温泉の名所で休養
そこは竜人の国近くにあるとされる都――ニュウヨーク。そこには数多の効用を持つ温泉が多くの箇所で湧き出て、それを観光資源としている都である。
その都には多くの観光客が足を運んでいた。大勢の観光客が温泉を楽しんでいる様子だった。
「うわーーーーーーーーーーーーー! すごいです! たくさん人がいます!」
「ええ。本当ね」
「それにしても皆さん変わった格好をしていますね」
皆同じような服を着ている。どれもひらひらとした軽そうな服であった。
「あれは浴衣というんです」
「浴衣ですか?」
「はい。言わばパジャマのようなものでしょうか。温泉に入浴しやすく、楽な恰好なのでリラックスできる。そういう胴着です」
「へー! 流石はシオン先生です! 物知りなんですね!」
「いえ。大した知識ではありません」
「それでは二人とも行きましょう。旅館を貸し切りにしてるんですよ」
「わーい!」
「いっ、いいんですか? 旅館を貸し切りなんて。結構お金がかかったのでは」
「シオン先生はそれだけの事をしているのです。少しくらい贅沢をしたって罰が当たりませんよ」
「ええ……そうですか」
こうして遊んでいるだけでも罪悪感にかられているというのに。国民の血税を無駄遣いしているという感覚が余計に私を苦しめる。
「もう! シオン先生! 今回は休養なんですから、仕事の事は忘れてぱーっと楽しまないといけないんですよ!」
「わ、わかってます」
「ならいいです」
「では参りましょうか」
私達は貸し切りにしている旅館を訪れた。
◇
「ようこそいらっしゃいました。温泉旅館『白銀温泉』へ。私が若女将です」
そういって美人の若女将さんが挨拶をする。床に膝をつき、深く頭を下げる。
「ええ。一週間の滞在ですがよろしくお願いします」
「はい。当従業員が精一杯の真心を込めてお持て成し致します」
「さて、とりあえずは部屋に荷物を置いて温泉に入りますか」
「ええ」
「当旅館には様々な水質の温泉がありますので堪能していってくださいませ」
こうして私達は部屋に荷物を置き、温泉へ向かった。
◇
「ふう~……良いお湯です」
私は温泉に入りリラックスしていた。確かにいいものです入浴とは。気持ちがいい。
それに肩こりや腰痛などにも効果がある泉質らしいです。
血行もよくなっている感じがします。
こうして温泉に入り、気を緩ませると自分がどれだけ疲労していたかを実感します。
気を張って誤魔化して疲労から目を背けていたのだ。
倒せるのも必然であった。まったく、医者としてもっとも身近にいる人間のケアを怠るとは。
灯台下暗し。意外と人間は自分の事をわかっていないものだ。自分という存在は客観的に見えないものだ。
倒れるのも必然であった。
「獣人国の患者様には悪いですが、この一週間は羽を伸ばさせて頂きましょう」
それに『ブラック・リベリオン』の問題もあった。貴族と結託して獣人国を植民地化しようなどと、もはやギルドの域を超えた悪行だ。
とても看過できるものではない。いずれは何かしらの手を打ち、連中の悪行を止めなければならないだろう。
逃げ出したアルバートとレイドールの事も気にはなるが個人の影響力などそうは大きくはない。やはり背後にある組織の力は侮れないものがあった。
「あっ! いたいたっ! シオン先生!」
「シオン先生、お待たせしましたっ!」
「な、なっ! ななっ!」
私は自分の顔が急激に赤くなったのを感じた。血が昇っていく。
ユエルとミシェルが平然と温泉に入ってきたのだ。当然すっぽんぽんだった。
たゆんたゆんとその豊満な乳房を揺らしていた。
改めてこう二人の膨らみが並ぶと発見がある。
やはり親子は遺伝するのか。胸の形とかもよく似ている。
って、そうではない! 何冷静に分析をしているんだ! 私は!
「な、なぜユエルさんとミシェル様が入ってきているのです! ここは男湯ですよ!」
「先生、貸し切りですから男湯も女湯もないですよ」
「ええ。その通りですわ。シオン様」
「だ、だからってなぜ私が入っている温泉に入ってくるのですか!?」
「シオン様。温泉には混浴という、男女の垣根なく入浴をする文化があるらしいんです」
「先生も一人っきりで温泉に入るの淋しいですよ! わたし達と一緒の方が淋しくないです! きっと楽しいです!」
「た、楽しくはありません! き、緊張して恥ずかしくなります!」
「あら。先生は仕事で女性の裸なんて見慣れていると思っていました」
「そうですよ。それに一度診察で見ているじゃないですか」
「それは仕事での話です! プライベートはまた別なんです!」
獣人の王妃と王女との混浴ではとても心も体も休まる気がしませんでした。
◇
夜の事であった。それはおいしく食事を頂いた後の事。
「皆さん、知っていますか?」
若女将は神妙な口調で語りだした。
「何をですか?」
「出るらしいんですよ」
「出る?」
「近くの裏庭で、夜になると何やら怪しげな鳴き声が聞こえてくるそうなんです」
「それって、もしかして……お化けですか?」
「正体はわかってはいませんが……もしかしたらそうかもしれません」
「シオン先生! 幽霊なんでしょうか?」
「わかりません……幽霊(ゴースト)というアンデッドも存在しますから。その可能性もあります」
「肝試しという文化があります。怖いところに自ら足を踏み入れる事で、胆力を試すんです。さらにはドキドキとハラハラで異性との距離が急に縮まっていきます」
「吊り橋効果ですか」
「吊り橋効果?」
「詳しい説明は省きます」
「それで、よろしければどうでしょうか? 夜には肝試しでも行ってみては」
「いかがされます?」
「面白そうです! 行ってみましょう」
「わたしは遠慮するわ」
「ええ!? なんでお母様いかないんですか!?」
「うふふっ。娘の恋路を邪魔するほど野暮な母親じゃないのよ」
ミシェルは笑みを浮かべた。
「な、なにを言っているんですか! お母様! 確かにわたしはシオン先生の事を愛していますし! 尊敬もしています! 大好きです!――けど」
ユエルは顔を赤くしていた。
「ゆくゆくはそういう関係になっていけたらいいとは思ってますけど、今はその時じゃないっていうか。シオン先生には今そういう事にうつつを抜かしている暇はないんです! もっと大切な使命があるんですから!」
「いいからユエル。たまには自分の気持ちに素直になる事も重要よ。シオン様、娘のユエルをよろしくお願いしますね」
「わかりました。ではユエルさん、一緒に肝試しに行きましょうか」
「は、はい。わかりました。先生」
こうして私はユエルと二人きりで肝試しに向かう事となった。
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