第6話 化石スマホ

「なんで射撃形態に移行するのに十秒もかかるんだよ!?あれか?ベ○ターキャノンでも呼び出そうとしてんのか!?」


 爆死してから数分後。再びログインし直して葵の目の前に降り立った俺は不満をぶちまけた。だが葵はそんな俺に思案顔で言う。


「最低保障の十秒となると、恐らく……スペック不足なのかと。拓人氏、視界の端にスマホのスペックが見えていましたのにはお気付きですかな?」

「あー…確かにあったな。本人だけに公開と書いてあったから何かプレイングに関わってくるとは思ってたがそうなのか?」

「ご指摘の通り、スマホのスペックはプレイングに大きく関わりましてな……」


 そう前置きした葵の説明をまとめると、以下のような影響があるらしい。


 CPU    遠隔武器のリロード速度

 RAM    形態切り替え速度

 ROM    オプションの多さ

 バッテリー 攻撃力、シールドの強度


 さっきの警告に出てきた「メモリ」はRAMのことで、この時代のスマホであれば遅くとも一秒あれば形態変化は終わるらしい。


 ということは、十秒もかかる俺のスマホはダントツで遅く、それだけスペックが低いことが伺える。


「端的に言ってしまえば『化石』ですな」

「しゃーないだろ。200年物なんだぞ?」


 化石。本来であれば地中に埋まっている、古代の動植物の死骸のことを指すが、それが転じてPCやスマホ界では著しくスペックの悪い、前時代的な端末の事を指す。


 そう言われるのも納得だろう。なにせ俺のスマホは200年前に製造されたものなのだから。本当の意味での化石と言われても納得が行く年月だ。


 なのに何故、バッテリーだけSSなのだろうか。その疑問を葵にぶつけてみる。


「200年前のスマホにしてはバッテリーの値が異常に高いのが気になるが」

「パークがない状態、すなわち素の攻撃力が異様に高いと思いましたがやはりバッテリーの評価が高いとは……となると近接ビルドを勧めるべきか……とと、失敬。何故バッテリーの評価だけ高いのかという話でしたな。その答えは至極簡単なものでして、今の時代、スマホにバッテリーを載せて造るのは違法になったからですな」


 バッテリーを載せて造ると違法。どんな経緯でそんな状態になったのだろうか。そして、バッテリーを積んでいないのならどうやってこの時代のスマホは動作するのか。


 そんな2つの疑問を見透かしたように、葵は説明を続ける。


「バッテリーが禁止になった経緯に関しては長くなるので今は割愛しますぞ。ちなみに、過去に作られたスマホでバッテリー搭載の物はセーフ、つまり拓人氏のスマホは大丈夫でござる。では何故拙者のスマホが動いているのかというと、バッテリーに変わる技術が広く浸透した為でござる」


 超長距離非接触給電。それがバッテリーに変わる動力源らしい。


 マイクロ波を飛ばしてバッテリーを介さずに給電する技術のことで、この時代では至る所で使用できるようになっているため電子機器を稼働させることが出来るらしい。


 似たような技術の話は俺の居た時代にも確かにあった。


 部屋に入るだけでスマホを充電できるという部屋を、2020年辺りに発表した団体があった。


 だが実験段階で人体への影響が懸念され、実現は難しいだろうとされていたはずだが、技術が進歩し問題無くなったのだろう。


 ともかく、そのような背景があるためこの時代のスマホはバッテリーを積んでいないのだ。


「正直言って、拓人氏のスマホはこの時代のそれに比べてあまりにも貧弱で真正面からぶつかれば勝ち目が無いのは必定。この目でそのスペックをしっかりと見たわけではありませぬが、おおよそバッテリー以外全部E評価ですな?」

「そうだ。さっきの話を聞く限り、コイツは攻撃力は高いが射撃には適せず補助武装のオプションもあまり多くは使えない、近接戦闘でしか使えないシロモノといった所か?」


 そうであれば話は早い。詰まる所、前の様にナイファーとして銃を禁止するプレイングをし、パークもそれ特化のものにすれば良いのだから。


「そうですなぁ。先程クラスをファイターにしたのも近接武器適正を上げるためですしな。ならば、拙者がファイターとしての戦い方をみっちりと叩き込んで差し上げましょう」

「助かる。正直言ってルールが全く分からん」


『では本機から基本的なルールを説明させて頂きます』


 そう前置いて、バウゼルはルールを事細かに説明し始めた。


『本ゲームはマッチングフェーズ、待機フェーズ、戦闘フェーズの3つの段階に分かれて進行します。


 まずはマッチングフェーズ。サーバー内からスコア、つまりは腕前が同じだと評価された8人が選出されこのフェーズで実際に顔を合わせます。


 この時点では武器の使用は禁じられており、スマホには各プレイヤーの情報が記載されます。なおゲームのどのフェーズにおいても他プレイヤーの情報の内把握できるのは『名前、クラス、過去の最高戦績、攻撃力、射撃力、二つ名』だけとなっております。


