⑤失くしたもの
「えぇ……」
レイク教授のあまりのむちゃぶりに困惑して言葉が出なかった。
しかし、二人の落胆ぶりを無言で見ているうちに、だんだんと見ていられなくなってくる。
「しょうがない、やるだけはやってみますよ」
「ありがとうございます!」
エラリィ女史の青い顔は一気に明るい表情になり目を輝かせる。
「信介サン、地図を見せてもらえませんか」
しばらくの間、信介とエラリィは地図とコンパスを見ながら地形について話をした。そして、エラリィは手帳を出してなにやら計算をする。
そして、地図の一点をペンで指した。
「ここが一番ありそうな場所です」
怪訝な感情が起きるが、彼女の言葉以外には当てがない。ミスカトニック大学の調査隊の力とやらを信じて行ってみるのもいいだろう。
信介はそう考えると、地図に再度目を通し、ルートを決める。
手ごろな岩にロープを括り付けると、崖の下にロープを降ろした。平坦な地面までロープが届いたのを確認する。地面までは20メートルほどであった。
「ここから降りてください。ハーネスはありますか?」
その指示に従い、レイク教授が自分のハーネスを用いてロープを通すと、崖を降りていく。
足場をひとつひとつ確保して、徐々に体を下方に移動させていく。途中で少しグラつくが大事には至らず、ロープに大きな負荷をかけることもなく、無事に崖の下に降り立つ。
「大丈夫ですよ! 降りれます!」
レイク教授は大声と身振りで、信介とエラリィに無事を伝える。
続いてエラリィも降りると、ロープを回収すると信介も崖下に向かう。
崖下は山や森というよりも藪という言葉がふさわしい、茂みの中だった。信介はナイフを取り出すと、道を切り開きながら先へ進む。
なるべく獣の通った場所を選び、刈り取る草木を少なくしようとしていたが、それでもなかなかの労力であった。進む速度は必然遅くなり、時間も次第に失われていく。
エラリィ女史の指し示した地点に辿り着いた。
「この辺りですよね? 見つけられそうですか?」
その場所は茂みを抜けており、多少は開けた場所であったが、探し物を簡単に見つけられそうとは言えなかった。やはり山の中だ。木もあり草もある。
「すぐには難しい、思います」
「もう日が暮れます。今のうちに探せるだけ、探しておいてください。ただ、ここから見える範囲でお願いします」
必死でシィヤピィェンの肉塊を探そうとするエラリィ女史だったが、勝算は薄そうだった。
信介はレイク教授に顔を向ける。
「ここをキャンプ地としましょう」
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