第二章 九頭龍山

①低山

 登山をしない方の中には、低山とは難易度の低い山で、高山は難易度の高い山だという思いこみがあるのではないだろうか。いや、多少登山をかじっていても同じような思い込みはある。

 標高が高くなればなるほど自然環境は厳しさを増す。高山の難易度はその標高に比例する部分はあるだろう。だが、低山もまた恐ろしい側面を備えている。


 マイナーな低山は人の手があまり入っていないことが多い。

 人の手が入っていないというのは、かなり大きく難易度に影響を与えるだろう。

 案内の看板や目印のリボンは少なく、草は生い茂り、道が荒れている。正しい道を見つけることさえ困難で、低山と甘く見て気軽に入山したばかりにパニックに陥ることがよくある。


 あるいは真っ逆さまの崖のような場所でも何の舗装もされていない。柵もなければロープすらないなんて、よくあることだ。風が強い日であればなすすべもなく、落ちてしまうかもしれない。


 なにより、人が歩いていないということが、どれほど恐ろしいだろうか。

 現代人は皆人の歩いた道を歩いている。道として成り立っていない場所を歩くことの恐ろしさを理解できているものはいないだろう。


 信介たちが向かった山は誰からも関心のない山である。なんでもない山ほど恐ろしいということがある。

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