 次に待機フェーズです。マッチングフェーズ終了後にプレイエリアへ飛ばされますが5分の待機フェーズを挟み、すぐには戦闘することは出来ません。この時点で許可されている行動は『周囲の状況把握、ゲームで使用するパークの選定、最初にロードする武器の選定』のみです。


 最後に戦闘フェーズですが、下記のルールに従って他プレイヤーを倒して行き、生き残れば勝利となります。


 ①近接と遠隔、2つの武器とグレネードなどの補助武装オプションを切り替えながら戦います、スマホのスペックがそれぞれの行動の速度や量を左右します。

 ②8つのパーク、すなわち特殊能力を選択し戦略に幅を持たせます。

 ③戦闘フェーズが始まると事前に決めた武器がロードされます。このロードはスペック問わず即時完了します。

 ④すべての形態で身を護るためのシールドが使えます。発動速度にスペックは影響しませんが、強度はバッテリーに依存します。


 以上で説明を終了します。待機モードへと移行します』


 バウゼルは説明が終わると押し黙ったが、代わりに葵がコツを話し始める。


「三つ目と四つ目が肝ですなぁ。スペック問わない初回のロードで近接武器を形成し、バッテリー補正でガッチガチに硬くなったシールドを効果的に使う戦法が一番向いているかと。ちなみにシールドは念じれば出ますぞ」


 シールド、そう念じると目の前にすぐさま半透明な緑の六角形が出現した。大きさは上半身を覆える程度で、厚みは拳一個分。


 試しにノックしてみると、コンコン、とガラスを叩いたような硬質な音が小気味良く鳴る。その様子を見て葵はフリーズしていたが、絞り出すようにして呟いた。


「え……これがシールド?流石にこれは予想外というか規格外と言いますか……」

「規格外と言われてもそもそも規格内がわからないんだが?」

「本来であればこれくらいなのですがな……」


 そういって召喚した葵のシールドは大きさこそ俺とほぼ同じであるものの、厚さの違いは一目瞭然だった。それは小指の爪の半分程度しか無く、思い切り叩けば割れてしまいそうで頼りない。


「ざっと見積もって十倍ってところか?」

「そうですなぁ、これにパークの強化が乗るとなると……相手にはしたくないでござるな」

「シールドを強化するパークもあるのか。というか設定はどこでやるんだ?」

「先程4つ並んでいたアイコンの内、スマホアイコンからいけますぞ」


 葵の言う通りにスマホを操作しperk設定を開くと、その量に度肝を抜かれる。


 二列に表示されたそれらはいくらスクロールしようが終わりが見えず、右端に表示されているスクロールバーがミリ程度にしか表示されていないこともその量が膨大であることを物語っていた。


 この中から探すのか、という気持ちとどのような組み合わせにしようかと期待感が入り混じりながら俺はスマホとにらめっこを始めた。


 ――――――――


 それからしばらくして、道路の真ん中に座り込んだ俺はふと思った疑問を葵にぶつける。


「頭に【D】って書かれているものがあるが、なんだコレ?」


 俺と向かい合うように座り込み、うつらうつらとしていた葵は目を覚まして答える。


「デメリット付きの物ですな。効果とデメリットは様々でござるが、総じて通常の物より効果は高いですぞ」

「なるほど。最初から遠隔武器は捨ててる俺にとっては遠隔関係のデメリットが付いた物はノーリスクってことだ」


 その回答を貰い選別を再開する。軽く千を超え、一万ほどあるパークから目当てのものを探しては有効化する。そして出来上がった構成がこれだ。


 脚力向上

 動体視力向上

 身体能力向上

 シールド枚数増加

 シールド強度倍加

【D】身体能力向上(−射撃武器使用不可)

【D】シールド枚数増加(−リロード速度倍加)

【D】シールド強度倍加(−形態変更速度倍加)


 シールドの枚数を三枚に増やしつつ強度も上げる。デメリットとしてあげられるのは実質射撃武器使用不可だけだが、十秒もかかる形態変化をした時点でほぼ詰みなのだから問題ない。


 その形態変化も倍加のデメリットがあるが先程葵が「最低保証の十秒」と言っていた為変化は無いだろう。


 つまり実質ノーダメなのだ。


「こっちの準備は終わったぜ」

「ん、ああ、終わりましたかな。では早速実践と行きますか。スマホアイコンを選択し、マッチングをタップすればマッチング開始ですぞ」


 こうして、俺の初めての試合が始まった。

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