第28話 三強バトルログ② 2位vs3〜9位

 次いで俺は葵のバトルログを見ることにした。


 葵と斑鳩のバトルでフチカが言っていた、『本気になったときの弾幕』を見るために、葵の本気が見られるログを探して片っ端から再生していく。


 そして見つけたのが、プライベートマッチで遊び半分に組まれた、ナンバーズ八人のマッチ。


 内訳は2位から9位といった、ランクマで有ればプラチナチケット間違いなしの豪華なメンツが並んでいた。


 場面はマッチングフェーズ。八人が円形に並ぶ所から始まっていたが、八人が集合した光景はカオスそのものだった。


 上から数えていくと、オタク2位3位バイクスーツ4位天使5位魔王6位ギャル7位お嬢様8位、付き添いの老執事9位


 時代が時代ならコミケの会場を撮影しましたと言われても納得の行く光景だ。特に葵のテンプレなオタク姿がそれに拍車を掛ける。


 ただ、コミケというには7位のエミリアの恰好、ギャルっぽさ満載の出で立ちは違和感が凄い。


 茶髪のサイドテールに、上はワイシャツ。腰には茶色のカーディガンを巻いておりその下には赤チェックのプリーツスカート。ソックスは見事にルーズで靴は勿論ローファー。


 顔立ちもそれっぽく、ケバい化粧などはしていないが大きな目は吸い込まれそうになる。その目はエメラルドグリーンの下地に、トランプのダイヤを尖らせたような黄色い十字が入っていた。まるで椎茸である。


 そんな彼女はややオーバーな表情で、対照的に無表情極まりないフチカとなにやら喋っていた。その光景を、不愉快極まりないという表情で白亜が見ていた。


 正確に言えば、断りもなく自分のテーブルに着いた二人と、彼女たちに椅子を用意した自身の執事に苛立っていた。


 なんで私がこんな家柄もない二人と一緒のテーブルに着かなければならないのか、そんな思いを籠めて彼女は目の前のギャルを見殺そうとばかりに見つめた。


「で?なぜ貴方たちが私と同じテーブルに着いているのかしら?」

「何で…って、その方が楽しいじゃん?」

「……確かに……」


 あっけらかんとして答えるエミリアの答えにフチカが同意すると、それみたことかとエミリアはドヤ顔で白亜に物申す。


「ほらー!ふっちーもこう言ってるし、皆で飲んだほうが楽しいっしょー」

「はー……なんで貴方達もわたくしと同じものが飲めると思っているのかしら?……黒斗」

「はい、お嬢様」


 白亜は苛立ちながらも自身の後方に控える執事に命令する。彼は名前を呼ばれただけで主が何を望んでいるのか分かったようだ。


「こちらをどうぞ」

「わー!アザーッス!」

「……私はいいや」


 フチカは何かを感じ取ったのか、目の前に出された紅茶のカップに手を付けないでいた。反面、エミリアはまってましたと言わんばかりに口を付ける。


「そちらはコンサータ入り紅茶でございます。エミリア様がお気に召したら良いのですが」


 ブーーーッ!とエミリアは口にした紅茶を吹き出し、対面の白亜を彼女の瞳と同じ紅茶色に染めあげる。


 その飛沫を真正面から受けた白亜は老執事に全身を拭かせながら怒りを露わにした。


「なにするのよ!」

「それはあーしのセリフっしょ!なんてモン飲ませんの!?」


 ちなみにコンサータとはADHDの薬であり集中力の増大などの効果を持ち、服用してFPSするとキルレが上がるだなんて言われている。


 それは本当のことで、大会で使用した事がバレたら即刻失格判定を受けるほど効果が強いのだ。ドーピング、ダメゼッタイ。


 そんなこんなでマッチングフェーズは終わり、待機フェーズが開始される。ステージは閑静な住宅街だったが、全員準備はとうに出来ているらしく暇な為通信で話し込んでいた。


「いやー、皆様お集まりいただき誠に感謝致しますぞ。楽しく、ルールを守って殺り合いましょう」

「にしても!全はまた欠席か!」

「ふん……あの冷血漢には我らの全てを持ってしても敵わぬ。そんな相手と闘って楽しめるとでも?」

「ルーちゃんの言うとおりだよ斑鳩。勝負にならなくなるからコレでいいでしょ」

「うむ……それも一理あるな!にしてもルーデシア、流石に全には全てを持ってしても勝てないだなんてダジャレ、俺でも思いつくが流石に言わんぞ!」

「んなっ……!ダジャレじゃないもん!」


 葵とレッコラ勢の三人を含めた四人はいつもながらの会話だと言わんばかりのやり取りをしていた。


 それに加えて、先程テーブルにて漫才めいたやり取りをしていた女子三人と老執事一人の内、物静かな二人を除いた二人はぎゃあぎゃあと言い争いをしており、グループ通話特有のカオスな状況になっていた。


