⑥打開
「ともだち……ともだち……」
「しんすけ……ともだち……」
レイク教授とエラリィは一心不乱に意味の分からない言葉をつぶやき続ける。
テレパシーは破ったものの、シィヤピィェンと肉塊も同じことを言っているのだろうか。信介に向かって、徐々に這い寄ってきている。
そして、それと同時にアマチュア無線からはけたたましく何者かの声が聞こえてくる。
信介は後ずさりながらもリュックサックから無線機を取り出した。そのはずみで、同様にリュックに入れていたコンパスが地面に落ちた。しかし、そんなことに構う余裕は信介にはない。
無線機を耳に当てる。そこから聞こえてくるのはおぞましい声だった
――死の海に近づく者……何人たりとも……許さぬ……
地の底から、海の果てから聞こえてくるような、恐ろしい響きを持っていた。
それが、呪詛のように怨念を持った言葉を吐いている。
信介は恐怖にすくみながらも、一つの考えに至っていた。
この声はクトゥルーのものであろう。クトゥルーと
シィヤピィェンは古のものに与していた生物である。ならば、シィヤピィェンもまたクトゥルーの敵ということになる。
この状況を打開するには、両者を食い合わせるしかない。
そこまではわかっているが、そのために何をしたらいいかがわからない。
今は状況を見極めることしかできないのか。とにかく、五感に神経を集中させる。
――飛来者の造形物……そしてその末裔……お前たちに破滅を……
バチバチ
アマチュア無線から強い電磁波が放たれた。信介は思わずその手を放す。
だが、無線機は地に落ちず、空中に静止したまま、エネルギーの放出を続けている。
そして、シィヤピィェンは無線機に向かい、何かを行っているように見えた。
「これは、シィヤピィェンがクトゥルーの放つエネルギーと戦っているのか?」
信介はその様子を見てつぶやく。
目には見えないが、人間を越えたものたちが戦っている。その姿を目の当たりにしているのだろうか。
こんな超常の戦いに、ただの人間に過ぎない信介に介入する余地はあるのだろうか。
ない。そう言いたいところだが、そんなことは言っていられない。
何もしなければ、死ぬか廃人だ。
信介は足元の石ころを拾う。そして無線機に投げつけた。コンっと当たるが、何の反応もない。
ならば、と今度はシィヤピィェンに石を投げる。石を拾った瞬間、その石に白い模様が走っているのに気づく。
コツンとシィヤピィェンに当たる。その瞬間、信介はテレパシーに襲われた。
――灰が……降り注ぐ……。熱い……。灰が……降る……。
なぜだか懐かしい気持ちが押し寄せてくる。
火山灰が降り注ぐ中、地中に身を寄せて隠れていた。
そして、ほぼ同時に起こった星から発生する磁場の方向転換。
そんな感覚が、なぜだか思い起こされた。
「あぉっ! また、これかぁっ!」
信介は叫び声とともに我に返る。また、シィヤピィェンのテレパシーを受け、記憶を共有していたのか。
ふと、足元を見るとコンパスが落ちていた。
コンパスは一定の方向を示さず、意思を持っているかのようにグルグルと回転を続けていた。
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