教授とエラリィ女史は頷く。すでに軽口を叩く余裕は失われていた。
信介は未踏の岩場を一瞥すると、登り始めた。
岩場を上る時は三点を確保するのが基本だ。両手、両足のうち、三点を固定する。その上でもう一つの手、残りの足を動かし、固定する場所を模索する。
信介の岩登りはその基本を踏襲しつつ、迷いがなかった。そのため、すいすいと岩場を登っていく。あっという間に、岩場の頂点に立った。
「ロープがいるなら垂らしますよ」
後続に声をかけるが、二人はかぶりを振る。
彼らも信介と同様に岩場を登っていく。
さらに先へ進む。岩場をいくつも越える。
岩場は断崖となり、一歩間違えば真っ逆さまに落ちるような場所もあったが、彼らの胆力では先へ進むことの障害にならなかった。
やがて、頂上にたどり着いた。
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