 それは待機フェーズが残り1分を切るまで続いたが、残り1分きっかりに会話はパタリと止む。


「こういうの、天使が通ったって言うんだっけ?」

「ゆーちゃんちょっと黙って。集中させて」


 結局、戦闘フェーズが始まるまでの会話はそれっきりになった。


 戦闘フェーズに入り、俺は葵のログにフォーカスする。


 立ち並ぶ一軒家の軒下に転送された葵は移動できるようになると直ぐさま屋根の上へと上り視界と射線を確保する。


「さて、これだけの人が拙者の誘いに乗って来てくれた訳ですしな、少し……本気を出すとしますかな」


 葵はそう言って、右手に四つ左手にも四つ、計八個のサイリウムを指の間に挟むようにして持つ。


 前に彼女から説明を受けていたが、このサイリウムはスローイングナイフにスキンを被せた物であり、構え方としてはコレが正しいのだろう。


 ともかく、葵はそれらを振り払う右腕の遠心力に手首のスナップを加えて投げ飛ばす。


 だが、手元から離れたサイリウムたちは前方に飛んでいくわけでも無く、重力に引かれて落ちるわけでも無く、ただただその場に留まっていた。


 まるで時を止めナイフを投げる某吸血鬼の様な芸当を披露する葵は次に、もと来た道を戻るかのように右腕を振り、また四つ投げ放つ。


 ……何かがおかしい。武器のリロードの速度に差があるとは言え、一秒も経たずに次のサイリウムをリロードし、それを投げることは出来ないはずだ。


 一度そのシーンをコマ送りにして再生してみるが、サイリウムを投げた次の瞬間には元通りに四つのサイリウムが握られていた。


 本当に次の瞬間フレームなのだ。この時代の動画はどれくらいのFPSを誇るかはわからないが、コマ送りにして再生しても、サイリウムが手から離れた次の瞬間フレームには既にその手の中に次のサイリウムが握られていた。


 リロードが速いなんてものじゃない。0秒で終わっている。


 その為、忙しなくサイリウムを振る葵の姿はライブ会場で見るヲタ芸そのものだったが、その周囲には既に千を超えるほどのサイリウムが浮かんでいた。


 忙しなく動く葵を中心に、ドーム状にサイリウムが次々と出現し固定される。もはや、中心に人がいるのかどうか判別がつかないほどの密度を誇るほどまでに増殖したそれらは優に万を超えるだろう。


 もしや、それらを一斉に操るとでもいうのだろうか。フチカでさえ百程が限度なのに、その百倍以上の弾丸を自在に操るなんて、正に桁が違う。


 そんな事を考えていると、ドームの上部が開き円柱へと姿を変える。止まっていたサイリウムたちは葵を中心に、円を描くようにぐるぐる、ぐるぐると動き出していた。


 その光景は、さながら弾幕シューティングの敵キャラのようだった。


 そんな彼女を討とうと葵以外の七人も屋根へと登る。彼らは互いに撃ち合う前にまずはこの場で一番の脅威である葵を落とそうと協力する素振りを見せていた。


「チィッ!完成間近だ!なんとしてもそれより前に叩いて落とすぞ!」

「……そんなこと、言われなくても……分かってる……」


 500mほどあろうかという距離を、自慢の脚力で縮めようとする斑鳩に、牽制の為に弾丸を飛ばすフチカ。


 その弾幕は70発と通常のプレイヤーと比べた場合は多いものの、対峙する化け物相手では天と地の差だった。


 葵はフチカの弾幕に応戦するとともに、近寄ってくる斑鳩の足を止めるべく万あるサイリウムをそれぞれに千ほど飛ばす。


 一気に二千ほどの弾を失うが、ものの数瞬で補充されるため葵の周りを取り巻く弾幕は依然として中身が見えないほどの密度を誇っていた。


 そしてそれは突如として形を変える。


 八つの頭を持つ大蛇となって、天へとその首を伸ばす。それら首の根元が本体である葵から離れると、サイリウムの群体は対峙する七人へと向かう。


 一つ一つが触れると爆発する誘導弾が、幾千もの群れを為して迫りくる光景は、正に暴力の権化と言えるべき物であり、生半可な実力では到底太刀打ち出来ない事を示していた。


 相対する七人それぞれに一頭の大蛇が向かう形になるとそれは縦に裂け、相手を囲う様に、正しく先程まで葵の周りを回っていたように5m大のドームを形成する。


 サイリウムのドームは徐々に規模を狭めていき、数秒も立たないうちにドームを形成するサイリウム一つ一つが断続的に爆発して姿を消す。


 ドームの中には、先程まで居たであろう相手の姿は無く、既に葬られたであろう事を示していた。


 こうして一対七の勝負は、誰も葵に指一本触れることなく終わった。

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