⑨夢の解釈と朝ごはん

「信介君、君の心の強さには一目を置いていますが、そこはシィヤピィェンの肉塊と一体化してよかったところですよ」


 レイク教授はいつものにこやかな口調で言った。受け入れがたい言葉だが、それを本心で言っていると、信介にはすでに理解できるようになっている。


「すみません」


 形だけでも謝った。というのも、信介が肉塊をぶん投げた後、肉塊はその行方を眩ましたからである。


「冗談です。本気にしないでください。でも、ひとつわかりましたね。あの肉塊は意思を持っていて移動することができる。これは大きな収穫ですよ。そして、その痕跡から後を追うこともできるはずです」


 レイク教授の言葉通り、テントからは引きずるような痕跡が遺されていた。肉塊が通った後に違いない。


「でも、興味深いのは信介さんの見た夢ですね。実は私もクトゥルーといにしえのものの戦いの夢を見たのです」


 エラリィ女史の語るところによると、信介の認識した神とはクトゥルーであり、指揮官が古のものであるという。無意識のうちにクトゥルーと古のものの最終戦争の様子を夢で見ていたのだ。

 そして、古のものが主力として使用した不定形生物がショゴス、苦し紛れの奥の手として出した毛むくじゃらの軟体生物がシィヤピィェンであるという。


「二人がそろって同じ夢を見るというの興味深いですねえ。でも、私は見ていない。なぜでしょう。さびしいことです」


 話が進むにつれ、なぜかレイク教授の表情が曇っていく。


「夢に意味なんかないですよ。とっとと出発しましょう」


 信介は面倒くさいことになったなと思いながら声をかける。

 そう言いながらも朝食の用意をしていた。トーストにハムとチーズを挟んだホットサンドだ。

 並行して湯を沸かし、コーヒーの準備もする。


「でも、私の夢にはシィヤピィェンは出てきていないんです。これはお肉の影響があるのではないでしょうか」


 エラリィが補足する。

 レイク教授は少し考えて、言葉にする。


「クトゥルーがテレパシーを使うというのは20世紀初頭にも前例があります。シィヤピィェンがテレパシーを使うというのもすでに経験済みのことです。

 信介君が見た夢はクトゥルーとシィヤピィェンのテレパシーが干渉し合ったゆえのものであると、考えられますね」


 レイク教授は差し出されたパンを口に入れ、コーヒーで流す。


「ここには二つの存在がいますよ。クトゥルーとシィヤピィェンです。それぞれ、別の思惑を持った相手です。いよいよ出てくると思っておいてください」


 信介とエラリィはその言葉を聞きつつ、ホットサンドを胃の中に押し込むのであった。

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