②シィヤピィェン再び

 エラリィ女史は肉塊に向かい合うが、信介は早く振り払いたくてたまらない。信介が足をバタバタと動かすので、エラリィもうまく捕獲できないでいる。

 ドタバタとしている中で、信介は肉塊を手で叩き落とした。


「今です!」


 その瞬間を見逃さない。エラリィは持っていた箱を地面に落とし、肉塊を両手で掴む。その手の中で肉塊はもぞもぞと動く。


「信介さん、箱を持ってください。確保します」


 その言葉に従い、信介は箱を拾う。そして、恐る恐る肉塊に箱を近づけた。

 だが、次の瞬間に嫌な予感がして振り向く。

 地層のあった穴から顔を出す生物があった。黒い剛毛で覆われた毛むくじゃらの軟体生物、シィヤピィェンであった。


 肉塊を確保するか、今すぐ逃げ出すか、一瞬判断に迷う。その迷いは致命的なものだったかもしれない。

 エラリィ女史のいる方に振り向くと、すでに彼女の表情は虚ろなものになっていた。


「I can see that the flow of the magnetic field generated from the Earth changes. This is Siuyarpiein memory, isn't it?」


 エラリィはテレパシーによってシィヤピィェンの記憶を感じているようだった。

 危険な状態だ。レイク教授のように精神を汚染されて廃人になってしまうかもしれない。


「エラリィ女史! 意識をしっかり持て! テレパシーから抜け出ろ!」


 しかし、信介の言葉は何の影響も与えることはできなかった。

 レイク教授もそうだったが、こうなってしまうと説得もなにも通じない。

 エラリィはぶつぶつと何事かをつぶやき続けた。英語だからはっきりとはわからないが、一時期のレイク教授のように言動が幼くなっていっているように感じられる。


 どうにかして彼女を助け出すことはできないか。焦りながらも必死で考える。

 ふと、ウェアのポケットの重さに気づいた。レイク教授が廃人になった際、彼が落としたものを回収していたのだ。

 それは、電磁放射システムだった。これを使えば事態を打開できないだろうか。


「やるしかねぇかっ!」


 信介は電磁放射システムを取り出し、引き金に手をかける。そして、シィヤピィェンに銃口を向ける。

 だが、果たして引き金を引くだけで効果があるのか。使い方なんて何も知らないのだ。


「えぇい、ままよ!」


 信介は雄叫びを上げると、引き金を引いた。

 瞬間、シィヤピィェンの全身が硬直する。そして、虚ろだったエラリィの表情が生気のあるものに戻っていた。


 信介がなぜ電磁放射システムを使用できたのか。これは幸運だったともいえるが、条件が合っていただけだともいえる。

 レイク教授が信介を撃とうとして安全装置が外れていた。その状態のまま、信介はずっと持ち歩いていたのだ。

 そして、電磁放射システムは目標の筋肉を正確に狙わなければならないが、シィヤピィェンは全身が筋肉でできている生物であるため、何の訓練も受けていない信介が効果的に電磁波を当てることができたのだった。


 しばらくして、硬直していたシィヤピィェンは動きを取り戻すが、電磁放射システムの威力に驚いたのか、元来た穴に戻り、その姿を消す。

 信介はその様子を見届けると、エラリィに駆け寄る。


 エラリィはおびえた様子で英語で何事かをまくし立てていた。

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