⑦地鳴り、発光、そして……

 テレパシーで呼び起こされた記憶。

 そして、回り続けるコンパス。


 何が起きる? 何が起きている?


 信介は必死に頭を回して考える。だが、こんな超常現象のただ中にいた経験なんかない以上、有効な策など持ち合わせているはずがない。

 そんなことを考えながら、レイク教授とエラリィの様子に目をやる。

 専門家は同行していたはずだが、この体たらくである。なんのためのミスカトニック大学調査隊なのか。

 しかし、なにもしなければ待ち受ける運命は同じだろう。


 一回反応があったということは効果のある行動ではないか。

 信介はそう判断し、足元の石を拾う。とにかく投げつけてみよう。

 信介は何度となく石を拾い、そして投げる。石はシィヤピィェンに、あるいは宙に浮く無線機に当たる。

 石に当たったシィヤピィェンが異様な身震いをすることがあったが、そのたびに信介は意識をシィヤピィェンから外す。そのおかげか、テレパシーが頭に入り込んでくることはなかった。

 そして、シィヤピィェンの記憶がよみがえるのに反応してか、地面が揺れる。


 揺れが次第に激しくなっていくが、信介は石を投げる手をやめない。

 テレパシーはシィヤピィェンによるものだが、地震もまた何ものかが起こしているのだろう。レイク教授の言葉を信じるならば、それはクトゥルーだ。地面が揺れているということはクトゥルーが反応しているのだと、予測できる。

 シィャピィェンが石に反応して起こすテレパシーに、クトゥルーが拒絶反応でも起こしているのか。


 ならば、これは効果のある行動だ。破滅に向かう行動かもしれない。しかし、何もしないよりは、少しでも抗った方がいい。

 そう考え、必死で石を投げた。


 シィヤピィェンはうめき声を上げるように苦しんでいる。地鳴りもどんどん激しくなっていく。

 そして、そんな中、無線機が光を放つ。

 それは一瞬のことだったが、地面の揺れは加速し、シィヤピィェンの金切り声さえ聞こえてきた。


 そのまばゆさに瞼を閉じた信介が目を開くと、その光景はまったく違うものになっていた。

 シィヤピィェンはその姿を消し、アマチュア無線は地に落ちている。

 レイク教授は相も変わらず呪いの言葉を口にし、エラリィは状況を理解できないのか泣き崩れていた。

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