④洞穴
信介はレイク教授の痕跡を探す。
幸いというか、人の通った痕のない場所のため、自分の通った場所でない場所の足跡や痕跡はそれだけでレイク教授の通った場所だろうと推測できる。
信介はその行方の検討を付け、エラリィと手をつなぎながら、その行方を追跡する。エラリィとまで離れるわけにはいかないので手をつないでいる。
その道は目的地とはずれた方向に進んでいた。
高地に向かっていたのが低地に向かっている。これはテンションの下がることだった。
下山しようとしている時に低地に向かうのは問題ない。だが、これから登ることがわかっているのに低地に向かうのはモチベーションが妨げられる。
ましてや、同行者の都合で意味もなく下り坂を進むことは無駄な行動としか思えないだろう。
信介と退行したエラリィのスピードは、ふらふらと進むレイク教授のスピードに勝っていた。
やがて、二人はレイク教授の背中を見る。だが、すぐに見失う。
レイク教授のいた場所に足早に向かうと、そこには巨大な洞穴が開いていた。それはシィヤピィェンの通り道に似ている。
進むか戻るか、信介は逡巡する。
救助を求めるのがセオリーとしては正しい。レイク教授の救出は救助隊に任せるべきだ。
そうは思うのだが、そんな選択は選べそうになかった。目の前の人間を見殺しにする、そんな拒否感が信介にはあった。
なによりも、レイク教授を見捨てるのは友達を捨てるに等しいと思えてならなかった。
「この穴を進むけど、ついてくるか?」
信介は幼児と化したエラリィに尋ねる。エラリィは言葉を発せず表情も変えないまま、右手を突き出し、親指を立てる。肯定のジェスチャーだ。
信介はその仕草に頭を頷かせて答える。
二人は手をつなぎながら洞穴を進む。
信介は頭にヘッドランプを取り付け、暗闇を照らす。エラリィにも同じようにヘッドランプを付けておいた。目の前が真っ暗だと混乱する危険があるが、こうすればその可能性も少し減る。
幸いにも一本道だったため、大した時間を使わずにレイク教授に追いつくことができた。
信介は音を立てずに彼に近づき、その両肩を掴む。
「レイク教授、早く戻りましょう。助けを呼ぶんです」
信介は幼児に言い聞かせるのと同じようにレイク教授に言葉をかける。
それに応じてレイク教授が振り返った。
「……ぁぉ!?」
信介は言葉を呑む。
レイク教授の顔には、穴という穴、すなわち、目、口、鼻から巨大な蟲の卵が産みつけられていた。その卵はもぞもぞと動き、こちらを威嚇しているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます