第5話 未来のゲーム

 気がつくと、風景は近未来的な2242年のそれから元の時代2000年代に似通った物へと一変していた。


 アスファルトで塗り固められた道路、路肩に停まっている軽自動車。赤や青の瓦を備えた一軒家に少し離れたところに建つ大きめのマンション。


 閑静な住宅街といった風景に、俺はたった一人で突っ立っていた。


 そんな俺の格好もこの場にはそぐわないもので、迷彩柄の上下といったどこぞの兵士かと思わせるものの、その癖手元には銃一つすら無く右手にスマホしか持っていない。


 それも今置かれている状況のチグハグさを増長させる要因の一つだった。


 仕方なく手元のスマホを覗き込むと、画面には4つのアイコンが東西南北を指すかのように並び、中央からそれぞれに向かって矢印が伸びていた。


 それらは時計回りに上から剣、銃、スマホ、OPの文字といった4つで、それぞれ何に使うのか意味はサッパリである。


aoi:あーあー、聞こえる?聞こえてたら返事して。


 視界の右下、いつの間にか表示されていたウインドウに葵からのものと思われるメッセージが表示される。


 入力方法がわからないなりに、先程の脳波でコントロール出来るという言葉を思い出しそのウィンドウに目線を合わせながら念じると、見事に返答することが出来た。


tact:聞こえるというよりか見えてる。チャットみたいなもんか?

aoi:そうね。流石にプレイ中は使えないけど……少し待ってて。私も今ログインするわ。


 そういうものなのか、と一人納得し葵が来るのを待ちながら、ゲームのHUDさながらに表示される情報をぼうっと眺める。


 視界の左下には俺のステータスらしきものが表示されていた。


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 ネーム:tact

 クラス:ファイター

 打撃力:1000

 射撃力:1300

 戦績:未記録

 二つ名:なし


[以下本人にのみ表示]


 適用パーク

 なし


 使用機器:X-phone firstmodel limited edition

 スペック

 ・CPU…………E

 ・RAM…………E

 ・ROM…………E

 ・バッテリー……SS


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 俺だけに表示される項目が有るということは、ゲームのプレイに何かしら影響するのだろう。


 使っているパークなんて公開したらそれだけで自分がどのようなプレイをするのか丸分かりになる。


 使用機器やそのスペックに関しても恐らく何かしらに影響するのだろう。バッテリーの値だけ凄いことになっているが、そこは気にしないでおく。


 実際、この機種は一回の満充電で一週間使える、をコンセプトとして作ったとあのクソ親父から聞かされていたしな。


 そんな考え事はある一通の通知で遮られる。


『フレンド:aoiがログインしました』


 俺の目の前に光の柱が出来た次の瞬間、オタクのアバターに身を包んだ葵が降りてきたと思えば見事な敬礼をする。


「ややっ、待たせてしまいましたな。失敬失敬」

「いや、それはいいんだがココどこだよ……というかまたそのアバターか?」

「まずこの場所についてですが、まぁトレーニングルームとでも思って下され。あと、現代人たるもの外行きの格好アバターと部屋でゴロゴロするときの格好アバターは分けておくべきですぞ。後で拓人氏もアバクリしてみては?」


 アバクリ。また聞き慣れない言葉が出たが、文脈的にアバタークリエイトあたりの略語だろう。


「あー……まぁ、後でな。それよか今はこのスマホの使い方だ。教えてくれないか?」

「そうでござったな。拙者がやってみせますのでそれに続いてくだされ」


 そう言う葵の左手には俺のよりも幾分薄いスマホが握られていた。厚さにして3〜4mmといったところだろうか。


「これを『てやっ』とスワイプするとですな……」


 それの画面を俺に見せるようにして葵はスマホを操作する。右の人差し指で画面の上方に有る剣のアイコンへとスワイプさせた。


 それと同時にスマホが光に包まれてその形を変えてゆく。そして光が収まりその全貌が明らかになるのだが……


「いやおかしいだろ!?」


 スマホが変形したのは、葵のアバターが背負っていたビームサーベル、すなわち丸めたポスターだった。


「これは失敬。武器のスキン適用しっぱなしでしたな。スキン解除っと……これが武器本体のハンサム顔でござる」


 その台詞言ったキャラも外見変えること出来ましたね、なんてことを思いながら葵の左手に握られている武器を見ると、なんの変哲もないサバイバルナイフだった。


 刃渡り30センチ程度のそれは近接武器として扱うには十分であるものの、刃渡り(ポスターに刃が有るのかという疑問は置いておき)50センチはあろうスキンを適用するとなると距離感を掴むことは困難だと思われる。


「つまり、選択したアイコンによってスマホが変わり、武器になるってことか」

「そうでござる。剣なら近接武器に、銃なら遠隔武器に。スマホアイコンは後ほど説明するとして、OPはオプション、グレネードだったりドローンだったりから選択できるものに変化しますぞ」


 それらを使ってFPSを行うということか。スマホアイコンの詳細は気になるものの大体はわかった。


 試しに俺も近接武器に変化させてみると、鞘に収まった日本刀へと変化した。


 それを見て内心安堵する。尖ってて光ってて色々はみ出してるような、「外見がクソダサいのに性能が良すぎて外せない武器」というネトゲあるあるなことにならなくて本当に良かった。


 刃渡り60センチはあるだろうそれは近接武器としても十分扱える物であり、メインウェポンとして使っていけるだろう。


「ちなみに、スマホによって変化する武器は変わりますぞ。いわゆる武器ガチャですな」

「武器ガチャ!そこだけやけに2020年代のスマホゲーっぽいな!?」


 爆死するスマホゲーの条件の一つに武器ガチャがあるというのが俺の持論だ。残りは豪華声優陣やらストーリー量○万字やら組み合わせは○万通りやらアピールする物だ。


「まぁまぁそう言わずに。お次は遠隔武器の方も見せて頂けますかな?おっと、まずはその前に拙者の遠隔武器の紹介からしないとですな」


 葵の手にはビームサーベルから元に戻ったスマホが握られていたが、それも今まさに光に包まれて姿を変えようとしていた。


「さぁ、ご照覧あれ!」

「……どうしてそうなるかなぁ…」


 光が収まり、葵が構えていたのは色とりどりのサイリウム。アイドルとかのライブで配られる、光るペンライトみたいなアレだ。


 サイリウムを投げて攻撃するなんて、ゲームのキャラでも一人しか知らない。なぜそんなことをしようと思ったのか理解に苦しむが、あえて突っ込まないことにした。


「ちなみにこれ、もとはスローイングナイフでござる。なのでこうやって指に挟み、投げて攻撃するのですな。今から攻撃しますゆえ、拓人氏も遠距離攻撃で対応してくだされ」


 葵はそう言うとヲタ芸をするときの様に、サイリウムをそれぞれの指の間に挟んだ状態で後ろに飛び退きつつ、俺との距離を十分に取っては手首のスナップを使ってそれらを器用に投げ飛ばす。


 四本のサイリウムはそのまま直進するかと思いきや、突如それぞれが別の軌道を描いて散開、上下左右に多角的な射線を描いて俺へと迫りくる。


 撃ち落とす為に俺もスマホを射撃形態へと変形させようとするが、バウゼルから待ったがかかる。


『警告 変形に必要なメモリが確保出来ません。射撃形態への移行には10秒掛かります』


「じゅ、じゅうびょおぉおおおう!?」


 こうして攻撃に対応出来なかった俺は、迫りくるサイリウムの爆風に巻き込まれ、C○Dの迷翻訳を口にしながら爆死した。

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