④地震
九頭龍山の山頂にたどり着いたが、別に特筆すべきことはなかった。山頂の碑が立っているわけでもなければ、簡素な看板すらない。ましてや、シィヤピィェンと呼ばれる謎の生命体がいるわけでもない。
直径10メートルほどの平地があるだけだった。岩がごつごつと散らばっているが、彼ら3人が休息をとるには十分なスペースである。
なんの目印もないことを振り払うためか、あるいは、そのことがかえって嬉しいのか、信介は大声を上げた。
「ついに、山頂に着いたぞ!」
信介は山頂に着くたびに雄叫びを上げることにしている。深い意味はないのだろうが、目的を達したことをわかりやすく宣言することで自分や仲間たちを鼓舞しているのだろう。
そんな信介をしり目に、レイク教授はエラリィ女史にひとつの指示を出した。それはシィヤピィェンの肉塊を取り出すことだった。
エラリィが肉塊を取り出そうとすると、信介は目を逸らす。見つめると肉塊のテレパシーに巻き込まれるように思った。テレパシーにはいいイメージがなかった。
「これで何か反応があるといいですねぇ。テレパシーの影響については諸説あるのですが、ダンウィッチで行われた調査と実験では開けた場所での成功率は上がるという成果が上がっているのです。まだ、科学的な実証とは程遠い現象ですが、電波とも関連性のある要素があるという……」
相も変わらずレイク教授が喋り続けていた。それをしり目にエラリィが荷物の中から肉塊を出し、覆われていた布を取り外す。
その時だった。
信介は足元の感覚に違和感を覚えた。その直後、地面が揺れた。
「地震だ!」
こんな山頂で地震とは間が悪いと言える。運が悪いと言える。
だが、岩場を乗り越えてやっとたどり着いた山頂だ。落ちたら真っ逆さまだ。
「岩だ! 岩場を掴め!」
信介は大声を出した。
地震になれない米国人であるレイク教授とエラリィ女史は戸惑っていたが、信介の声で冷静さを取り戻す。それぞれしゃがみ込んで、近場にある岩を掴んだ。
そうやって地震が過ぎるのを待つ。
山で地震に遭った場合に気をつけるべきは土砂崩れや落石だろう。幸いにも、と言っていいかはわからないが、山頂にいるため頭上に注意する必要は少ない。
むしろ、自分たちのいる地面が崩れることこそ恐ろしいが、それは注意してもどうにもならない。
なんにしても過ぎ去るのを待つしかない。
地震が収まると二人に声をかける。
「大丈夫ですか」
すると、青い顔をしたエラリィがレイク教授に謝っていた。
英語で話していたため、すぐには理解できなかったが、どうやらシィヤピィェンの肉塊を落としてしまったらしい。
そして、困ったような顔でレイク教授が信介に頼んできた。
「落ちた肉塊をなんとしても探し出したい。信介君のスキルならできるはずです」
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