⑦休憩と反省、あと介護

 信介たちが進むのは相変わらずの藪道、それを超えると岩のゴロゴロとした道とも言えない場所だった。

 幸いというか、信介の読み通りというべきか、両手を使ってよじ登らなければならないような場所ではなかった。


 しかし、精神が汚染され、意思の疎通もままならなくなったレイク教授を連れていては、思うように進むことはできない。

 歩く方向さえ誘導すれば、なんとか付いてこさせることはできたが、段差の大きい道や登り坂が多くなってくると言うことを聞かせるのは骨の折れることだった。

 さらに、時折、呪詛のような、気持ちの悪い言葉を喚いては、信介とエラリィ女史の気分を滅入らせる。


 シィヤピィェンと遭遇したのはまだ朝方であったのが、進むのに難儀しているうちに太陽が昇り切ってしまった。

 急ごうとしても、ままならない。二人は昼食をとることにした。


 信介は昨夜の残りのぺミカンを取り出すと、やはり鍋に入れる。今回はジャガイモを多めにしている。

 ガスバーナーで火をつけ、少し炒めたら、水を加える。そして、固形のコンソメスープを入れた。

 湯が沸いてしばらくするとコンソメスープが出来上がる。


 スープを飲み、少し落ち着いたのか、エラリィ女史がつぶやく。


「私はレイク教授がシィヤピィェンとテレパシーを始めたことで、研究が進む、そのことばかり考えていました。それが……取り返しのつかないことになってしまいました」


 信介はスープに入った野菜や肉をぐちゃぐちゃに潰しながら聞いていた。


「俺にはあのテレパシーは気持ち悪いものでしたよ。一瞬だってあれで交信するなんて考えたくないぐらいに。レイク教授もあなたもそうは感じないんですか?」


 ぐちゃぐちゃにしたスープをレイク教授に渡す。彼の様子を見ていると流動食に近い形にした方がいいかと思ったのだ。

 しかし、手渡した瞬間に手が緩み、皿を落としてしまう。


「信介さんはテレパシーの感覚に嫌悪感があるのですね。私もレイク教授もそれほど嫌ではありませんでした。それよりも太古の情報を得られるのが嬉しくて……」


 エラリィは信介が拾ったスープの皿を譲り受けると、スプーンで直接レイク教授の口まで運ぶ。


「それに、シィヤピィェンに害意はないと思ってました。あのお肉とは、何度かテレパシーを交わして、人に害するものかの検証は行っていたのです」


 信介は落ちたスープをティッシュで拾い集めて、自前のごみ袋にしまう。


「まあ、俺とあんたたちじゃ、目的が違いますからね。俺は無事に山行を遂げて帰ることが目的だが、あんたたちは調査だ。考えてもしょうがないな」


 彼らは食事を終えると再び出発の準備をし、目的地に向かい歩き始める。

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