④遭遇

 エラリィ女史の言葉に従い、信介たちは森の奥に進むことになった。

 浜辺から様子をうかがっても鬱蒼とした森の中を見通すことはできない。だから、先に進むしかないのだ。


「レイク教授、さっきのすごかったですね。あれ、俺にも使えたりしませんか?」


「いやぁ、あれは使うには結構練習が必要なんですよ。筋肉の支管となる場所を知っておいて、的確に狙わないといけないからねぇ」


「ほんとですかぁ。俺も使ってみたら、あっさり熊を倒せたりしないですかねぇ」


 軽口をたたきながらも、信介はいつも以上に慎重に歩いていた。

 邪魔になる草木は切った後にそのまま落とさずに、手に持って地面にそっと置く。踏み込む足はいつも以上に優しく、そしてできるだけ落ち葉や枝のない場所を選ぶ。

 それは危険な生物に見つからないようにする意味もあったが、できればシィヤピィェンには会いたくない、そんな気持ちを含んだものだった。


 だが、信介の感情は裏切られた。

 見つけてしまったのだ。奇怪な生物を。


 全身が黒い剛毛で覆われた姿は巨大な毛虫のようにも見える。その動きは、ナマコのような柔軟な動きをしているように感じられる。

 シィヤピィェンと思しき生物は転がっている岩に貪りつき、食べていた。岩はたちまちに砕かれ、飲み込まれていく。

 その姿は見慣れないがゆえに不気味だが、直接的な危険は感じられない。


「こ、これこそが私の待ち望んでいた、いにしえのものへの手掛かり。

 クトゥルーもシィヤピィェンも、私には夢の中にも出てきてくれはしかなった。だが、今なら……」


 レイク教授は涙を流していた。

 そして、吸い寄せられるようにシィヤピィェンの近くに寄っていく。


「おい、やめろ!」


 信介はすかさずレイク教授の前に立ちはだかり、その歩みを止めた。


「もっと慎重に、危険がないように調査できないのか」


 信介の言葉から敬語が剝がれる。恐怖からか冷静な状態ではなくなっている。

 しかし、レイク教授もすでに冷静ではなかった。いや、シィヤピィェンに魅入られてしまっていたと言っていい。

 流した涙をぬぐうこともせずに目を見開く。その表情は狂気に走っていた。


「シィヤピィェンよ、私に心を開いておくれ。そして、教えておくれ、お前の記憶を、知識を、歴史を、古のものの情報を……」


 レイク教授は目を血走らせ、腰に下げていた電磁放射システムを抜き、銃口を信介に向く。さしもの信介もそれ以上制止を続けることはできない。そして、そのままシィヤピィェンへと近づいていった。

 呆然としている信介のもとにエラリィが駆け寄る。


「信介さん、ごめんなさい。でも、今は大事なところなんです」


 エラリィも感情がたかぶっているようだった。

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