⑤心と心の会話
レイク教授はまた一歩また一歩とシィヤピィェンへと近寄っていく。
その表情は
「……あ、ああ、これが
レイク教授は一人で何事かをぶつぶつと喋り始めた。
シィヤピィェンはその様子を眺めているのか、レイク教授と対峙しながらその行動を止めている。
「お、おい、これは……!?」
信介はその様子に困惑し、エラリィ女史に問いかける。
「これはテレパシーですね。シィヤピィェンとテレパシーで会話しているのでしょう」
エラリィは答える。しかし、その答えに信介は納得いかない。
「だったら、早くこの状態を解いてやらないとやばいんじゃねぇのか。二人で協力してレイク教授を助けだすんだ」
「なぜですか? レイク教授はシィヤピィェンとの対話を望んでいたのです。ならば、その望みを叶えてあげた方がいいです」
信介とエラリィは噛み合わなかった。
本能でテレパシーの危険性を感じ取っている信介に対して、エラリィにはその危機感がない。
信介は一人でレイク教授の目を覚まそうと彼に近づこうとする。
だが、その瞬間にシィヤピィェンがぶるぶると震え、毛を何本も放出して信介とエラリィの足元に飛ばした。毛自体に攻撃の意図はないようだったが、二人は毛によって絡め取られ、動くに動けなくなった。
どうにか毛を抜こうとするが、変な絡み方をしており、容易にはいかない。
「古のものはこうしてシィヤピィェンを生み出したのですね、ふむふむ、興味深い……」
なおもレイク教授はぶつぶつと独り言を続けている。
聞き取れる部分を記すと、このようなものであった。
古のものはシィヤピィェンを生み出し、労働力として使役していた。全身が筋肉ともいえる生物で力が強いので肉体労働に秀でており、知能は低かったが、テレパシーを有しておりコミュニケーションが可能だったからだ。
しかし、それもわずかな期間で終わる。より優れた能力を持つショゴスが合成されたからである。ショゴスは不定形で決まった姿を持たず、その粘性と再生力により、兵士としても優れていた。シィヤピィェンに任されていた力仕事も効率的に行うことができ、シィヤピィェンはすぐさまお払い箱となった。
何割かのシィヤピィェンは殺処分されたが、その死肉はまずく、食料として好まれず、かといって他の用途もなかった。やがて、積極的に処分されることはなくなり、放置されることになる。
シィヤピィェンは強靭だった。餌を与えられずとも周囲の鉱石を食料として何万年もの月日を耐え抜き、病気にもならず老衰もしない。
いつしか、古のものからも忘れ去られた存在となり、そして、今日、古のものが死に絶えてもいまだ生きているのだ。
「そうか、つちのなかでくらして、いままでいきてきたんだね」
レイク教授のぶつぶつとした独り言は続いていた。
しかし、その言葉は徐々に幼げなものへと変わっていっていた。
「エラリィ女史、気づいてます? レイク教授の言動がだんだん子供のように……」
信介の指摘は、エラリィ女史も気づいていることだった。テレパシーの会話を許してしまったことが失敗なのだろうか、そんな焦りも出てくる。
「しかし、信介さん。もう、こうなっては……」
「二人でなら教授を引き離せないか……」
信介とエラリィが毛から抜け出せたのは、ほぼ同時だった。レイク教授に近づき、二人がかりで引きずりながらもシィヤピィェンの遠くに連れていこうとする。
だが、すでにレイク教授は変わり果てていた。
「アンアジャゴウモグラデモグランドデドス!」
意味の分からない言葉を吐き出していた。
その言葉は腹の底から出たような力のあるものであったが、何か呪詛を孕んだような、負の感情を詰め込んだような、得体のしれない気味の悪さに満ちたものであった。
信介もエラリィもその言葉を聞いて、そのおぞましさに我を忘れて立ち竦んだ。
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